第87話 三つ巴の戦い⑥~駒確保~

 魔族エハンによってジェド達の計画はあっさりと水の泡となった。


「はぁ…面倒な事になったな…」

「でも、ここ魔族が姿を現したのは考えようによってはチャンスよ」


 ジェドのため息にシアが希望のある事を言う。


「そうだな…」


 ジェドはシアの言葉に頷くと頭を切り換えて、魔族と魔狼をぶつけるように誘導する事に頭を切り換える。


 ジェドは頭の中でどうやって、両者をぶつけるかいくつかの断片からつなぎ合わせようとする。


 ジェドは事態を最初から最後まで計画を立て、遂行するという事は苦手である。出発地点と目的地を定めたら、その間の道筋はその場の判断で変えていくというスタンスだった。


 今回の魔狼への待ち伏せも自分達が安全にエリメアに到着する事が目的であり、その場に道筋にある分岐点の一つにすぎない。


「ふん…お目出度い連中だな」


 ジェドは露骨に蔑んだ視線を魔狼に向ける。魔狼の面々は訝しがりながらジェドの言葉を黙って聞いている。


「その魔族がお前達を本気で助けるために罠の存在を教えたと思うのか?」


 ジェドはすべて分かってるぞという表情を浮かべて言い放つ。あまりにも自信たっぷりの言葉に全員がジェドの言葉に反論できない。エハンはニヤニヤという表情を崩していない。どうやらエハンはジェドの言葉を単なる悪あがきと捉えているようだ。


「そいつの目的はお前達、魔狼の抹殺だ」


 ジェドの言葉に魔狼は疑いと恐怖の混ざった視線をエハンに向ける。エハンはジェドの言葉を受けて露骨に蔑んだ視線を向ける。いや、失望したというような表情と行った方がより的確なのかも知れない。


「ふん、虫が…俺の目的がこいつらの抹殺ならなぜ罠の存在を知らせてやる必要がある?俺がこいつらの味方で無い事は認めるが、別に敵ではない」


 エハンの言葉に魔狼の面々はほっとした表情を浮かべる。だが、ジェドはニヤリと意味ありげに嗤う。


「な、なんだ、その顔は」


 魔狼の1人がジェドの嗤い顔に不快なものを感じたのだろう。ジェドに向かって敵意の籠もった目で睨みつけながら言う。


「お前らはその魔族が、残してきた仲間を皆殺しにしたのを気付いてないのか?」


 ジェドの言葉に今度はぎょっとした表情を魔狼がエハンに向ける。


「い、今の話は本当か?」


 ギリアムはおずおずとエハンに向けて言う。その言葉を受けてエハンは呆れた様にギリアム達に向け返答する。


「お前達はあの虫の言う事を信じるのか? どう考えても俺とお前達を争わせ、この場を切り抜けようとしているに決まっているではないか」


 エハンの言葉はまったくデタラメではない。というよりも完全に事実であった。ジェドは魔狼をエハンにけしかけることで、魔狼を始末させ、エハンの隙をつく、もしくはエハンの戦い方を見ると言う事を考えていた。


 ジェドは戦いにおいては現実を優先する。魔族の戦闘力は通常、人間を遥かに上回ると言われている。そのような相手に無策で挑むなどあり得ない事だ。アレンもまたその傾向が強い。2人が気が合うのは、ある意味当然と言えるだろう。


「だったら、誰か確認させれば良いんじゃないか?」


 ジェドはまったく動じず確認するように伝える。シアからもたらされた情報からエハンが魔狼の怪我人達を皆殺しにしたのが明らかである以上、エハンの思惑は失敗に終わったと見て良い。エハンがどう動くかわからないがどのような行動をとってもエハンと魔狼の戦闘は不可避である事をジェドは察していた。


(人間を舐めて皆殺しにしなければ良かったのにな…)


 ジェドは心の中でほくそ笑む。しなくても良い虐殺を行い、結果として悪手にしてしまったエハンのマヌケさへの笑いだ。


「おい、お前、ちょっと行って確認してこいよ。そんなに時間はかからないだろ」


 ジェドが魔狼に1人を指差し事態を煽った。指差された部下は不安気にギリアムを見る。


「行ってこい」


 ギリアムは部下に様子を見に行かせる事にした。魔族への不信感からの行動だったが、これがエハンと魔狼の戦闘のきっかけとなったのだ。


「ふん…黙って駒となれば良いものを…」


 エハンの口から忌々しげな声が紡ぎ出されると、様子を見に行こうとした魔狼の顔面を何かが貫く。顔面を貫いた何かは、エハンの人差し指から伸びた爪であった。顔面を刺し貫かれた男はピクピクと痙攣をくり返している。


 エハンの爪が元の長さに縮む時に、貫かれた男も一緒にエハンの元に運ばれる。エハンはその男の顔面を鷲づかみにするとそのまま握りつぶした。男は顔面を握りつぶされ、そのまま地面に崩れ落ちる。


 エハンの顔面を握りつぶした手には、男の顔の肉片が握られており、目を覆うばかりの光景だった。


「こいつの様になりたくなければあの虫を殺せ…」


 エハンの言葉にギリアム達魔狼は恐怖の表情を浮かべ、ジェドとシアを見る。だが、ジェドもそのまま飲まれるような事はしない。すかさず叫ぶ。


「そいつのように殺されたくなければ俺達と一緒にその魔族を斃そう!!」


 ジェドの言葉に魔狼の面々は不安気におたがいを伺う。そこにシアがさらに声を上げて魔狼の面々を揺さぶる。


「私達は確かにあなた達の仲間を倒したけど誰一人殺してはいないわ。でもあいつはあなた達の仲間を目の前で殺したのよ。私達を殺した後であなた達を殺さないという根拠はどこにもないわ!!生き残りたければ私達と共にその魔族を斃すしかないわ!!」


 シアの言葉は魔狼の面々の心に正論として刻まれた。あの魔族が事が済んだときに自分達を助けるという歩哨などどこにもないのだ。それよりもこの二人と協力してこの魔族を斃す方が生き残る可能性は高いと思ったのだ。


 ギリアムが頷くと魔狼の面々はエハンに向き武器を構える。その光景を見て、エハンは露骨に嘲りの表情を浮かべる。


「まぁ皆殺しにするのは変わらんからな…順番がかわるだけだ…」


 エハンの言葉に魔狼の面々はガタガタと震え出す。


(まぁ…これで、形勢は少しこちらに傾いたな)


 ジェドはニヤリと嗤った。





「兄さん、ジェドさん達…どうしてこっちに来ないのかしら?」


 『破魔』のメンバーの一人であるシェイラが訝しげな表情を浮かべ、兄のヴェインに話しかける。当初の打ち合わせでは、囮となって『魔狼』を引きつけ、こちらに誘導し、魔狼を叩くというものであったのに、その囮を買って出たジェドとシアが立ち止まり、魔狼と話し始めたのだ。


 実際にはエハンと会話をしていたのだが、エハンの姿はシェイラ達からは死角となっており見えなかったのだ。


「わからん…何かあったと考えるのが自然だな…」


 兄ヴェインは妹の言葉にそう答える。


「行ってみた方が良くないか?」


 アグルスの言葉にヴェインは頷く。どのみち、ここで待っていたとしても、魔狼を嵌める作戦がうまくいくことは無いだろう。


「ロッドはオリヴィア嬢に付いていてくれ」

「承知した」

「シェイラ、アグルス行くぞ」

「うん」

「ああ」


 ヴェインの指示にそれぞれ頷くと、ヴェインを先頭にアグルス、シェイラが続く。三人が走り出してすぐに魔狼の面々が武器を構えている。そして武器を向けている相手がジェドとシアで無い事から三人は何が起きているかを察する。


 あそこに第三者が現れ、敵対行動をとった。そして、協力して斃すべき敵であることが容易に想像することが出来たのだ。


「急ごう!!」


 ヴェインの言葉に二人は速度を上げるのとシアが魔術を放つのはほぼ同時だった。

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