第78話 2日目

 ジェドによって斬り落とされた悪魔の首が地面に転がると念のためにジェドは悪魔の頭部に剣を突き立てて完全にトドメを刺す。容赦、油断という言葉はジェドにはまったくないのだ。


「ヴェインさん…とりあえず安全は確保できたと見て良いですかね?」


 ジェドの問いかけにヴェインは頷く。


「さっき、君が斃した悪魔の言葉通りなら少なくとも恣意的に魔物が襲ってくることは現段階では考えられない」

「ええ、連戦でしたから少しばかり休息をとりたいです。今なら…余裕があるでしょうから少し休ませてもらいましょう」

「そうだな」


 ジェドとヴェインはオリヴィア一行の元に行き、とりあえずの危機が去った事を伝えると短い休息をとった。


 すでに重傷者の手当は終わっており、重傷者の中で命を落とした者は幸いにもいなかったが、重傷者は少なくとも戦闘は不可能である。


 死者6名、重傷者11名、軽傷者26名とかなりの損害だ。この怪我人を連れて悪魔の襲撃を躱していくのは事実上不可能だ。本人達だけではなく。全員が共倒れにならざるを得ない。


 普段は騎士と思われる指揮官がオリヴィアに進言している。


 進言の内容は重傷者11名を軽傷者26名の護衛させて王都に返すというものであった。オリヴィアは即座にそれを認めた。人数が少なくなるのは戦力低下を意味するが、重軽傷者を庇いながらの旅も困難を極めるのだ。

 ここで重軽傷者と離れた方がむしろ安全面では良いのかもしれない。また重軽傷者も王都での療養をした方が次ごうが良いのも事実であった。


 重軽傷者はこの判断に難色を示す者が多かったが、死者の遺品を王都に持って帰ってくれと言うオリヴィアの言葉に渋々ながら受け入れた。


 こうしてわずか王都を出発して半日でオリヴィア一行は3分の2以上の脱落者を出すことになったのだ。


 殉職者の死体の一部しかなかった者はせめて遺髪と遺品を回収し、簡単な埋葬を済ませるとすっかり日が傾いたので、少しばかり移動してそこで野営することになった。


 こうしてジェドとシアは1日目の活動を終えたのだった。






 翌日になり、重軽傷者達を別れてオリヴィア達一行はエリメアに向けて出発する。離脱する重軽傷者達は、これから王都に引き返すのだが何事もなければ王都には昼過ぎには到着する事だろう。


 お互いに無事を祈ると一行は二手に分かれることになる。重軽傷者達は「すまない」という表情を浮かべている。どう考えてもオリヴィア達の行く道の方が困難は大きく、多いのが明らかだったからだ。


「みなさんの役目は私を守る事でした」


 オリヴィアの言葉に重軽傷者はうつむく。その役目を途中で投げ出すことを恥じているのだろう。


「あなた達が守ってくれたために私はかすり傷一つ負っていません。あなた達は私を守るという任務を見事達成したのです。誇りこそすれ恥じる必要はありません」


 オリヴィアの言葉に重軽傷者達は顔を上げる。もちろん彼らもオリヴィアの言葉は自分達を元気づけようというものであることは理解していた。自分達の実力不足のために主に気遣いをさせているのに、その気遣いを無下にするような事は彼らには出来ない。もし、ここで彼らが納得しなかったら、主は傷付くだろう。それは護衛としてやるべき事ではなかった。


「あなた達には死した同僚の死を家族に伝えてあげてください。そして、体を治して私をまた守ってください」


 オリヴィアの言葉に重軽傷者は声を揃えて「はい!!」と返事をする。


 その様子を見ていたジェドは小さくシアに話しかける。


「理想の主従関係だな」

「そうね。どちらもお互いを気遣っている」

「ああ、少しでも心の負担を取り除こうとしている。オリヴィア様は相当に配下の人達に慕われているんだな」

「ええ、良い雇い主に雇われたわね」

「ああ」


 そんな事を話しているとオリヴィアと重軽傷者の話は終わったらしい。お互いに無事を祈り合うとお互いに別の道を進み出す。


「ジェド君、シアさん、出発だよ」


 ヴェインが2人に声をかける。


「あ、そうそう」


 ジェドがヴェインに声をかける。


「なんだい?」

「ヴェインさん、俺達に敬語は必要ありません。ジェドと呼んでください」

「私もシアで結構です」


 ジェドとシアの申し出に『破魔』とアグルスは頷く。


「そうかい? それじゃあそうするよ。俺の事もヴェインで良いよ」

「う~ん…それはちょっと厳しいですね」

「え?」


 ジェドの返答にヴェイン達は首を傾げる。


「ヴェインさんは年上ですよね。年上の方を呼び捨てにするのは俺にとってかなりハードルが高いんで「さん」付けで勘弁してください」


 ジェドの言葉にヴェイン達は苦笑する。気を許していないのではなくそういう性分なのだろうと納得したようだ。

 ジェドとシアは孤児院でその辺りの事を仕込まれたために年上の方への言葉使いは丁寧な方だったのだ。ウォルモンド達には年上であっても家族のような感覚だったために砕けていたが2人は基本的に敬語で話すのだった。


「そうか。わかった。でも呼び捨てにしたくなったらいつでもして良いからな」


 ヴェインはそういうと笑う。そして他のメンバーもそれで納得したようだった。



 ジェドとシアの神殿探索2日目が始まったのだ。

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