第42話 国営墓地④
『死の隠者リッチハーミット』…
恐るべきアンデッドである『リッチ』を上回る魔力を持つアンデッドだ。その実力は他のアンデッドとは明らかに一線を画す。このアンデッドに出会ってしまえばまず助からないというのが冒険者達の中では常識だ。
だが、そのような強力なアンデッドが現れてもアレン達に動揺はない。まるであの程度のアンデッド如きに恐怖を持つのはアホらしいといった感じだった。
「ア、アレン」
ジェドの言葉にアレン達はジェドに視線を移す。
「あのアンデッド達と戦うにあたって何か作戦とかあるのか?」
ジェドの言葉にアレンは少し考える。そして作戦と呼ぶには大ざっぱすぎる事をジェドとシアに言う。
「ああ、作戦と言うほどの事はないが、俺、フィアーネ、レミアで派手に暴れる。ジェドとシアはそれに便乗して、アンデッド達を斃してくれ」
アレンの言葉に名を呼ばれなかった者がいることに気付く。ジェドがその事を言うよりも早くアレンが指示を出す。
「フィリシアは隙を見つけて死の隠者リッチハーミットを後ろに回り込んで始末してくれ」
アレンの言葉にフィリシアは頷く。そのアレンの申し出を当たり前の様に受け入れるフィリシアにジェドとシアは驚く。
((え?))
ジェドとシアが驚いたのはアレンの戦い方に対する姿勢に対してだ。アレンは死の隠者リッチハーミットを暗殺するように行ったも同然だった。それはかなり難易度が高い事のように思われた。
「ジェド、シア、心配しなくて大丈夫だ。フィリシアは何度か死の隠者リッチハーミットを斃している」
「「でも…」」
ジェドとシアの言葉にフィリシアは微笑みながら言う。
「大丈夫よ。二人の心配は嬉しいけど、あの程度のアンデッドなら私が真っ正面から戦っても斃せるし、みんなが注意を引きつけるという話なんだからずっと楽よ」
フィリシアの言葉からは一切の恐怖を感じる事は出来ない。その余裕は自身の実力からなのか、アレン達がいることによるものなのか。それとも両方なのか。にわかには判断がつかないが、ただ一つわかっていることはフィリシアは自身が成功するという確信があるのだ。
「わかった。よく考えたらアレンがフィリシアだけに危険をおしつけるわけないよな…。正面に立つアレン達も同じぐらい危険だよな」
ジェドの言葉にアレン達は頷く。
「何言ってるんだ? ジェドとシアも十分に危険だぞ」
アレンの言葉にジェドとシアも緊張の度合いを高める。そうだ。アレンはジェド達に『ジェドとシアはそれに便乗して、アンデッド達を斃してくれ』と言ったのだ。
「ああ、わかった」
「がんばるわ」
ジェドとシアは気合いを込めた声でアレンの言葉に返した。
「じゃあ、行くぞ」
アレンのかけ声が発せられ、アレンが走り出す。次いでフィアーネとレミアが、一拍遅れてジェドとシアが走る。そしてフィリシアがそれを見て小走りでジェドとシアの後に続いた。
「フィアーネ、レミア、まずは『リッチ』をやるぞ!!」
「まかせて」
「わかったわ」
アレンの言葉にフィアーネとレミアは完結に返答する。ジェドとシアがアレン達の言葉を聞きいた時にはすでにアンデッド達に肉薄している。予想以上のアレン達の脚力にアンデッド達は面食らったようであった。 アンデッドに意識というものが存在するとすればだが…。
デスナイト、スケルトンソードマン、スケルトンウォリアーがアレン達に殺到する。だがアレン達はそれらのアンデッドをまともに相手にするような事はせずに最小限度の戦いですり抜け、狙いの『リッチ』に向かった。最小限度の戦いですり抜けられたアンデッド達はアレン達を追うために振り返る。
アンデッドは生者に注意を引かれる。強烈すぎる生命力を感じさせるアレン達にアンデッド達が注意を引かれるというのもある意味、当然だったのだ。
だが、ここにいるのはアレン達だけではない。ジェドとシアが大分アレン達から引き離されたとはいえ、決して鈍足とはいえない。アレン達が速すぎるのだ。アレン達を追って振り返った2~3秒後にジェドがスケルトンソードマンを後ろから斬りつけたのだ。
ジェドの剣はスケルトンソードマンの肩口から斬り裂くように思われた。
だが…
キィィィン!!
ジェドの剣はスケルトンソードマンの骨を断つことは出来なかった。まるで金属同士を打ち付けた様な音が周囲に響く。
「な…」
ジェドの顔が驚愕に歪む。
(ち、違う…このスケルトンは、俺が斃した事のあるスケルトンとは違う)
ジェドはこの国営墓地で発生するアンデッドが他の場所で発生するアンデッドよりも強いことを今更ながら理解した。
この国営墓地に充満する瘴気は他の場所よりも遥かに濃い。濃度の濃い瘴気を使って発生したアンデッド達は他の場所で発生するアンデッド達よりも遥かに強力であった。
ジェドが斬りつけたスケルトンソードマンが振り返ると同時にジェドに斬撃を繰り出す。ジェドはその剣をなんとか受け止める。
(く…重い…)
ジェドはスケルトンソードマンの剣の重さに驚く。これほどの斬撃をジェドは経験した事はなかったのだ。
スケルトンソードマンは当然、髑髏どくろのために表情などないはずなのに、ジェドにはスケルトンソードマンが嗤っているように見えたのだった。
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