『兄弟子、姉弟子との出会い』
第38話 国営墓地への誘い
「ジェド、シア、良ければ今度俺達と一緒に国営墓地に行ってみないか? もちろん給金は出すぞ」
いつものようにロムとキャサリンの指導を受けた後にアインベルク家の当主であるアレンから欠けられた言葉である。
「え?俺達が入って良いのか?」
「うん、国営墓地って冒険者は入っちゃ駄目なんじゃないの?」
アレンの言葉にジェドとシアは返答する。
「うん、許可なく立ち入ることは禁止してるんだ」
アレンの言葉にジェドもシアも納得する。許可がなければ禁止と言う事は逆に言えば許可があれば入っても良いと言う事になる。
「そういう事か…それならよろしく頼む」
「私も頼むわ。さっそく明日頼みたいんだけど大丈夫?」
「ああ、それじゃあ、明日夕方に俺の家に来てくれっていうよりも、そのまま夕食を打ちでとってくれ」
「え、良いのか?こちらとしたら願ったり叶ったりなんだが」
「良いってそれじゃあ明日な」
「ああ」
「それじゃあ」
こうして明晩、冒険者ギルドの禁忌タブーとされる国営墓地にジェドとシアが挑むことになったのである。
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いつものようにジェドとシアがアインベルク邸においてロムとキャサリンの指導を受けて夕食をそのまま頂くことになった。
ジェドはロムから次の段階の指導を受けていた。簡単に言えばロムとの組手である。ロムが予備動作なしで拳を打ち出しそれを躱すという組手と呼んで良いものかわからないものではあるが次の段階に入ったことは間違いなかった。
ロムの予備動作の全くない拳はジェドにとって感じ取れるものではない。ロムは寸止めをしてくれているがもしロムが寸止めをしなければジェドの顔面は見るも無惨な姿になっていることだろう。
ひたすらロムの拳が打ち出されるのを察知するという地味すぎる訓練だったが、ジェドはそれをひたすら続けていた。
シアはようやく魔力を留め、そして自らの望む形に形成することができるようになっていた。キャサリンはシアの成長を喜び、次の段階に進んでいる。
その段階というのは自分の望む形に形成した魔力の塊を思い通りに動かすというものだった。そしてこれがまた難しいのだ。少しでもいしきが逸れると留めていた魔力はあっさりと霧散してしまう。
「集中することは大切です。ですが集中『しすぎる』事は、集中『しない』事と同じくらい危険です」
とキャサリンはシアに優しく言う。首を傾げるシアにキャサリンはさらに続けて言う。
「集中しすぎると言う事は言い換えればそれ『だけ』見ると言う事で他は目に入っているわけではありません。目に入っていないという点においては集中しない事と何も変わりありません」
筋の通っているような通っていないようなキャサリンの論法であったが、シアはそこに何かしらのヒントがあるような気がしてならなかった。
「はい!!わかりました。考えてみます!!」
シアの言葉にキャサリンは微笑む。シアは理解できなかったことに対しては自分でまずは考えるのだ。その結果、良い結果が出るかも知れないし、出ないかも知れないがそれでも自分で考えるという行為自体はまったく無駄になることはないのだ。
ロムもキャサリンも成長著しい二人の姿に目を緩ませることが多かった。
夕食を摂って、ジェド、シア、アレン、フィアーネ、レミア、フィリシアの6人はアインベルク邸を出て日課の国営墓地の見回りに出かける。
ジェドとシアにしてみれば国営墓地という魔境に足を踏み入れるのだからやはり緊張する。アレン達にとっては国営墓地のアンデッド等は慣れているのだろうが、ジェド達二人にとっては『デスナイト』や『リッチ』という強大なアンデッドが発生するような国営墓地に足を踏み入れるのはやはり恐怖との戦いになるのだ。
(シアは俺が守らないと!!)
(ジェドは私が助けるのよ!!)
二人は恐怖を乗り越えるためにはパートナーのためにという想いが必要と思ったのだ。
「アレン、そういえば、この間の呪珠が現れたって、話してたじゃない」
フィアーネがアレンに話をふる。
「ああ、なんでも200年間うちに恨みを持ち続けてたって話だったな」
アレンがなんてことはないという感じで返答する。
フィアーネとアレンの会話に出てきた呪珠とは200年前に当時のアインベルク家の当主に敗れた呪術師が自分の魂を自らの持っていた宝珠に移し替え、200年間の恨みの元に成長し、再びアインベルク家に挑んで来たのだ。
その呪珠をアレンとフィリシアが斃したという話だった。フィアーネもレミアもその時は他の用があったために参加する事ができなかったのだ。
アレンとフィリシアがその呪珠を斃したときの話をジェドもシアも聞いたのだが、戦いにすらならなかったという話だった。あそこまで意気揚々と登場し、アレンとフィリシアにあしらわれてちょっと可哀想とジェドとシアは思ったぐらいである。
ちなみにフィアーネもレミアもその話を至極当たり前のように聞いていたという話だった。
「その呪珠なんだけど粉々に打ち砕いたんでしょ?」
「ああ」
「その欠片ってまだある?」
フィアーネの言葉にアレンとフィリシアは首を傾げる。
「どうだったかな?フィリシア、覚えある?」
「う~ん…確か、あの時はアレンさんが真っ二つにして闇姫が拳で粉々にしましたよね」
「ああ、そうだった。多分、もう見つからないと思うぞ」
アレンの返答を受けてフィアーネは残念そうな顔をする。
「そう…残念ね」
「なんで、あんな物が欲しいんだ?ひたすら間抜けな奴だったぞ」
アレンの中ではあの呪珠は偉そうな言葉を吐いていた割には戦う事すら出来なかったマヌケという位置づけだったのだ。
「うん、もし欠片があったらお兄様に渡そうと思ってたのよ」
フィアーネの言葉に全員が首を傾げる。
(へ~フィアーネにはお兄さんがいるんだ。やっぱ強いのかな?)
(フィアーネのお兄さんって事は当然、トゥルーヴァンパイアよね。一度会ってみたいな)
ジェドもシアもまだ見ぬフィアーネの兄に興味を持った。フィアーネの実力は一度、目の当たりにしたが『凄まじい』の一言である。何しろ闇ギルドのボスの用心棒を務めるような連中を蟻を踏みつぶすよりもたやすく蹴散らしたのだ。
その兄という話を聞き、ジェドとシアが興味を持ったというのもそれほど不思議ではないだろう。
「やっぱり例の…か?」
「…うん。アレンに聞いてくるように言われたの」
心なしかアレンとフィアーネの声に何かを諦めたような感情が含まれている気がしてジェドとシアは首を傾げる。
「まぁ…運が良かったら見つかるかも知れないぞ」
「そ…そうね」
そんな危機感と無縁の話をしながら一行は国営墓地の門の中に入ったのだった。
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