第57話 悪魔の情報

 ラティホージ砦跡は王都フェルネルから徒歩3日の距離にある。その近くにラティシュアという都市があるが、ラティシュアを城塞化する計画が実行されるとラティホージ砦はその存在意義がなくなり放棄されたのだ。


 結果、ラティホージ砦を訪れる者はいなくなったのだが、そこに悪魔が住み着いた事がわかり国が冒険者を雇い討伐させる事になったというわけだ。


 その依頼をジェドとシアが受けたというわけであった。


 悪魔討伐の情報についてはサリーナから少しばかり話は聞いているのだが、どうもはっきりしないのだ。どうやらこの依頼を受けたのはジェドとシアが初めてらしく、また悪魔討伐の依頼はそれほど頻繁に起こるものでは無いためギルド側も情報を得ようとしている節があった。


 ジェドとシアが王都を出発し、簡易テントに寝泊まりして城塞都市ラティシュアに到着したのは王都を出発して次の日の夕方である。魔力による肉体強化による健脚が二人を普通ならば3日かかる距離を1日半で到着させたのだ。


「我ながらがんばったな」


 ジェドはしみじみと自分達の成長の証を噛みしめる。ロムの指導による身体操作は単に戦闘だけに留まらず、色々なところで現れていたのである。


「そうね、まさかこんなに早く着くとは思ってなかったわ」


 シアも同様に頷く。シアもキャサリンの魔術指導により効率的に魔力による肉体強化を行ったことでそれほどの疲労はない。


「やはり俺達が強くなったというのもあるけど…」

「そうね…」


 ジェドの言葉にシアも同意する。


「「やっぱり簡易テント!!」」


 ジェドとシアは声を揃えてもう一つの功労者の名をあげる。今までの旅ではマント、ローブを寝袋代わりにしての野宿だったのだ。ところがこの野宿というものは疲れはほとんどとれないのだ。ところが簡易テントの中で眠ると全然違うのだ。


 布きれ一枚による外界との仕切りは心許ないと思っていたのだが、いざ中に入ってみると安心感が全然違うのだ。この安心感が心の緊張をほぐし疲労の回復に役立っているのではないかと二人は思っている。


「いや~こいつのおかげで旅が大分楽になったな」

「うん♪もっと早く買えば良かったわ」


 ジェドもシアもニコニコとしながら、門番の簡単な検問を受けて城塞都市ラティシュアに入ったのであった。


「さて、シアまずは宿を探そう」

「うん」


 いかに簡易テントがあるとはいっても宿屋のある場所でわざわざ野宿するのは避けたい所だ。


「『アーケオンの宿』はこれぐらいの都市ならあるよな」


 ジェドの言葉にシアは頷く。


 『アーケオンの宿』とは冒険者ギルドが運営する宿泊施設であり、宿泊費は他の宿屋より安く設定されている。その分サービスや料理の質も落ちるのだが、駆け出しの冒険者達にとっては有り難い施設だった。


 駆け出しの冒険者ではなく資金に余裕のある者は他の宿泊施設を利用する。この事だけでもサービス、料理の質がわかるというものだった。


「大丈夫と思うわ」


 シアもそう言うと『アーケオンの宿』を二人は捜し始める。冒険者風の男に場所を尋ね『アーケオンの宿』に宿泊として一部屋個室を借りる。


 店主に冒険者ギルドに行く旨を告げて遅くなるから食事は必要ない事を告げると二人は冒険者ギルドへ向かう。


 もちろん悪魔の情報を手に入れるためだ。


 冒険者ギルドの場所は店主に教えてもらっていたので難なく到着する。


 ギイ…


 冒険者ギルドには酒場が併設されており、かなり遅い時間であっても開いているのだ。


 ジェドとシアはいかにも残務処理をしているであろう職員達に声をかける事にする。視界の端で酒盛りをしている冒険者を尻目に仕事をしなくてはならない事にストレスをかなりためているような感じだ。

 ジェドとシアも正直、この段階で職員に声を掛けるのは嫌なのだが、これは仕方が無かったのだ。ここで何も情報を手に入れる事が出来なかったなどと言う事で思わぬ不覚をとる可能性がある以上、職員の冷たい目にさらされるぐらいの事は覚悟しなければならないのだ。


「あの、すみません」


 ジェドの言葉に残務処理を行っていた職員が書類から目を離しジロリと見る。若い女性であったがその目には隈があり疲れが溜まっていることが窺える。


「なんでしょうか」


 一瞬の険しい目だったがジェドに返答するときには、すでに目元も優しく緩み、声も優しげだ。しかし、険しい目を見ている以上、ジェドとシアには額面通り受け取る事は出来なかった。


「あの、こんな時間に済みません。ラティホージ砦跡の悪魔討伐に王都から来たんですが、少しばかり情報をいただきたいと思いまして、ご迷惑とは思いましたがここに来た次第です…はい」


 ジェドは、しどろもどろにながら職員に聞く。


「ああ、そうだったんですか。ラティホージ砦の悪魔討伐ですね」


 職員はジェドとシアに丁寧に返す。ラティホージ砦の悪魔討伐と聞いて一人の若い男性の職員が二人の元に向かってくる。手にはファイルを持っているところを見ると情報が載っているのだろう。


「君達が悪魔討伐を受けてくれるのかい?」


 男性は優しげに微笑む。


「「はい」」


 ジェドとシアの返事に男性はファイルを手渡す。


「そのファイルにはラティホージ砦の見取り図が入ってあるから、そのファイルを持っていって良いよ」

「「ありがとうございます」」


 ファイルを受け取った二人は男性に礼を言う。


「それから悪魔の事だけど、出会った『シルバー』の冒険者チームの生き残りの話では、悪魔は身長2メートル前後、羽を生やし、筋肉質、サソリのような尻尾が生えているという話だった」

「筋肉質という事は力も相当?」

「ああ、殺された冒険者の一人は素手で引き裂かれたという話だ」

「え?」


 職員の言葉にジェドもシアも顔を顰める。


「ひょっとして冒険者チームの生き残りは一人ですか?」


 ジェドの言葉に職員も頷く。


「あの悪魔は楽しみながら冒険者達を殺戮したらしい」


 職員の話を聞いてジェドは重々しく口を開く。


「つまり…一人見逃したのは新しい冒険者がくるのを誘発させるため…ですか」

「ああ、冒険者達はそう捉えていて、この街の冒険者は尻込みしちゃってるんだ。そして運悪くこの街一番の冒険者が別の依頼で街を離れていてね」


 職員の顔はくやしそうだ。


「それで王都まで話が来たというわけですね」


 ジェドの言葉に職員達は頷く。


「どうする? やはり止めるかい?」


 職員の言葉にジェドもシアも首を横に振る。ここまで来て手ぶらで帰るなどとありえないのだ。


「それではこのファイルを借りていきます。ただ砦の見取り図は持っていくつもりなので、紛失する可能性があります。その場合はどうなります?」

「それは大丈夫だ。ラティホージ砦はすでに放棄されているし、このまま朽ちていくだけの存在だからその見取り図を紛失しても責任を取らせることはないよ。それにその見取り図は複写されたものだからね」

「わかりました。それでは借りていきます」


 ジェドとシアはぺこりと頭を下げると冒険者ギルドを出て行った。


 それを見送った冒険者ギルドの職員達は心配そうに顔を見合わせる。冒険者ギルドの職員としては本人達がやると言っている以上、止めることは出来ないのだが、個人ではあの若い2人が悪魔に惨殺されるのは心が痛むのだ。


「無事に帰ってきて欲しいな…」


 ファイルを手渡した男性職員の呟きに最初に応対した女性も頷いた。


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