第57話 When in Rome, do as the Romans do

 


 ダリルは動揺していた。


 というのも、レベッカ第三王女とリリィー・ホワイトを拘束しろという命令が上から降りたからだ。しかも、その容疑は最近起きている連続怪死事件の犯人として。



 到底信じられるものでは無い。ダリルはレベッカ王女のことはよく知らないが、リリィーのことはよく知っている。戦場で共に戦ったあの同士が、あのような事件の首謀者だとは思えない。もちろん、これは感情論だ。だが、どうにもおかしいという予感が頭をよぎる。



 しかし、そう考えている間にダリルは他の警備隊と共にレベッカ王女の私室の前まで来ていた。ここで命令に背いては自分の生活も危ぶまれてしまう。とりあえずは、拘束した後に詳しく調査しよう。そう楽観的に考えるも、それはこの後覆されることになる。




「レベッカ王女……少しお時間よろしいでしょうか?」



 警備隊のリーダーの一人がレベッカの部屋のドアをトントンと叩いた後に、そのように言葉を告げる。


 そして、しばらくした後にそのドアがギィイイと音を立ててゆっくりと開く。




「……なんでしょうか?」



 警備隊が正装をしているかつ、何十人も後ろに控えている。この様子を見て身構えるのは無理もなかった。そして、リーダーはさらに言葉を続ける。




「レベッカ王女……あなたには殺人に関与した容疑がかけられています。主犯はリリィー・ホワイト。彼は今頃、聖薔薇騎士団ハイリッヒローゼンナイツに捕らえられているでしょう。どうか、ご同行願います」



「……」



 眉が少しだけ上がると、レベッカはそのまま黙り込んでしまう。何を長考しているのか、そう全員が思っていると、レベッカはにっこりとした顔でとんでも無いことを口にする。



「そうですか、では逃げないといけませんね。道を開けてもらえますか?」



 いつもの調子で、否、いつもよりも機嫌がいいような調子でニコニコと話すレベッカを見てダリルは冷や汗をかいていた。



 この女は危険だと本能が警鐘を鳴らしている。



 この感覚はよく覚えている。戦場ではこの感覚に何度となく助けられて来た。今まで何人もの手練れを見て来ているからこそわかる。ヤバい人間というのはどこかが決定的に狂っている。それはリリィーも例外では無い。そして、目の前にいるこの女も同じだと……そう予感した瞬間……目の前が閃光によって弾ける。




「「「「「あああああああああああッ!!!!!!!」」」」」



  警備隊のほぼ全員がその場に叫びながら転がって行く。そして、その数秒後に……意識を失った。



「うううぅぅ……なんだこりゃ……」



 ダリルだけは、あの直感を信じた彼だけは防御がわずかにだが間に合っていた。しかし、今のは錬魔術を発動するモーションが全くなかった。



 高速錬成クイックでさえ、わずかな兆候があるというのにレベッカはそれを超える速度で錬魔術を使ったのだ。



 レベッカの情報は事前に頭に入れてある。飛び級はしているものの、実技に難あり。それが彼女の情報としての評価だった。だが、今の光景を見てそれが正しいなど誰が言えるだろうか。



 

「さて、行きましょうか」


「ま……待て……」



 悠然と歩くレベッカを制止するために無理やり体を起こすダリル。満身創痍なのは間違いない。それでも、止めなければならない。それこそが今の自分が果たすべき任務なのだから。



「……あなたは、正しさとはなんだと思いますか?」


「正しさ……だと?」


「上の命令に従っているだけの者には分からないでしょうね」



 金色の髪に、真っ赤な瞳をしている彼女はじっとダリルを射抜く。そして、彼に向かって手をかざすも……急にその行動をやめるとそのままテクテクと進んで行く。



「命に別状はないでしょうけど、一応診てもらった方がいいですよ。では、私は失礼します」



 その言葉を最期にレベッカはその場から消えてしまう。



 なんだ、何が起きているんだ? あの命令はやはりどこかおかしいのか? 彼女のいう正しさとはなんだ?



 考えても答えなどではしない。それならば、進むしかない。今までは、戦争中も戦争が終わってからも誰かの命令にずっと従ってきた。自分の意志で動いているようで、そうではなかった。



 郷に入っては郷に従え、というがダリルは初めてその考えに背くことに決めた。もう、後悔はしたくない。誰かの命令に従っているだけの人生はもう、いいだろう。確かに、自分で考えなくていいということは楽だ。しかし、それではあのエイウェル共和国の機械人間オートマトンと何が違うのだろうか。人間を人間たらしめているのは、この意志なのではないか。



 まっすぐ進み続けるリリィーと何も恐れることなく進んで行ったレベッカを見て、ダリルは覚悟を決めた。



 今が、今こそが変わる時なのだと。自分も前に進む時なのだ。



「よっ……と……」


 なんとか、体を奮い立たせると軽く柔軟をする。


 動く。視界にも影響はない。とりあえずは、救護班を呼び、そのあとはレベッカ王女を追いかけるべきだろう。



 向かった先は間違いなく、聖薔薇騎士団ハイリッヒローゼンナイツ本部。



「よし……」



 そういうと、ダリルもその場から姿を消すのだった。


 

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