第58話 No pain, no gain

 

「ハアアアアアッ!!!!」



 アメリアが手掌で氷を操ると、そのままその勢いに乗って突撃してくる。もちろん、彼女の右手には接近戦のために氷の剣が握られていた。



「レベッカ、援護を頼むッ!!!」



 切羽詰まった様子でそう頼むリリィー。レベッカもそれに応じて、後方からの支援を開始する。



「分かったわッ!!!」



 レベッカはリリィーの後ろから強大な氷を錬成してそれをアメリアにぶつけるようにして放出する。だが、アメリアの目の前には炎の壁のようなものが出現し、一瞬でそれを全て溶かしてしまう。



 全属性領域エレメンツスフィア。これを解放した瞬間から、彼女の指定した範囲内においては全ての属性の錬成をほぼノータイムで使用することができる。それは高速錬成クイック以上の速度だ。



 そうして、疾走してくるアメリアをリリィーは真正面から対峙する。右手に持っている氷の剣。あれを破壊し、アメリアを気絶させれば……などと考えている間にもアメリアは目の前まで迫っていた。



「ハッ!!!」


「クソッ!!!」



 リリィーは胸ポケットに隠していた短剣で彼女の剣を受け止める。リリィーが持っているのは錬成物ではなく、正真正銘の鋼でできた剣。一方のアメリアは錬成物の剣。普通に考えれば、錬成物の方が強度が劣るのだが、アメリアとリリィーは完全に鍔迫り合いをしていた。否、むしろアメリアの方が押しているようにも見える。



 アメリアの錬成強度はすでにこの世界に定着しているのだ。そのため、たかが鋼でできた剣に折られるほどのものではない。



「リリィー、避けてッ!!!」



 後方からのレベッカの声を聞いた瞬間、彼はその場にしゃがみ込む。そして、アメリアの眼前には幾重にも絡み合う炎の渦がまるで蛇のように向かっていた。



 だが、この程度の奇襲でアメリアが負傷することはなかった。



「甘いわね、レベッカ……」



 右手をかざすと、今度は水の壁が彼女の目の前に出現する。そして、炎を全て掻き消した後にその水は完全なる氷へと物資変化マテリアルシフトする。



 次いで、レベッカはその氷をもとに氷のつぶてをまるでマシンガンのように射出。リリィーもそれにすでに気がついていたのか、自身の目の前に対物質アンチマテリアルコードの領域を形成していた。




「流石、リリィーね……一筋縄じゃいかないみたい」



 そう言いながら、じっとリリィーを見つめるアメリア。今は一旦距離を取っているが、彼女の全属性領域エレメンツスフィア内にいる限り油断はできない。



(アメリア、まさか……ここまではとは……)



 リリィーは聖薔薇騎士団ハイリッヒローゼンナイツに入ってからのアメリアは知らない。つまりは、彼女がどれほどの実戦能力があるか把握していないのだ。


 そして、いざ直面すると彼は驚愕すると共に感心した。確かに素質はあった。だが、ここまで成長するとは夢にも思っていなかった。仲睦まじく遊んだ日々も、二人で様々な実験をした日々も、全ては無駄ではなかったのだ。



 それが例え、今こうして自分の目の前に立ちはだかるとしても。




「……咲き誇れ、彼岸花」



 ボソッと呟くとアメリアの周囲に再び炎が渦巻いていく。そして、その中からは次々と真っ赤な彼岸花が生成される。宙に浮かんでいるのを見ても、ざっと1000は超えているだろうか。ふわふわと浮かんでいるそれはまるで、花の由来の通り死を予感させる。



 

固有錬魔術オリジンからさらに重ねて、固有錬魔術オリジンか。いや、というよりは全属性領域エレメンツスフィアはアメリアにとってはただの錬魔術なのだろうな……)



 そう冷静に思案するも、確実に追い詰められているのは間違いなかった。あの花の能力は全く分からない。さらに、先ほどから後ろにいるレベッカの呼吸が妙に乱れている。おそらく、今のように自由自在に能力を行使できるのには限界があるのだろう。



 次の瞬間には、レベッカはその場に片膝をついていた。もうすでに錬魔術を使用し続けることは叶わない。そう判断すると、リリィーは単独でのアメリア撃破を決意する。




「レベッカ、今は休んでいてくれ。おそらくその状態には限界があるんだろ?」


「でも……」


「任せとけ。アメリアは確かに強い。でも、俺も捨てたものじゃないさ」



 相手はおそらくアルバート・アリウムを超える錬魔師。自分たちの世代では随一の天才。彼女は今も、そしてこれからも、天才で在り続けるだろう存在。そんなアメリアと本気で対峙することができて、リリィーは内心嬉しかった。



 あの優しかった幼馴染がここまで成長している。確かに、この技術は容易に殺人を可能にしてしまうだろう。でも、それでも、目の前にいる彼女の成長を嬉しく思うのは当然だった。幼い頃、ずっと自分の後ろを追っていたアメリアが今は自分よりもずっと先を行っている。



 そして、それを誇示するかのように進み続ける姿には尊敬の念を覚えた。今現在も、天才で在るという重圧に耐え続け成長するというのはかなりの困難が伴うと理解しているからこその想い。



「話は終わった、リリィー?」



 研ぎ澄まされた意識はますます彼女の能力を磨き上げていく。周囲にある第一質料プリママテリアがパチパチと弾ける様子が、目視で捉えられるほどだ。



 おそらく、全盛期の自分に限りなく近づいている。そう予測すると、彼はアメリアの問いに自信を持って答える。



「あぁ。さぁ、来い……アメリア。俺たちを止めたいのなら、本気を出すといい。白薔薇の実力を見せてやるよ」



「そう……それは楽しみね」



 白薔薇。それはリリィーの別称であり、力の象徴。過去にはその名に誇りを持っていたし、誇示するのにもためらいはなかった。


 この国を象徴する薔薇にリリィーの純白の長い髪を掛け合わせて白薔薇。それはこの国だけでなく、敵国にも畏怖の象徴として刻み込まれている名称。



 だが、力を失ってからは決して自分からはその名を口にすることはなかった。



 そして、今……彼は自分で白薔薇の名を告げた。



 それが何を意味しているのか、アメリアには誰よりも手に取るようにわかった。


 つまりは、力が例えなくとも、全身全霊で挑んでくるのだと。幼馴染だろうと、女性だろうと、クラスメイトだろうと、色付ツヴェートだろうと、聖薔薇騎士団ハイリッヒローゼンナイツだろうと、そんな肩書きはどうでもよく、一人の錬魔師として、自分を仇なす敵として、自分を相手をするのだと理解した。



「「あああああああああああッ!!!!!!」



 互いに叫びながら、交錯する想い。



 こうして、戦闘は佳境を迎える。


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