第19話 因果応報⑨

 ウルク村からエジル村に帰ったジェドとシアはまず真っ直ぐに冒険者ギルドへ向かった。目的は討伐の報酬を得ることとウルク村の事を聞くためだ。


 冒険者ギルドの中に入り、まず討伐の証拠品を提出する。


 ギルドの受付の女性はニッコリと笑い、討伐の証拠品を確認する。確認の結果すべて問題なしと言う事が認められて二人は報酬を受け取る。


 報酬額は合計金貨1枚、銀貨1枚、銅貨24枚となり二人の懐は一気にあったかくなったのだ。トロルの討伐報酬は相場通りの銀貨3枚だったのだ。渡された報酬に金貨が入っていることはジェドとシアにとって初めてのことであり、自分達の成長の証であると二人は素直に喜んだ。


「あ、それとちょっと聞きたいことがあるんですが」


 ジェドが受付の女性にもう一つの目的を話すことにする。


「俺達がゴブリン討伐に向かったところにウルク村というのがあったんですが、その村について何か知ってます?」

「ウルク村…?」

「ええ、すでに廃墟になってる村です」

「ああ、あの廃村ですか」


 受付の女性は合点がいったとばかりに頷く。


「あの村は確か100年ぐらい前に魔物達の襲撃のために村人のほとんどが殺されてしまった村でしたね」

「100年ぐらい前ですか」

「はい、確かゴブリンの集団が100単位で襲撃したそうです」

「その村に対して冒険者達はノータッチだったんですか?」

「いえ、そんな事は無いと思いますよ。ただあそこには冒険者ギルドの支部が置かれていなかったので生き残りの村人が助けを求めてやって来たという話でしたけどね。でも1~2日かかるために救援に言った時にはすでに村は壊滅してたという話でした」

「なるほど…」

「でもどうしてそんな事を聞くんです?ウルク村なんてとっくの昔に滅んだ村の事」

「実はですね。俺達そのウルク村の連中に会ったんです」

「は?」

「ですからウルク村の連中に会ったんです」

「え、でもウルク村の生き残りの人達はとっくに亡くなってますよ」

「いえ、正確に言えばウルク村の幽霊にあったんです」

「は?」

「信じられないでしょうけど本当です。ウルク村の連中は多分自分達がすでに死んでいる事に気付いていないみたいでした」


 ジェドの言葉に受付の女性は言葉を無くしている。


「今回の討伐でトロルの左耳があったじゃないですか」

「はい」

「あれってウルク村の村長のベン=レクンからの依頼だったんです」

「ベン=レクン…」

「はい、所が俺達がトロルを討伐した報告に行ったら報酬を値切ろうとしました。しかも村の連中も周りに集まってきていて脅して引き下がらせようとしてました」

「…」

「俺達は別にウルク村の幽霊達を退治したわけじゃないので、ひょっとしたらこのギルドの冒険者も同様の被害があったのかも知れないし、これから発生するかも知れませんので注意を促しておいた方が良いかも知れません」

「…なるほど」


 ジェドの言葉に受付の女性は頷く。


「そういえば…」


 受付の女性は記憶をたぐるような表情を浮かべてジェドとシアに言う。


「ウルク村が襲撃されて救援を求めてきたときに冒険者の集まりが非常に悪かったと聞いた事があります」

「あ、やっぱりそうなですね」

「?」

「実は村人が『冒険者が寄りつかなくなった理由は村長だ』みたいな話をしていました」

「ひょっとしたらあなた達が受けた様な仕打ちを当時の冒険者達も受けたのかも知れませんね」

「まぁ、集まりが悪かったという話から確信しましたよ」


 普通、冒険者は村が魔物に襲撃されればギルドは救援のために即動く。冒険者達もそれに応えるのが普通の流れなのだ。ところがウルク村の救援に対しては冒険者達の集まりが悪かったというのなら、それだけウルク村の連中が冒険者達の信頼を裏切っていたのだろう。


 ただウルク村が滅んだのは約100年前のことだ。その当時の冒険者ギルドへの信頼が現在ほどでなかったとしたらウルク村の対応は珍しいものでは無かったのかもしれない。もしくはウルク村はそれまで魔物の襲撃とは無縁の村だったのかも知れない。その辺の事は歴史学者の領分だろう。


「さて、それでは冒険者の方々への注意喚起の方をよろしくお願いします」


 ジェドとシアは受付の女性にペコリと頭を下げると冒険者ギルドを後にする。



 乗合馬車の待ち合わせ場所まで話ながら二人は歩くと、自然とウルク村の話になった。


「それにしても…」


 ジェドの呆れた様な声にシアは苦笑しながら返す。


「そうね…」


 二人は声を揃えて言った。


「「バカは死んでも治らない」」


 見事に同じ内容の言葉が出て二人は皮肉げに嗤う。


 ジェドもシアも死者に対し敬虔な気持ちはある。だが助けを拒否されるほど信頼を裏切り続けたウルク村の連中にはまったく同情する気が起きない。例え村長が冒険者達を欺したからと言っても村人も同罪だ。

 冒険者達を村人達は集まって脅し追い出したはずだ。それこそジェドとシアにしたように…。その事に対してまったく知らないという村人は恐らく物心がついてなかった乳幼児ぐらいだろう。


 ジェドとシアが約100年前にいたとしてウルク村の救援を受けるかと言えば答えは『否』だ。


 他人がタダで命をかけるわけがない。もしタダで命をかけるような事を要求する者がいたら、そいつは頭がおかしいとしか言いようがない。他人に命をかけさせるというのならそれに相応しい対価を払うのが当然だ。


 その事をウルク村の連中は気付かなかったのだろう。


 だからこそ、信頼を裏切り続けておきながら冒険者に救援を求めるなんて真似が出来たのだろう。


「結局の所、裏切るという行為は危険というわけだな」

「そうね、少なくとも私達は裏切るという行為はしないようにしましょ」

「そうだな」

「あ、もう乗合馬車が来てる。急ぎましょ」


 シアの言葉にジェドは頷くと乗合馬車の場所に駆け出す。




 ガタゴト…ガタゴト…


 乗合馬車に乗り込みエジル村を出るとジェドはエジル村を眺める。いや、その向こうにあるウルク村に想いを寄せていた。


 あの村は結局の所、人を裏切りその結果滅んだ。まさに因果応報の見本のような村だ。だが、逆に言えば裏切ることなく信頼関係を築くことが出来れば違う結果になるのだ。


 自分達はウルク村の連中のような因果を紡がないようにしようとジェドは心に思った。

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