第16話 言霊の力

地面から飛び出した根がまるで鞭のように奈村たちを牽制する。


「これは危険ですね、安居さん読者サービスのためにあの根に絡め取られてみませんか?」

「店長、そんな趣味があったんですか…」


二人はすぐ目の前を根が通過しているのに落ち着いて会話を続ける。

その目には迷いがなかった。


「まぁ冗談はこれくらいにして、戦う前にあなたの事はなんてお呼びしたら良いですかね?」

『我に名前は無い』

「でしたら呼びにくいので適当に付けさせて貰いますよ。えーと、無しを反対にして『シナ』ってのはどうでしょうか?」

『シナ…良かろう、我はシナ!さぁ人間よ我の中で永遠に物語を作り体験し続けるのだ!』


更に根が伸びて奈村たちを襲う!

少し怖くなり後ろに安居は下がるが奈村は動かなかった。


「当たりませんよ」


奈村の発言通り根は奈村の直ぐ横を通過し地面を叩いた。

避けたわけではない、当たらなかったのだ。


「シナさん、あなたの敗けです。」

『な、何を言って…』

「あなたには私達を脅すことは出来ても危害を加えることは出来ないのです!」


奈村のその発言に樹は全身を揺らし動揺した。


「店長?どういうことです?」

「簡単な話です、この世界の中で永遠に物語を作って体験させたいのならシナさんは怪我をさせるわけにはいかないのですよ」

「な、なるほど…」

「そして、安居さんもお気づきの通りこの世界は言霊である程度制御できる!ここまでもそうだったようにね」


言霊とは言葉に宿る霊的な力のことである。

言葉と言うのには少なからず力が存在し発することで森羅万象に影響を及ぼすこともある。

お店においてもお客さんが来客して「いらっしゃいませ」この一言で全くの他人から取引を行う相手へと変化させることが可能と言う事実を体験している人も多いであろう。

人を好きになって告白をする、自身の目標を声に出す。

言葉にすることでその想いは見えない力となり様々な奇跡を起こす。


「だから私達は負けない!ここから本の森に戻りまた明日からお客さんと本の出会いの手助けをするのです!」


奈村の言葉に安居さんの心が暖かくなるのを感じた。

脳内に今までお店の本を笑顔を買って帰っていくお客さんの顔が浮かぶ!

自分がお客さんと本を結びその笑顔で自分も幸せになる!

その好循環の輪を今理解したのだ。


「そして、シナさん…貴方も私が助ける!」


奈村はそう言って手にしていた扇子を折り畳みポケットにしまって小さなカッターナイフを取り出す。

いつも梱包材を開封するのに使う押さえている間だけ刃が少しでる中身を傷付けない奈村愛用の100均のアイデア商品だ!


『そんな小さな武器で私をどうできると言うのだ!』


奈村は駆け出した。

そして、樹の根本へ行きナイフで『ナ』と傷をつけたのだった。

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