第65話 護衛任務追加③

 『まずい捕まった』


 これが声を掛けられたジェドとシアの正直な感想だった。声を掛けてきた女性は一見こちらに誠実なお礼を言っているように見えるが、ジェドとシアはその奥底にある『あざとさ』を感じていた。


 『こいつは俺達を利用しようとしている』と察した以上、ジェドとシアはこの連中に気を許すつもりはまったくなかった。下手をすればこいつらから罪をなすりつけられる可能性すら出てくるのだ。そんな事になっては目も当てられない。


「いえ、お気になさらず。こんなところでオーガに襲われるとは災難でしたね。とりあえず安全は確保できたようですので、我々はもう行きますね」


 ジェドはニッコリと微笑むとシアに声をかける。


「シア、急ごうか。早いところ行かないと」

「そうね。それじゃあ私達はこれで」


 シアもこのままこの隊商に関わる事は確実に厄介事に巻き込まれることを察している以上、長居する気はまったくない。


 明らかに話を打ち切ろうというジェドとシアの態度に隊商のメンバー達は顔を歪める。どうやら気分を害したようだ。


 ジェドもシアもその様子を察したが一刻も早くこの場を離れるべきという感覚をより強める。


(こいつら…商人じゃない…、護衛も冒険者じゃない…)

(この人達……犯罪者じゃないけど…全員、商人、冒険者のフリをしているだけだわ)


 ジェドもシアも周囲の者達の様子から隊商を装った何者かと言う事を察する。かといって犯罪者組織とは違うように思える。


(…どこかの貴族に仕えている連中だな)


 ジェドはそう結論づける。


(貴族の部下…隊商のふりをする。そしてここで襲ってくるオーガの一群…ここまで揃うと厄介事しか感じられないわね)


 シアも結論づけた事を表面上には見せなかったが警戒を始める。


「あなた方の目的地はどこですか? あなた方の目的地まで私達に同行してくれれば心強いのだけど…」


 女性がジェドとシアに縋るような視線を向ける。この女性の容姿は間違いなく美人に分類されるような容姿をしている。その美人に縋るような目で見られれば何とかしてあげたいと思いそうになるが、ジェドとシアは油断しない。


(この辺に村…ないな…)


 ジェドは適当な村の名前をあげて立ち去ろうとしたのだが、この辺りに手頃な村はないのだ。


「そちらこそ、目的地はどこなんです?」


 ジェドは『質問に質問で返す』というあまり褒められた事でないことで返答する。失礼な事をしている事は重々承知しているが生半可な事を言って罪をなすりつけられては困るのだ。


「…どうやら私達を疑っているようですね」


 女性の声に険が含まれるのをジェドは感じた。周囲の冒険者に扮した護衛達にも僅かながら殺気が感じられる。


(らちがあかないわね…)


「ジェド…」


 シアがジェドに声をかける。シアに声を掛けられたジェドはシアを見ると頷いた。シアは左手を口元に置き、何らかの思考の後が見て取れる。


「はい、疑ってます。どこからどう見てもあなた方は怪しすぎます」


 ジェドの言葉に隊商に扮した一行は呆気にとられる。まさか、ここでいきなりこの発言とは思っても見なかったのだろう。


「大体、あなた方はどこぞの貴族の関係者でしょう。そんなあなた方が隊商のふりをする時点で怪しすぎます。ちなみに護衛の冒険者達はその貴族に仕える騎士か兵士なんでしょう? そんな嘘の塊のようなあなた方を俺達が信用するはずないでしょう」


 ジェドの言葉に全員が驚く。


「あなた方は嘘をついている。そこに俺達を引き留めようとする行動は明らかに俺達を利用しようという思惑があると考えるのはそんなに不思議ですか?」


 ジェドの言葉に全員が黙る。


「あなた方が俺達をどのように利用しようとしているかは分かりませんがね、俺達に罪を被せようという魂胆でしょう」


 ジェドの言葉の「罪を被せる」という言葉に周囲の護衛達が明らかに気分を害したようだ。


「我々は後ろ暗いことなど何一つしていない!!」

「そうだ!!そのような侮辱をされる筋合いはない」


 護衛達のいきり立つ声に対してもジェドとシアはまったく恐怖感を刺激されていない。それどころか反応を見ようと思った上での行動のためにまったく悪びれる事すらなかった。


「それじゃあ隊商のふりをしているのは何のためです? 後ろ暗い事は何一つ無いというのは嘘をつきすぎているためにすでに良心がすり切れているという事の告白ですか?」


 ジェドの言葉に護衛達は「うっ」という顔をする。身分を偽っているという段階で自分達を信用しろというのは都合の良いことだと今更ながら思い知らされた思いだ。


 一方でどうやらジェドとシアを単に護衛として雇おうという考えなのは何となく察したが、だからといってこんな怪しい仕事にほいほい飛びつくような愚かな事はしない。以前、自分達を欺してアレン達の交渉材料にされそうな事があった。幸い、アレン達が助けてくれたのだが次回も都合良く助けてくれるかどうか分からないのだ。

 それ以降、ジェドとシアは雇い主に不審な点があるとどのような好条件を出されても断るようにしている。


「とにかく、あんた方は嘘の塊で厄介事しか感じられない。そんなあんたらと少しでも早く離れたいと思うのは至極当然だろう。自分達が嘘をついているのに信用してもらえるなどと甘い事を言うのは止めてください」


 ジェドの言葉に全員が黙る。ここまで言われれば生意気な冒険者のガキを殴りつけたくなり実行するのだろうが、先程のジェドとシアの技量を見ればそれが容易で無い事は明らかだ。


 実際にシアはジェドが啖呵を切る前から、すでに魔術をいつでも展開出来るようにしているのだ。事が起こればその瞬間にシアの魔矢マジックアローが護衛達を薙ぎ払うようになっている。


「テティス嬢、そこまでじゃ」


 呑気な声が響く。その声が聞こえると周囲の護衛達が道を開け五人の男女が歩いてくるのが見える。


(強いな…)


 その男女を見たときのジェドとシアの感想はそれだった。

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