面会(2)

 その夜、ぼくはとある暴力団組織の事務所に戦争をしに行った。

 アイビーではさほど大きくない組織だが、現在急速に成長していた組だった。その資金源の大部分がクスリと銃の密売。先日、港に仕入れられていた銃にも関与しており、アイビー市における暴力団組織大多数から悪意を買っていた。って、これは言い訳。ぼくはお金のために戦争しに来ていた。それだけは揺るぎない。金が必要だからぼくは暗殺の依頼を引き受けた。

 昔、ぼくは素朴な疑問を兄さんに投げかけた。

 どうして貧乏と裕福に分かれるのか、と。すると兄さんは『資本主義だから』だと返した。けれど、共産主義は人間に向かないからダメらしい。曰く、お金は盗みあっているのだとか。当時はさっぱりな言葉だったけれど、今は少しだけ理解できる気がする。

 怒声と罵声と銃弾が飛び交う中、不意に疑問する。

 ぼくはどうしてここにいるのだろう。ぼくは何をしているのだろう。

「ひっ、化け物──」

 男の頭を潰した。

 彼は確か二万ドロスだったっけ。次に首を折った男も確か二万ドロス。おおよそ全員が二万ドロスだったけれど、組長だけは五十万ももらえる。普段の汚れ仕事ウェットワークからすれば破格の安さだが、数が数だけにいつもの仕事よりも倍以上の額だ。

『おいおい、派手にやりすぎるなよ。下手に悪意を浴びることになるぜ?』

 どうせ皆殺しだ。

 悪意も何も死の後には何も残らない。

『なんか、機嫌悪そうだな?』

「別に」

 淡白に返しながらぼくは首を傾けて銃弾を回避する。男を壁に投げ飛ばし、鋼鉄の腕で頭と壁とをサンドする。せめてもの情けは痛みを感じる間も無く、脳を壊すことくらい。

「やっぱ、銃欲しいかも」

『銃は足が付くし、もう腕なまってんだろ?』

「制御ウェアでどうとでもなるでしょ」

『あんま機械に頼ってばっかだと、俺のようにクラゲになっちまうぞ』

「それって自虐?」

『あーあ、セックスしてえぜコンチクショウ!』

「じゃあぼくが美少女に変装してあげようか?」

『やめてくれ気持ち悪い』

「自虐だよ」

『なんか微妙に意味が違う気もするが……つかお前、相当機嫌悪いのな。アヤネの言ったこと、まだ気にしてんのか?』

「別に」

 確かにアヤネの言葉は先ほどから反駁はんばくしていた。命を奪うのはどんな気持ち──?

 答え、何も感じない。自分が何も感じないことが一番胸糞悪い。ぼくが苛立っているのは、この胸糞悪い仕事をしなきゃならないということだ。

 ぼくは幼い頃、正義の味方になりたかった。ヒーローってやつだ。だけれどもやっていることはまるで真逆。むしろヒーローにやっつけられる悪そのものだ。たまにヒーローごっこをするけれど、結局ぼくはこの場所に戻ってくる。ヒーローになりきれないことも自分自身で気づいている。

 不意にぼくは自分が世界にとって必要か不必要かを自問する。そんな時、ぼくはいつも兄さんを言い訳にする。けれどもし、兄さんがいなかったらぼくはどんな生き方をしていたのだろう。思い浮かぶ答えは世界は生き辛い、世の中は難しいということだけ。

 ぼんやりと思考に耽る中、角を折れたところで鼻っ面に散弾銃のバレルが向けられた。

 やられた。一瞬そう思ったが弾は飛ばなかった。 男だと思しき人物は「おや」と発して銃口を下げた。彼はマントを羽織って、頭からカボチャをかぶっていた。

「同業者ですか。ちょっと失礼──」

 そう言ってカボチャは再び散弾銃を構え、ぼくの真横で発砲した。機械耳側でなければ、危うく鼓膜をダメにするところだった。振り返れば、部屋から飛び出ていた構成員が散弾の餌食になっていた。

「いやはや、お噂はかねがね」

 とカボチャは腰を折った。

「元祖、仮面の男さん。いや、鋼鉄の子供達スチール・チルドレンとお呼びした方がよろしいかな? あるいは第00部隊ゴーストでしょうか?」

 その名を知る人物は多くはない。

 情報屋ですら、正確な情報は掴めない機密情報である。

「誰だ?」

 カボチャは肩をすくめると散弾銃の蝶番ヒンジを開き、弾丸殻ショットシェルを詰め始める。

「誰かと問われましても、カボチャですとしか答えようがありませんねえ。あなたも同じ回答をしますでしょう? 仮面の男さん」

 カボチャは首をひねると、

「いやしかし、ただのカボチャではがありませんねえ。パンプキン仮面……いや違う。カボちゃん……これも違うな」

 カボチャは考え込む。思いついたようにポンと手を叩くと、さっと腰を落とした。両手の先までピンと伸ばして、右に左にポーズを取って、最後に万歳すると、

「そうです! 私がパピプペパンプキっ──」

 構成員が放った銃弾は後頭部を直撃し、カボチャは真っ二つに割れた。

 ゴブハァ、と言いながら地面に倒れたカボチャ男。

 しかしむくりと起き上がると、

「チミィ、打ち所が悪ければ危うく死んでいたぞ!?」

 すかさず散弾銃を射ち放ち、男を沈黙させた。それから顔を手で隠しながら破片を拾い集めて、どこからともなく取り出した接着剤で継ぎ接ぎした。模造のカボチャではなく、生のカボチャだったようで汁が滴っていた。完全には繋ぎ合わせられず、刈り上げた金髪の後頭部が見えていた。

 ぼくはさっさと仕事を終わらせて帰ろうと踵を返す。

「ちょっとちょっと、仮面男さん!? まだ話は終わってませんよ!?」

「……何でしょう?」

「そうです!? 私がパピプペペンギン! ──あ、噛んだ」

「……もういいですか?」

 ごほん、咳払いしたカボチャ男は、

「仮面男さんは見たところ、銃を持っていないようですね。組長は部屋に立てこもって、ガトリングを構えています。そこで提案です。今日のところは協力し合いましょう」

 正直、関わりたくない。

「今日のところは〝ヘッド〟に内緒でお小遣い稼ぎに来ているのです。だからその、カボチャが今日ここに現れたことは他言無用でお願いします。もちろんタダとは言いません。組長の報酬金はあなたに譲ります」

「そういうことならまあ……」

「交渉成立ですね!!」

 カボチャ男はガッチリとハグした。

 どうにも間合いの取りにくい男だ。

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