第43話 国営墓地⑤
キィィィィン!!
スケルトンソードマンの上段から振り下ろされる斬撃をジェドはかろうじて受け止める。
(くそっ!!)
ジェドの顔に焦りの表情が浮かぶ。
そこにシアの魔矢マジックアローが放たれ、スケルトンソードマンに見事に命中する。だが、シアの魔矢マジックアローではスケルトンソードマンを撃ち抜くことは出来ない。
だがそれはシアも理解していた。にもかかわらずシアが魔矢マジックアローを放ったのはスケルトンソードマンを斃すためではない。ジェドとの間合いをとるためであった。
「ジェド!!一端下がって!!」
シアの援護にジェドは一息つくために後ろに跳び、スケルトンソードマンとの距離をとる。
その間に『リッチ』を斃したアレン達がすり抜けたアンデッド達を駆逐するために散会し、それぞれアンデッド達を駆逐し始める。
アレンがデスナイトの一体と斬り結ぶ。アレンの剣とデスナイトの剣が交錯し、双方の剣が止まる。デスナイトがその凄まじい膂力でアレンの剣を押しだそうとした。だが、アレンはそのデスナイトの力に逆らう事なくデスナイトの剣の軌道から避けると、身を屈めると同時にデスナイトの胴を薙いだ。
デスナイトは胴から真っ二つにされ地面に転がった。地面に転がったデスナイトの胸を踏みつけるとアレンは容赦なく剣をデスナイトの胸に突き立てる。
デスナイトは苦悶の表情を浮かべると塵となって消え去った。
(今のアレンの…そうか、俺はやっぱりまだまだ…だな。ロムさんに習ったことを忘れるとは)
ジェドはアレンの戦い方を見て、ロムの指導を思い出す。
『ジェドさん、良いですか。戦いとは結局の所、意思と意思のぶつかり合いなのです。相手はあなたを斃そうという意思の元、技を振るいます。そこにあなたが意思をぶつけてしまえばそこに争いが生じます。それは相手の力を受け止める事に他なりません。それでは逸らすという事が難しくなります。ならば、相手が意思をぶつけてくれば、それに逆らわず逸らすのです。そして伸びきった時に…』
ロムの指導してくれていた内容の一例を先程のアレンとデスナイトとの戦いに見た気がした。
アレンはデスナイトとの鍔迫り合いでデスナイトがアレンの剣を弾こうとしたが、その力に逆らう事なく受け流した。そして生じた隙を逃すことなく胴を薙いだ。あれこそ、ロムの教えを体現した動きではないのか?
しかるに自分の先程のスケルトンソードマンとの戦いは有利な状況を活かすことが出来なかったという焦りが余計な力を入れてしまい結果、ロムの教えのほとんどを実践できていなかったのだ。
(俺はスケルトンだからと見下していた…俺は弱いのに…)
ジェドは自分の慢心に気付きひそかに恥じる。
「シア!!魔術で援護してくれ!!」
「うん!!」
ジェドの提案にシアは快諾すると、早速シアはスケルトンソードマンに魔矢マジックアローを放つ。
ジェドの言う援護という言葉をシアは即座に考え実行する。シアの魔矢マジックアローはスケルトンソードマンではなくその足下に着弾する。
ジェドはシアの援護に感謝しつつ、身を屈め、スケルトンソードマンの足を薙いだ。先程とは違い余計な力の入っていない理想的な斬撃だった。
シュパッ!!
ジェドの斬撃はスケルトンソードマンの両足を切断する。
(やった!!)
今度は理想通りの…いや、ロムの指導を活かした斬撃を放つ事が出来たことにジェドの胸中に喜びの感情が浮かび上がる。
両足を切断されたスケルトンソードマンは倒れ込む。ジェドはすぐさまスケルトンソードマンの剣を持つ右腕を踏みつけると先程、アレンがデスナイトにやったように胸の核に剣を突き立てる。
ジェドはすでに慢心を戒めている。剣を突き立てるときに剣に魔力を通し強化することでスケルトンソードマンの核を貫いた。
核を貫かれたスケルトンソードマンはガラガラと崩れ去る。
(よし!!)
ジェドがアレン達を見るとすでにアンデッド達の大半を斃している。
(すごいな…俺が、いや俺とシアがやっとスケルトンソードマンを斃したというのに…)
ジェドがそう思うのは無理もない。ジェドが見たときにはフィアーネがデスナイトの足首を握りデスナイトを振り回しており周囲のスケルトン達を薙ぎ払っていたのだ。
フィアーネが振り回すデスナイトによってスケルトン達は粉々に砕かれていく。
あらかた斃した所でフィアーネはデスナイトを地面に叩きつける。そのまま胸を踏み抜き核を砕くとデスナイトは塵となって消え失せる。武器として使用されたあげくに、用済みとばかりに核を踏み砕かれたデスナイトにジェドは少し同情した。
「さて…前哨戦は終わりだな」
アレンは死の隠者リッチハーミットの周囲にいるデスナイト、スケルトンソードマン達約20体ほどを見やる。
『なんだ!!何なのだ!!貴様らは!!』
死の隠者リッチハーミットが声を荒げてアレン達に自らの疑問をぶつける。
『死の隠者リッチハーミット』や『リッチ』などの中にはアンデッドであっても意識を持つ者がいる。特に死の隠者リッチハーミットやリッチなどのように生前、魔術師であった者には意識を持つ者の割合が高いのは事実であった。
この死の隠者リッチハーミットもそのタイプなのだろう。この死の隠者リッチハーミットに生前の記憶があるかどうかは定かではないが、記憶があろうがなかろうがアレン、フィアーネ、レミアが理不尽な戦闘力を有しているのはわかり、その理不尽さに憤りを感じているのだろう。
「では、終わらせるぞ」
「うん♪」
「わかったわ」
アレンの短い言葉にフィアーネとレミアは弾んだ声で返すと死の隠者リッチハーミットの一団に向かっていく。
死の隠者リッチハーミットは魔術の詠唱に入る。
【死の奔流デストォーレント】という高濃度の瘴気をはなつ魔術だ。高濃度の瘴気は生き物を腐らせる。【死の奔流デストォーレント】はその高濃度の瘴気を対象者に浴びせることで相手を殺す術なのだ。
死の隠者リッチハーミットの骨だけの顔に愉悦の…そして、蔑みの表情が浮かんでいるようにジェドには思われる。いかにアレン達が強力な戦闘力を有していてもこの魔術で斃せないはずがないと考えているのだろう。
『ガァ!!!!』
ところが…
死の隠者リッチハーミットはその魔術を放つ事は出来なかった。死の隠者リッチハーミットの胸から剣が飛び出ている。その剣は背中から入り死の隠者リッチハーミットの核を貫いたのだ。
『バ…カ…な』
死の隠者リッチハーミットは集めた瘴気を霧散させながらガラガラと崩れ始める。霧散する瘴気は死の隠者リッチハーミットの生命力のようにも思える。
「呑気な方ですね…」
死の隠者リッチハーミットが崩れ去った骨を見下ろし、フィリシアが呆れたように言った。
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