第18話 因果応報⑧

 ウクナ村にジェドとシアがたどり着いたのはもうすぐ夜が明けるという時間帯だった。


「それにしても君達はすごいな。本当にトロルを斃してしまうなんて」

「ああ、村長も驚くだろうな」


 ラルクとキースは村までの間、ジェドとシアを褒め称えていた。まさか本当に討伐出来るとは思っていなかったのだろう。


「いえ、うまく罠に嵌まってくれたからですよ」

「ええ、罠に嵌まらなければ私達は間違いなく死んでいましたね」


 何度も同じやり取りをしているのだがラルクとキースはしつこいぐらい、くり返している。


 そんなやり取りをくり返しながらウクナ村に到達したのだ。


 ラルクとキースはそのまま村長宅へ向かう事にする。すると周囲の村人達も続々と村長宅に集まってくる。


(やはりもう一幕あるというわけだな)

(どう出るつもりかしら…)


 ジェドとシアは警戒を強める。なぜなら集まっている村人の雰囲気があまりよろしくないからだ。村人達の目には好意的なものは感じられない。ジェドとシアがトロルを討伐に出かけてから村長が村人達になにかしら指示を出したのだろう。


 村長宅にはすでにベンが待ち構えており周囲に村人達がいる。


「よくやってくれた。あのトロルを討ち果たしてくれたおかげで儂らも安心して暮らすことが出来る」


 ベンが威圧的にジェドとシアに言う。その声にジェドとシアはここまで威圧的にでる理由を考える。


(さて…普通に考えれば報酬の件だろうな)

(報酬を値切ろうとしていると言った所かしら…)


 ジェドとシアはベンの行動をそう予測する。この前の森の中で聞いた村長の『あんなこと』というのは冒険者にただ働きをさせようとしたといった所だろう。それが理由で冒険者が寄りつかなくなったというところと判断する。


「だが、報酬を一人あたり金貨1枚というのはあれから村の者と話し合った結果、やはり高いと言う事になった」


 ベンがものすごく嫌らしい顔でジェド達に言う。完全に予想通りの言葉にジェドとシアは呆れてしまう。


「あ、そうですか」

「それじゃあ、ここにいても仕方ないわね。ジェドさっさと行きましょ」


 ジェドとシアの返答にベンを始め村の連中が呆気にとられる。てっきり、猛抗議をすると思っていたのだ。


 ジェドとシアの反応にラルクが戸惑いながら尋ねる。


「ちょっと待て、お前らそれで良いのか?」

「ええ、構いません」

「問題ありません」


 ジェドとシアはあっさりと言う。ジェドとシアのまるでこの展開を読んできたような反応にだんだんと不安になってきた。


「そ、それなら…なぜお前らはトロル討伐を請け負ったのだ?」


 ベンがジェドとシアに言う。


「そりゃ断ったら害されそうだったからだよ。俺達はあんた達のような怪しい連中を何一つ信じちゃいなかったから、裏切られたなんて思っちゃいない」


 ジェドの言葉に村人達は鼻白む。さらにジェドは続ける。


「大体、トロル一体に一人あたり金貨1枚ずつなんて信じる方がおかしいだろ。空手形からてがたは額面が大きければ大きいほど良いと思ったんだろうけどな、バレバレで笑いそうになったよ」


 ジェドはベンと周囲の村人達を見渡しながら皮肉っぽく嗤う。


「お前達が冒険者にかつて何をやったかは大体察しがつく。どうせお前ら冒険者に払うべき報酬を踏み倒してせせら嗤ってたんだろ」

「…」

「おい、そこのお前、文句を言った冒険者を欺して嘲るのは楽しかったろ?」


 突然、ジェドに指差された男は動揺する。


「で、結局そんな事ばかりしてるからこの村は滅んだというわけだな」

「!!」


 ジェドの言葉に村人達は驚いた顔をする。ジェドの発した言葉の意味が村人達はとっさに理解できなかった。


「何を言ってるんだ小僧?」

「そうよ…この村が滅んだ? 何言ってるのよ!!」

「じゃあ、ここにいる俺達は何だと言うんだ!!」


 村人達は口々にジェドに向かって文句を言い始めた。だがその顔には不安の色が濃くなり始めている。


「幽霊だろ」


 ジェドのあっさりとした声に村人達はさらに気分を害したようだ。


「だってなぁ…シア」

「うん、私達は元々、エジル村に置かれてる冒険者ギルドの依頼にあったゴブリン討伐のためにここに来たのよ。そこの冒険者ギルドの職員の方がこの辺りのゴブリン討伐を冒険者が受けたがらないのは2日がかりになって野宿しなければならないからって言ってたわ。なのにその職員はこの村の事を一言も言わなかった。この村には宿屋があるのにね」


 シアの言葉に村人達は静かになる。どうやら村の存在が消されているような扱いを受けたことに少なからず衝撃を受けているらしい。


「さらに言えば、なぜお前らこんな夜中に明かりもつけないで生活してるんだ?」


 ジェドの言葉に村人達は視線を交わし合う。ジェドの指摘に今更ながら疑問が生まれたのだろう。


「お前らにはこの世界がどう見えてるんだ? こんな夜中に明かりもつけずに生活できるのはお前らが人間でないからだ」

「俺達は人間だ」

「じゃあなぜお前らはこの異常な状態に気付かない?」


 ジェドの言葉は止まらない。


「さて…ここからが報酬を踏み倒そうとするような詐欺師の集まりのお前らに質問だ」


 ジェドの言葉に村人達は視線をジェドに集中する。


「なぜ俺とシアがここでお前らにこんな話をすると思う?」

「え?」

「もちろん、お前らのゲスすぎる企みに対して一言言ってやらねば気が済まないというのはある」

「そうね、それは大きいけど話をした理由はちゃんとあると思わない?」

「な…」

「さっき、俺は言ったよな『害されそうだったから引き受けた』って」


 ジェドとシアの言葉に村人達は不安げな顔を浮かべる。ここでジェド達が暴れるのではないかと思ったのだ。


「安心しろよ。別にここで暴れるような事はしない」


 ジェドの言葉に村人達は困惑を強める。


「じゃあ、お前達は一体何をするつもりだ!?」


 ベンがジェド達に尋ねる。


「俺達は何もしないさ。黙ってここを去るだけだ」

「は?」

「なぁ、どうして俺達がお前達に害されることはないと判断したと思う?」

「?」

「お前達は決まった時間しか活動できないんだよ」

「なんだと?」

「俺達は最初この村の入り口で休もうとした」

「それがなんだ?」

「わかんないか? なんでここに村があってわざわざ入り口で休むんだ? 普通、この村で泊まろうとするのが普通だろ」

「…」

「俺達はここに村があるなんてまったく気付かなかった。という事は決まった時間になった時に村が出現したという事だ」

「嘘だ!!」

「まぁ嘘と思いたければそう思えば良いさ。お前達が活動できる時間は恐らく夜中だけであり、朝日が昇るときには消えているんだろう。そして…」


 ジェドはここで一端、言葉を切る。


「もう夜明けだ」


 ジェドの言葉にシアがニッコリと笑って言う。


「そういうこと、あなた達がなぜ彷徨っているのかわかんないけど、欺すような人達だから同情はしないわ」


 シアの言葉が終わると同時に山間から太陽がのぞく。すると日の光が村に降り注ぐ。日の光に当たった村人達はまるで光に溶け込むように消えていく。


 影になっており日の光にあたるのが遅れた村人達はジェドとシアの言っていることが事実であることに気付かされると驚愕の表情を浮かべるがすぐに日の光があたり消えていった。


 先程まであった村人も建物もすべてが消え、植物に侵食されたかつての村が哀れな姿を見せている。


「ふぅ…賭に勝ったな」


 ジェドは安堵の息を吐きながら言う。その言葉をシアは聞き疑問を呈する。


「ちょっとジェド、賭って何の事?」

「ああ、奴等が活動できない時間帯の可能性がもう一つあったんだ」

「それは?」

「うん、あいつらが就寝した時に消えるんじゃないかという可能性」

「就寝?」

「まぁ可能性は低かったけどあり得ない事はないからな」

「ジェド…勝手に私の命もチップにしないでね」


 にっこりと微笑むシアの笑顔だったが目はまったく笑ってない。


「はい」


 軽口を叩こうとしたがジェドは思いがけない迫力にただ一言声を発するのが精一杯だった。


「とりあえずエジル村に戻るとしよう」

「そうね…この件はあとでじっくりと話し合いましょ」

「はい…」


 ジェドとシアは帰ろうとしたときに気付く。


「なぁシア…あれ…」

「なに?」


 ジェドが指差した先には大きな屋敷があったのだ。他の村の建物はとっくに朽ち果てているというのにその屋敷だけは少々荒れていたが健在だったのだ。


「怪しいな…」

「そうね…」


 短い言葉にやり取りだが、ジェドとシアは屋敷に背を向けて歩き出す。今の二人にとってあの屋敷を調べるのは命取りだと判断したのだ。冒険者として大成するためには、やはり勇敢さと無謀の区別をきちんとつけるべきでありこの状況で、危険な屋敷探索をするつもりは一切無かったのだ。


 新たな謎というか危険を感じたがジェドとシアは屋敷に背を向けて歩き出す。


 だが、いつか自分達の実力が上がったときにこの村に再び帰ってくることをなんとなく二人は感じていた。

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