第86話 三つ巴の戦い⑤~開戦~

 ジェドとシアは街道の脇の茂みに入り、罠を仕掛けている。もちろん、目的は『魔狼』を罠に嵌めることであるが、現在仕掛けている罠はただの見せかけであり、掛かっても掛からなくてもどちらでも構わなかった。


 いや、魔狼の斥候に罠を仕掛け手いるところを見せながらの罠作成のために引っかかるわけはない。これでもし魔狼がこの罠に引っかかったら、ジェドとシアは『やった』という歓喜よりも、魔狼の頭の出来に同情してしまうだろう。


「ジェド、魔族が行動を起こしたみたいね」

「え?」


 罠を仕掛けながらシアが話す。シアはキャサリンの指導で、かなり探知能力が鋭くなっている。その探知能力で先程蹴散らした魔狼の怪我人の元に残りの魔狼が現れ、こちらに向かった事も、治癒術士が蹴散らされた魔狼の治癒を行った事も、その後で魔族のエハンがそれらを殺害したことも把握していた。


「なんとか…その魔族と魔狼をぶつけることは出来ないかな…」


 ジェドのつぶやきにシアが答える。


「意外と簡単かもしれないわよ」

「え?」

「魔族が狙っているのは魔狼と思い込ませれば良いのよ」

「でも、そんな簡単に信じるか?」

「大丈夫よ。その魔族が私達の倒した魔狼を皆殺しにしたわ」

「そうか…それなら話は簡単だな」

「でしょ?」


 シアからもたらされた情報はジェドにとって素晴らしいものだった。何と言っても魔狼の仲間をその魔族が殺したのは間違いないのだ。魔族の目的がこの森にいる人間なのは明らかなのだから必ず、魔族はこちらにちょっかいを出してくることだろう。その時に魔狼をけしかければ良いのだ。


 しかも、皆殺しにしたのは事実なのだからまったくウソを言っていないのだ。


「皆殺しにしたという事を魔狼の連中に教えるだけで十分だな」

「うん」


 ジェドとシアにとって魔狼は敵であり、どれほど利用しようがまったく心が痛まない。魔狼とその魔族をぶつかり合っている間に隙を見て、魔族を斃すかケガを負わせるつもりだったのだ。


 もちろん、計画は計画でありそんな簡単に上手くいくなどとは思ってはいない。思ってはいないが計画を立てて実行するだけで少なくとも事態は少なからず動くのだからやっておく必要はあった。


 しかも、今回はただ、事実を告げるだけで良いのだ。


「ジェド…来たわ」


 シアの言葉にジェドは小さく頷いた。


「それにしても魔狼ってのは戦争のプロ集団じゃなかったのか?」

「まぁ…個体差があるのは仕方ないわよ」


 ジェドとシアは呆れたような声を出している。それもそのはずで、魔狼の連中の気配はダダ漏れであり、ジェドとシアは気付いたことを悟られないようにするのに苦労したぐらいであった。


 魔狼の中には気配を絶つ技術が得意なものもいるのだが、そうでない者もいるためにジェドとシアは簡単に魔狼が近くに来ていることを気付いたのだ。


「よし…じゃあ、移動しよう」

「うん」


 ジェドとシアは罠を張った事にして、現在の位置から10メートル程進んだところの脇の茂みに入り、またそこで罠を張るふりをしようと移動を始める。


 ジェドとシアが魔狼に背を向け歩き出すと背後からボウガンの矢が打ち込まれた。ジェドはそれを察すると剣を抜くとボウガンの矢をはたき落とした。


 ボウガンの矢が放たれた方向を見てジェドは驚愕の表情を浮かべる。無論演技であるが、ジェドと表情を見てから、何人かの魔狼が残虐な笑みを浮かべた事から少しばかりは効果があったようだ。


「シア、逃げるぞ!!」

「うん」


 ジェドとシアは一声かけると街道を走り出す。ここから200メートル程行ったところに味方が待ち構えているのだ。そこで攻撃をする事で魔狼は混乱することになり、戦いの流れを掴む事が出来るはずだ。

 問題は魔族がいつ仕掛けてくるかわからない事であるが、まずは魔狼に集中すべきだろう。


 ジェドとシアが走り始めると、魔狼の面々はそれぞれ武器を構えると2人を追い始めた。ジェドとシアが全力で走ってしまえばあっという間に引き離してしまうために、2人は6~7分の力で走る。それでも追いつかれることはないと確信していた。


「先に敵が待ち構えている!!!慎重に行け!!」


 すると突然大音量で男の声が響いた。その声を聞いた魔狼達は立ち止まり、声の主を探した。


「あ、あいつか? 」


 魔狼の1人が声の主を見つけ指差すと一斉に魔狼が指差した方向を見る。


「…魔族か?」


 魔狼の1人が呟く。そう、その男は間違いなく魔族である、身長2メートル程、黒髪、黒眼に浅黒い肌、サソリのような尻尾と明らかに人間ではない。


「な…なぜ魔族が俺達を助ける…?」


 ギリアムの言葉は全員の不安を代弁したものだ。通常、魔族は人間を見下しており助けるなどありえない。


「ふふふ…私は歩との邪魔をするのが好きでね。あの二匹が何かしら作戦らしきものを立てて実行しようとしているのを邪魔したくなったのだよ」


 この魔族は勿論エハンである。エハンはニヤリと嗤いジェドとシアを見る。


「ふはは、邪魔をして済まないね。お前達が囮となり罠のポイントまで誘導し打撃を与えて流れを掴むというのがお前達の立てた作戦だったのだろう?」


 エハンの暴露により張った罠がすべてダメになってしまった事を察したジェドとシアは憎々しげにエハンを睨みつける。


 三つ巴の戦いが始まったのだ。

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