第17話 因果応報⑦

「それではさっそく出発したいと思います」


 ジェドはベンに言う。


「え?いや準備もある事だろうし、討伐のメンバーを募るのに時間がかかる」


 ベンの言葉は最もだったが、ジェドとシアにしてみればこの村で一晩過ごすほど危険なものはないと感じていたために譲る気は全くなかったのだ。


「いえ、お気持ちは有り難いのですが場所を教えてくれれば私達だけで行きますので」


 ジェドははっきりと言う。出来る事ならこの得体の知れない村の人間はついてきて欲しくないのだ。


「いや、さすがにお前達だけじゃあ、俺達も行く」


 30代の狩人が申し出る。先程のベンの会話で出てきた『ラルク』か『キース』かどちらかだろうが、どちらがラルクでどちらがキースか現時点ではわからない。


「おいラルク、滅多な事を言うもんじゃない。今は止めるのが先決だろう」


 ベンがラルクを窘める。どうやら若い方がラルクであり、もう一人の方がキースである事がここで判明する。


「申し訳ありませんが、俺達は王都に行くというのがそもそもの目的なのです。乗合馬車は明後日の正午に出ることになっています。それを逃せばまた1週間足止めを食うことになります。それならこの依頼はキャンセルさせていただきます」


 ジェドの言葉に全員が黙り込む。


「…わかった。そこまで言うのなら…ラルク、キース、この二人をトロルの巣穴に案内してやってくれ」

「村長…しかし」

「仕方あるまい、本人達がそう言っているのだから」


 ベンと狩人達は苦々しい声を出す。そしてジェドとシアを睨みつけるように見ると苛立たしげに言う。


「わかった。そんなに言うのなら責任も自分で取ると言う事じゃな。どんな結末になっても儂らには責任はないという事で良いな?」

「もちろんです」


 ジェドもあっさりと返す。


「じゃあ、シア行こう」

「そうね、行きましょう」


 ジェドとシアはそれだけ言うと村長宅から出て行く。それにラルクとキースも続いた。


「ラルクさん、キースさん、それでは案内を頼みます」


 ジェドは二人にぺこりと頭を下げる。


「あ、ああ」


 ラルクとキースは戸惑いながらも二人を先導することになった。









 二人の狩人の先導に従い、四人はトロルの巣に向かって進んでいた。30分程進んだところでラルクが声を潜めてジェドとシアに声をかける。


「あそこだ…」


 ラルクの声から緊張が伝わってくる。ジェドとシアがラルクの指差す方を見ると高さ3メートルほどの洞穴がぽっかりと口を開けている。周囲の木々の密度が低いために月明かりが差し込んで見えたのだ。


「わかりました。それであの洞窟はどれぐらい奥行きがあるんですか?」

「確か…20メートルぐらいだ」

「そうですか…それではラルクさんとキースさんはその辺から薪を集めてください。乾燥していなくても構いません」

「あ、ああ」


 ラルクとキースはジェドの言葉に頷くと薪を集めに出かける。


「シアは俺を手伝ってくれ」

「うん。何をするの?」

「洞窟の入り口にロープを張ってトロルを転ばせるつもりだ」

「そんな子供だましで大丈夫?」

「仕方が無いさ。まともにトロルと戦えば俺達じゃあ殺されるのは確実だ。それよりも単純な罠をいくつか組み合わせる方が良いだろ」

「そうね…」


 ジェドとシアは洞窟の脇に生えている木と木の間にロープを結びつける。その後は周囲にいつものジェド作の罠をはる。その作業をしながらもラルクとキースの作業をチラチラ見る。


 シアが【照明イルミネーション】の魔術をメガホンのような形の筒の中に使い手元を照らしてくれているおかげでジェドは罠を張ることが出来る。だが二人はまるで昼間のように薪を集めている。


「ジェド…私思うんだけど…」

「なに?」

「あの二人も、いえあの村の人達って…」

「ああ、多分そうだろな」

「何とか無事に帰らないとね」

「もちろんだ」


 ジェドとシアの会話は小さくラルクとキースの耳には当然届かない。


「二人とも…」


 薪を集め終えたラルクとキースはジェドとシアに声をかける。ジェド達はできるだけ顔が引きつらないように返す。


「ありがとうございます。あとは俺達がやりますのでお二方は後ろに隠れていてください」

「ああ、わかった」


 ジェドの言葉にラルクとキースは頷くと後ろの茂みに隠れる。


 ジェドとシアは集められた洞穴の近くに集められた薪を洞穴の中の3メートルほど奥に積み上げるとシアの魔術により火をかけることにした。当然ながら薪を洞窟の中に運び込む時は緊張したが、奥の方からトロルの鼾が鳴り響いているところからどうやら眠っているのは間違いない。


 シアの魔術により薪に火がつきぱちぱちと燃え始める。湿気を含んだ薪だろうが何でも良いので集めてくれた為に火がついた薪はすぐにもうもうと煙を発することになった。


「よし…シア、用意してある薪を全部ここで火にくべてしまおう」

「わかったわ」


 ジェドの指示通りに薪が火にくべられるたびに炎と煙が立つ。ジェドとシアはそれを確認すると洞穴の外に出る。ジェドは洞穴のふちに身を隠し、シアはロープを張った場所で姿をさらしてトロルが出てくるのを待つことにする。


 理想を言えばトロルが煙に巻かれて死んでくれるのが一番なのだがそこまで上手くいくとはジェドもシアも思っていない。この煙はトロルが慌てさせるのが目的なのだ。


 ジェドもシアも洞穴をじっと見つめている。かなりの量の煙が発生しているのは明らかでそろそろトロルの寝所にも煙が満ち始めるところだろう。


 ジェドは耳を傾け洞穴の様子を伺っていると盛大に咳き込む音がジェドの耳に聞こえてくる。どうやら煙に巻かれて死ぬという理想はここで潰えたとみて間違いない。


 ジェドはシアに手で合図を送る。


 シアはジェドの合図で現状を把握したのだろう。ボウガンを洞穴の方に向ける。それとほぼ同時にジェドは剣を抜き身を屈める。


 この初手をしくじるとジェドとシアの勝率は一気に下がる。そのため、何が何でも成功させる必要があったのだ。


 ドスンドスン


 洞穴の中からこちらに向かって足音が響いてくる。


 そして…


 洞穴から一体の巨大なトロルが姿を現す。それからすぐに『バシュン!!』という矢を放つ音が響く。もちろん放ったのはシアだ。


 シアの放った矢はトロルの腹に突き刺さる。だが、トロルの筋肉量は人間とは比べものにならない。シアの放った矢はトロルの腹に1~2㎝程しか刺さっていない。突如襲った痛みを与えた相手をトロルは睨みつける。


(シア、よくやった!!)


 ジェドはニヤリと嗤い、剣に魔力を込めて強化するとトロルのふくらはぎの位置に斬撃を見舞う。


 ジュパ!!


 ジェドの剣はトロルの足の筋を見事に切断する。


『ギャァァァァァア!!』


 トロルの口から絶叫が放たれる。ジェドはその声を聞きながら自分の攻撃が効果があったことを察すると跳躍しトロルの背中に剣を突き立てる。ジェドの剣はトロルの背中の筋肉を貫き内蔵まで達した。


『ギィィィィィ!!!』


 トロルは凄まじい痛みのために暴れ、ジェドを振り払った。振り払われたジェドはごろごろと転がるがなんとか立ち上がる事に成功する。


 バシュン!!


 再びシアの手からボウガンの矢が放たれる。突き刺さった箇所はトロルの左目だ。


『ガァァァッァァァッァァァァァ!!』


 再び発した痛みにトロルは絶叫を放つ。シアの矢は確かに左目を射貫いたのだが、これは別に狙っての事ではない暴れるトロルに放っただけで単なる偶然だった。


(よし!!…とどめ)


 シアは手早く詠唱をするとトロルに向けて【魔槍マジックランス】を放つ。魔槍マジックランスは魔矢マジックアローの強化版とも言うべき術である。ただし魔矢マジックアローは一度に複数放てるが、魔槍マジックランスは一度に放てるのは一槍だけだ。


 ズシュ…


 シアの放った魔槍マジックランスはトロルの口から入り後頭部から突き出ている。トロルは白目をむくとその場に倒れ込んだ。


 ズズゥゥゥン…


 トロルは2、3回痙攣するとそのまま動かなくなった。喉を貫いていた魔槍マジックランスが消滅すると傷口から血が噴き出す。


「…よかった」


 シアの言葉は小さかったがジェドにははっきりと聞こえた。


「とりあえず、これで討伐は完了だな」


 ジェドはトロルの死体から剣を抜き取りトロルの左耳を切り取り袋に回収する。


「ええ、何とか生き残れたわね」

「ああ、普通に遭遇してたら間違いなく死んでたけど罠に掛かってくれたから助かったな」

「うん」


 ジェドとシアはその後、仕掛けていた罠を回収して、ウクナ村に無事に帰ったのだった。

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