第8話 気付いた奈村

森を抜けると続いている歩きやすそうな一本道を真っ直ぐに進む奈村と安居さん。

左右は草原となっておりまるでここを歩いてくださいと言わんばかりにその一本道だけ草が生えてない。


そして、暫く歩くと道が続いていたのは山であった。

まさしく登山道という名が相応しいくらい勾配が急だったり木の根を足場にして進まないと進めないような道が山の上の方まで続いていた。


「それじゃ行きましょうか」

「えっ?て、店長?!」


奈村は安居さんにそう伝え歩き出す。

山ではなく左側の草原を山沿いに…

慌てて付いてくる安居さんは奈村の行動に驚いて変な声をあげて付いてくる。

女性が驚いたときに出す変な声って意外と好きな男性多いって事を女性は知らないんだよね~っと含み笑いをしながら草原を歩く奈村。

草は膝下くらいまでしか生えてないし土も見えてるから奈村は安心してどんどん進む。

慌てて後ろから安居さんが質問してくる。


「や、山登らないんですか?!」

「えっ?だって僕ら登山しに来た訳じゃないよ」

「そ、それはそうですが…」

「山頂まで行って火口に指輪投げ入れるとかなら登りますがね」


一時期流行った映画のネタを使いながら奈村は話続ける。


「目的地は山頂ではなく向こうなんでしょ?」


安居さんは答えない、いやこれはきっと…


「それに…」


そう言って奈村はゆっくりと口を半開きにしながら横を向く。

そして何かに驚いたように目を開く!

それに釣られて安居さんもそっちを見るが何も見当たらない。

そして、奈村の方を向くと奈村は安居の顔を見て笑顔でウンウンと頷いていた。


「安居さん、迂回って字は右に回るって書くと勘違いしている人がいます。それは迂回ではなく右回りなんですがここで大切なのは上から見て時計回りに回ることを右回りという事です。つまり進行方向に進むために迂回するのは左に曲がらないと右回と書いて『うかい』と読ませられないって話なのです」


安井さんは奈村が何を言っているのかよく分からないって顔をしながら奈村の話を歩きながら聞く。

やがてそれほど歩いていない筈なのに道が続いている場所に到着し再び道に立つ二人。

奈村は自身の眼鏡の鼻の上部分を左手人差し指でクイッと持ち上げてその先に一軒の小屋を視界に入れて…


「あそこで一休みしますか」

「あっハイ分かりました」


二人はその小屋の中に入る。

そして、そこにあるベンチに適当に座り奈村は安居さんに語る。


「先程の話で確信しました。安居さん、答えられない場合は答えなくて結構です。貴女、何回目ですか?」


奈村のその言葉に両目を開いて驚きを隠せなくなった安井さんは奈村を見た。

奈村はいつもと変わらぬ優しい笑みを向けたまま続ける。


「私の予想が正しければこの小屋は山を超えたところにある休憩所なのですが合ってますか?」


その質問には素直にコクンっと頷く安井さん。

だがそれは答えてはいけない質問だった。

その瞬間小屋が大きく揺れるのだった。

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