第53話 受任

 正式に『ゴールド』ランクに昇格したことをアレン達に伝えると、アレン達は自分の事のように喜んでくれた。


 アレン達と近衛騎士の先輩達は祝いの言葉とともにジェドに新しい剣をシアには魔法の防御術式を編み込んだローブをプレゼントしてくれたのだ。最初は固辞しようとしたのだが、すでに購入してくれている以上、受け取らないのは却って悪いと思い、素直に礼を言って受け取る事にした。


 ジェドに渡された長剣は既製品のものであり、それほど高価なものではないという話であったが、それでもジェドの手には良く馴染んだ。実際はアレン達がジェドの剣捌きや体格などを職人に伝えて打ってもらった一品だった。


 シアのローブの方も市販のローブにキャサリンが防御術式を編み込んで作成したもので、値段自体はそれほどでもないのだが、手間暇考えれば相当なものだった。


 いずれにせよ、ジェドとシアは昇格に伴い想像以上の品物を贈られたのであった。





 翌日になってジェドとシアは冒険者ギルドに赴き、『ゴールド』クラスの依頼が張られている掲示板を見てみる。今までの依頼とは内容も報酬も段違いのものだった。


 今まではゴブリン、オーガなどの討伐、隊商の護衛、薬草採取などのものばかりだったのだが、迷宮探索、貴人の護衛、魔物の討伐などだ。


 討伐依頼の魔物はナーガ、マルティゴイアと呼ばれる体長4メートルを超える獅子のような魔物などで明らかに危険度がシルバー以下のものとは違っていた。


 ジェドとシアは掲示板に張り出されている依頼を流し読みにしていく。


「ん?」


 ジェドが一つの依頼文書に目を止めた。


「どうしたの?」


 シアはジェドの様子を見て理由を尋ねる。


「これ…どうだ?」


 ジェドの指差した依頼文をシアは読むことにする。


「え~と…悪魔の討伐? ラティホージの砦跡に出没する悪魔を討伐して欲しい…報酬は白金貨3枚……」


 シアが依頼文を読み上げるとジェドがシアに話しかける。


「シア…どうだ?」

「う~ん…確かに白金貨3枚は魅力だけど……これは危険すぎない?」


 シアは難色を示す。報酬が非常に高いと言う事は別の言い方をすれば難易度がそれだけ高い事を意味するのだ。


「シアの言いたいことは分かっているつもりだ。俺は別に『ゴールド』に昇格したことに対して浮かれているわけじゃないぞ」


 ジェドは心外だという表情でシアに言う。


「でも、今までのジェドだったらもっと慎重だったでしょう?」


 シアの言葉にジェドも頷く。


「確かにな。俺がこの仕事を選ぼうとしているのは、悪魔討伐の難易度の高さを知らないのでも報酬に目が眩んだからでもないぞ」

「ということは何かしら勝算があると言うこと?」


 シアの言葉にジェドは頷く。


「勝算とはシアだ」

「私?」

「ああ、シアはキャサリンさんからいくつか術の指導を受けているだろ?」

「うん」

「アレンの『闇姫』のような術をシアも使えるんじゃないかと思ってな」


 ジェドの言う『闇姫』とは、友人のアレンの得意とする術で瘴気で作った人形だった。『闇姫』は美しい容貌の女性で背中に妖精のような羽が生えた姿をしている。

 だがその美しさとは裏腹にその戦闘力は凄まじい。一度、国営墓地で見せてもらった時に、デスナイトをあっさりと斃していたのだ。


「う~ん…私の術は未完成よ。とても実戦では使えないと思うわ」

「そっか…」


 勝算とみなしていたシアの術が未完成である事を聞いてジェドはこの依頼を受けるべきではないと思い始める。


(俺の勝手な行動はシアを巻き込むことになるからな)


 ジェドはそう思うとシアにこの依頼は止めようと声を出そうとした。


「でも、やりましょう!!」

「え?」


 ところがシアの口から意外な言葉が発せられた。


「ジェド、私達はこの依頼を受けるべきよ」

「良いのか?」

「ええ、私の考えはこうよ。悪魔が出るというのは砦よね」

「ああ、そう書いてるな」

「闘技場で戦うわけじゃないのよね」


 シアの言葉にジェドはニヤリと嗤う。シアの言わんとした事がジェドも理解したのだ。


「そうだな…闘技場であるならば純粋に実力でやらなければならないな…でも」

「そうよ…罠を張る事でたとえ悪魔であっても勝機はあるわ」

「ああ、俺達は俺達以上の実力の相手でもそうやって勝ってきたな」

「うん、私達はそうやって今までやって来たのよ。なら悪魔であってもそうやって勝てば良いのよ」

「そうだな。それじゃあ対悪魔の作戦を立てることにしよう」


 ジェドとシアは悪魔討伐を決定するとそのまま依頼を受けることをサリーナに伝える事にした。




「サリーナさん、仕事を受けたいんですけど」


 ジェドの言葉にギルドの受付嬢であるサリーナは微笑む。


「ジェドさん、シアさん、いらっしゃい。仕事の受任ね。希望の仕事はどれになった?」

「ラティホージ砦跡の悪魔討伐です」

「……いきなり、悪魔討伐なの…大丈夫?」

「ええ、二人で考えた結果です」

「そうなの…わかったわ」


 サリーナの顔にはありありと二人を心配する感情が浮かんでいる。いきなり悪魔討伐に出ると聞いて心配だったのだろう。だが、依頼を受けることを止めることは出来ない。それはギルド職員としてやってはいけないことなのだ。


「大丈夫ですよ。サリーナさん、俺達は今まで実力が及ばない相手には正面から戦わずに勝ってきましたから…今回もそれでいくつもりです」


 ジェドの言葉にシアも賛同する。


「ジェドの言うとおりです。当然、悪魔が相手と言う事ですからこちらも準備をしなくてはなりませんからすぐに出発するなんて無謀な事はしません」


 ジェドとシアの言葉にサリーナも幾分表情が和らぐ。


「わかったわ。ごめんなさいね。あなた達は半人前の冒険者なんかじゃなく『ゴールド』クラスの冒険者だったわね」

「いいえ、俺達の事を心配してくれてありがとうございます」


 ジェドはそういうとシアと一緒に謝意を示す。


「それじゃあ、準備が出来たら一度報告に来て欲しいの」


 サリーナの言葉にジェドとシアは力強く頷いた。

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