第45話 引き合わせ①

 昨夜の国営墓地の見回りを終えたジェドとシアは、日課の依頼をまず片づけるために早朝早速、冒険者ギルドへ向かった。


 冒険者ギルドではいつものように少しでも実入りの良い仕事を得るために冒険者達が掲示板の前でチェックしていた。


 ジェドとシアはこの間のゴブリン討伐以降、ゴブリン討伐の依頼を受けていなかった。決して慢心してから受けなくなったのではなく、実力差がつきすぎてしまい単なる虐殺のような感じになってしまい。後味が悪かったからだ。


 それ以降、ジェドとシアが討伐対象としているのはオーガだった。オーガはその体格、戦闘力からゴブリンとは明らかに一線を画す亜人種だ。身長は2メートル前後でありその巨大な膂力も凄まじいものであった。


 オーガの討伐は『シルバー』ランク以上の冒険者しか認められない。ジェドもシアも前回の魔将討伐により『シルバー』に昇格しており、オーガの討伐依頼を受けるのに何の問題もなかったのである。


「え~と…オーガ、オーガ…っと」


 ジェドが掲示板をチェックしている。ゴブリンやオーク、オーガなどは常に討伐依頼がくる。そのためいちいちチェックしなくても構わないのだが、掲示板には目撃情報などが載っているためにジェドもシアも一応チェックを入れるために冒険者ギルドに顔を出すのだ。


「あった…え~フェルネルの西門から3㎞程行ったところにオーガの目撃情報…しかも、5体討伐で銀貨6枚…か」


 ジェドは前回よりもオーガの討伐の報奨金が上がっていることを確認する。どうやら、騎士団の討伐サイクルから少し間が空いたために数が増えているのに何かしら関係がありそうだった。


「よし、シア、今日の仕事が見つかった。早速出発しよう」

「うん」


 ジェドの言葉にシアは快諾する。もともとオーガの討伐に行くのは決めていたのだから心構えは出来ているのだ。


 ジェドとシアはサリーナにオーガ討伐の依頼を受けることを告げると冒険者ギルドを出て行く。


「あの2人、最近の依頼達成率はすごいわね」

「そうね。早朝に出かけて昼過ぎには戻ってくるのよ」

「行って帰ってくる時間を考えると実際の仕事の時間はそんなに長くないはずよ」

「ええ、せいぜい1時間ぐらいじゃないの」

「それなのに、確実に仕事をこなすんだからすごいわね」

「このペースで行けば2~3ヶ月後には『ゴールド』クラスに昇格するんじゃないの?」

「多分ね」

「礼儀正しいし良い子達よね」

「ええ、でも無茶はしないで欲しいわね」


 サリーナに声をかけてきた同僚のアーリンにサリーナは返答する。礼儀正しいジェドとシアは冒険者ギルドの中でも好感を持たれていたのである。




 冒険者ギルドを出たジェドとシアは王都フェルネルの西門に向かう。


「なぁ、シア」

「どうしたの?」

「昨日のアレン達が言ったことだけど」


 ジェドの言わんとする事をシアは理解していた。『特殊な事』をしているというアレンの言葉に少なからず戸惑いがあったのだ。


「うん」

「正直な所、俺はロムさんから鍛えてもらってから強くなったという思いはあった」

「うん」

「でも、特別な事をしているという意識は全くなかったんだ」

「わかってる。私もそんなつもりはまったくないもん」

「だよな…でもさ、斬撃が少し変わったのは自分でもわかるんだ」

「そうね…確かにジェドの斬撃の音は明らかに依然と違うわ」

「そうなのか?」

「うん、今までは単にロムさんの指導によってジェドの剣の腕前が上がったと思ってたのよ」

「うん?」


 シアの言い方にジェドが少し首を傾げる。


「でも昨日のアレン達の言葉から別の可能性が出てきたわ」

「え?」

「ロムさんの指導から体の動かし方が変わったんじゃないの? 今までの斬撃が伸びたんじゃなくて、新しい斬撃を知らず知らずのうちに身につけてたとしたら?」

「…」

「いつの間にか特殊な事をしているんじゃないかしら」

「でも俺の剣術の型は昔、院長先生に習ったまんまだぜ?」

「表面上は変わってなくても…中身がまったく違ってるんじゃないの?」

「…かもしれないな。それならシアも魔術の方も明らかに威力と速度が違ってきてるぞ」

「ひょっとしたら…私の魔術も見かけは一緒だけどいつの間にか中身が変わってるのかも知れないわね」


 ジェドとシアは昨夜アレン達から言われた事を自分なりに解釈していた。そしてお互いのパートナーに聞いてみることにしたのだ。


「まぁ、とりあえず早く仕事を終わらせて今日の指導を受けよう」

「そうね」


 ジェドとシアはフェルネルの西門から外に出ると速度を上げ、オーガ討伐に向かったのだった。






 昼過ぎに冒険者ギルドに戻ったジェドとシアは討伐証拠のオーガの左耳を担当者に手渡す。数は9つ、オーガの群れに遭遇したジェドとシアは戦闘を開始し、わずか10分程の戦いにおいてオーガ達を斃してしまった。


 今回の討伐ではオーガ5体ごとに銀貨6枚なのだから端数が出てしまうことになる。そのような場合は記録しておき、後に討伐したところで端数と合わせた分を報奨金として請求することが出来る。もしくは端数計算してもらい、その場で報酬を請求する事も出来るのだ。


 幸い、ジェドとシアは現段階で金銭に余裕があるので端数の報奨金は次回に回すことにしていた。担当者から報奨金の引換券をもらうとサリーナの元に向かう。


「あら2人ともお疲れ様」


 サリーナは微笑みながら2人を迎える。


「お疲れ様です。サリーナさん」

「お疲れ様です」


 ジェドとシアはまったく疲れを見せずにサリーナに挨拶を返す。


「え~と、今日はオーガの討伐だったわね」

「はい。これ引換券ですから処理の方をよろしくお願いします」

「はい、はい、え~と5体討伐で銀貨6枚ね」


 サリーナはそう言うと、銀貨6枚を2人に手渡す。


「ありがとうございます。よし、明日オーガ一体を斃せばかなり余裕が出るな」


 ジェドの言葉にサリーナが首を傾げる。


「という事はあなた達、今日はオーガを9体斃したって事?」

「はい、運良くオーガの群れに遭遇しましてね」


 ジェドの返答にその事を聞いていた周囲の職員、冒険者が固まる。その空気を感じジェドとシアは不安げな表情を浮かべた。


「あの…?」

「ううん、何でもないのよ。無事で良かったわ」

「はい、それじゃあ、俺達はこれでサリーナさんまた明日」


 ジェドとシアは礼儀正しく一礼すると冒険者ギルドを後にしたのであった。残された職員と冒険者は半ば呆然と2人を見送ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る