第58話 悪魔討伐
宿に戻ったジェドとシアは冒険者ギルドの職員から手渡されたファイルを読み込む。
そのファイルには、今回の討伐対象の悪魔の情報が載っているのだが、冒険者ギルドでの話の内容とほとんど大差は無い。どうやら悪魔は冒険者を嬲り殺しにする際に、魔術を使わなかったらしい。
だが、一つだけ射た矢が手前で弾かれたという記述から何らかの防御陣を形成していた可能性はある。ここでジェドが正直、良かったと思ったのは、スルリと受け流すタイプの防御陣ではなく強固な壁を作るタイプの防御陣であった事だ。このタイプの防御陣はそれ以上の不可を掛ければ砕くことが出来るのだ。
そして、この防御陣に絶対の自身をこの悪魔が持っていた場合にはそもそもジェドの攻撃を避けないという可能性すらあったのだ。
そして、他に有益な情報は何と言っても砦の見取り図だ。これがあるだけでも戦闘は十分有利に展開できることは間違いない。
話から悪魔は用心深い性格などではなく、人間を見下しに見下していることが伺い知れる。そのような相手ならば罠に嵌める可能性は一気に高まるのだ。
アレン達から借りた『対悪魔の道具一式』を使ってジェドとシアは悪魔に勝利するつもりだったのだ。
アレンから借りた道具は『短剣』『巻物(スクロール)』『魔封じの鎖』『魔符』である。
使用方法は簡単に言えば『巻物(スクロール)』の魔術で周囲を浄化し、『魔封じの鎖』で悪魔の動きを止め、『魔符』で悪魔の魔力を吸い取ることで弱らせ、『短剣』でトドメを刺すというものだ。
アレン達はこの『対悪魔の道具』をジェド達にくれると言う話だったのだが、いくらなんでもこんな高価な物を貰えないと固辞して、借りるという方向で落ち着いたのだ。
「ここに誘い込んで道具を使って斃すというのはどうだ?」
ジェドがシアに見取り図の場所を指差して言う。ジェドの指し示した場所は門の側にあるスペースだ。
「それよりもいっその事、砦の外に仕掛けておいてそこに誘い込んだらどうかしら?」
「外か…確かにそれなら自然か…」
「ええ、それだと逃げると言う事を非常に自然に演出できるわ」
「だが、問題はそこまで誘い込むのが非常に困難ということだ」
「そうね…近すぎると悪魔に気取られる…遠すぎるとそこまで誘い込むのに苦労する」
「難問だな…」
「ええ」
ジェドとシアは見取り図を見ながら作戦を考える。結果、2人は門のすぐ外側に罠を仕掛けることで落ち着いたのであった。
だが、この2人の作戦は結局、使用する事は無かったのであった…。
翌日、ジェドとシアは荷物を置き、ラティホージ砦跡に向かう。
ラティシュアから徒歩で2時間程の距離にラティホージ砦跡はある。その距離なので2人は簡易テントなどは宿屋に置き、軽装で出かけることが出来たのだ。
「さ…もう少しだな」
ジェドの言葉にシアも頷く。さすがに悪魔討伐ともなれば今までの魔物とは難易度が桁違いなので緊張しているようだ。
「そうね」
1時間程歩いたところでラティホージ砦跡が見えてくる。新しい街道が整備されたことによりその存在意義が薄れ、ラティシュア自体が城塞都市となった事でその役目を終えたラティホージ砦はいまやうっそうとした雰囲気になっている。
だが、思ったよりは朽ちていないという印象だった。
「確か…4年だったけ?」
ジェドはシアに尋ねる。4年というのは砦が廃棄されてからという事である。
「確か3年じゃなかったかしら?」
シアもそう返答する。いずれにせよそれほど長い時間が経ったわけではないのだ。
「シア…それじゃあちょっと小休止しようか」
「そうね」
ジェドがそう言うとシアも頷き、道の端に座る。携帯したパンを取り出し、口に頬張る。
固いパンでありそれほど美味いものではないのだが、贅沢を言うような事は2人ともしない。水筒に入った水を口に含み、しばらくそのまま座り込んでいると途端に何者かの気配がした。
ジェドとシアは視線を交わすと立ち上がり周囲を警戒する。
「シア…」
「うん…わかってる」
ジェドとシアはそう言うと気配の主がいつ来ても良いように戦闘態勢をとる。
「いた!!」
シアの指差す方向の地面に魔法陣が展開されているのをジェドも見つける。どうやら転移魔術のようだ。
転移魔術が光り、そこから身長2メートル前後の羽を生やした筋骨逞しい悪魔が現れる。
「まさか…何の用意もしていないぞ」
「どうする?ここは引く?」
ジェドの言葉にシアが尋ねるがジェドは首を横に振る。
「いや、この段階で背中を見せれば殺される」
「じゃあ、やるしかないわね」
「ああ」
ジェドとシアは覚悟を決めて悪魔を睨みつけた。
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