第52話 To be or not to be, that is the question



 再び見る誰かの死。慣れてはいる。慣れてしまってはいる。だが、何も感じないわけではない。単にこの光景を見ても吐いたり、変に取り乱したりしないだけで、リリィーの心は尋常ではなくかき乱されていた。



「……アメリア、団員全員と……警備隊にも連絡しておいてくれ。俺は何か手がかりがないか探す」


「……分かったわ」



 アメリアはすぐに室内を後にすると、通信用の錬成陣を展開し、各所に連絡を取り始める。リリィーはアメリアにはこの光景をあまり見せたくなかった。彼女はダリアとは親しそうだった。何年間の付き合いかは知らないが、おそらく彼女が入団した当初からそれなりに懇意にしていたのではないだろうか。



 そんなアメリアにこの世界はあまりも悲しすぎる。その配慮もあって、彼女にそう頼んだのであった。



 だが、リリィーもショックを受けているのは自明だった。以前会ったばかりの女性が惨殺される。それも、こんな形で。何もできない自分に憤慨するも、今は捜査をするのが優先だと思い、彼は室内を探索し始める。



(まずは遺体の状況を見るか……)



 そうして、ダリアの方に近づいていく。



 四肢は切断されているも、それが無造作に幾多もの釘が打ち付けられることによって固定されている。また、その胴体も同様である。頭部に関してはよく見ると、天井から糸のようなものがあり、それによって彼女の頭部は浮かんでいた。



 そして、例のごとく、彼はダリアの首元を確認する。



 すると、そこには


 Second victim


 と掘られていた。ナイフで掘られたのだろうか、そこからは未だにドクドクと血が溢れ出している。滴り落ちる血は地面に溜まっていき、さらに広がっていく。



 この後の鑑識のためにも、変に触れたりするのはせずに彼は他の箇所を見て回る。



 まずは机。前と同じように無造作に書類が散らばっている。だが、よく見るとそこには無理やりちぎったような箇所があった。その内容を見ようにも大量の血に覆われていて、読むことができない。だが、元素眼ディコーディングサイトでよく見るとそこには本当に微かだが第一質料プリママテリアが残存していた。



 この犯行を行ったのは、おそらく裏切り者であるX。



 Xは彼女の研究資料が目的だったのだろうか。それとも単純に聖薔薇騎士団ハイリッヒローゼンナイツの団員が目当てだったのか。それは分からない。



 後手に回り続けている現状。しかし、少しだけ活路を見出すことができた。仮定の話だが、おそらくダリアは研究によってXには都合の悪い事実を発見した可能性がある。そう推測すると、早速彼女の起動されっぱなしのパソコンの方へと向かっていく。



 研究者は自身の研究データをまとめているはずである。だが、その中を見ると……直近一ヶ月のものが全くない。これはおかしい。ダリアとリリィーが出会ったのは一ヶ月以内。さらにその時には間違いなく研究データを保存していた。これで自身の仮説がさらに可能性が高いものとなる。



「なるほど……いや、でも……」



 そう言いながら、思考を整理する。この情報は開示すべきか、という問題だ。おそらくXは聖薔薇騎士団ハイリッヒローゼンナイツのメンバーで間違い無いだろう。その団員を殺す技術を有している錬魔師を他に知らないからだ。それに呪縛カースの件もまた、その仮説を裏付けることになる。



 だが、以前のように情報整理という形で情報を提示してしまうのは……まずいかもしれない。これからは自分だけで捜査を続けていくしかない。なぜなら、残り全員がXの候補なのだから。



 そうして、ダリアの件は世間に公開されることなく隠密に処理されるのだった。



 § § §



 葬式には身内と団員全員が参加した。


 こんな短期間で誰かの葬式に連続して出るなど、初めてのことだった。墓に埋められていく棺桶を見ると、人の死を改めて実感することになる。



 隣ではアメリアが静かに涙を流している。だが、その目は真剣に棺桶を見つめていた。悲しいという感情はあっても、心は折れていない証拠だろう。


 そして、そのさらに右隣ではアリスが同様に涙を流していた。彼女もまた、取り乱すことはせずに真顔のまま流れ出る涙をそのままにしている。



 こうして、死者は報われるのだろうか。でも、誰かに泣いて悔やんでもらえるのはその人の人徳だろうと考える。


「ねぇ、リリィー……私たちは大丈夫なのかな?」


「……弱気になるな、アメリア。冷静であることに努めるんだ。まだ、終わっていない。ダリアさんのことを想うなら、なおさらここで止まってはいけない。人の死を乗り越えるとはそういうことだ」


「……そうだね。絶対に犯人を捕まえないと」



 流れる涙を拭うと、アメリアはそのまま視線をそらさずに土をかけられていくダリアの入った棺桶をじっと見る。まるでこの光景を心に焼き付けるように。この記憶を決して忘れることのないようにと。




「ここでこんなことは言いたくねぇが……お前、現場に遭遇しすぎじゃないか?」



 アメリアとは逆にいるディルクがそう尋ねてくる。この疑問は当然のものだと思いながら、リリィーは彼と対峙する。



「……偶然ですよ。と言いたいところですが、私も少し不可解だと思っています」


「ほう、とぼけねぇのか。で、何が不可解なんだ? お前がXの可能性がないわけじゃないぜ? 言葉には気をつけろよ」



 射抜くような視線でリリィーを見るも、それに怯えることはない。


「……正直、自分がその場に居合わせるように仕組まれているのではないかと思ってます」


「それで、相手の狙いは分かってんのか?」


「いえ。でも、きっと自分の力に興味があるのではないでしょうか」


「……対物質アンチマテリアルコードか」


「……ただの憶測です。でも、これ以上の犠牲は何としても防がなければなりません。ダリアさんのような犠牲を出さないためにも」


「……あぁ、そうだな」



 正直、ディルクの言いたいことは分かる。確かに、自分がやってきてから不可解な死が連続するのはおかしなことだろう。


 でも、リリィーは犯人は自分ではないことを知っている。だからこそ、他の団員を疑うしかない。先ほど話していたディルクだってそうだし、あの幼馴染のアメリアも疑うしかない。



 疑心暗鬼になりながら、真っ暗な闇を進むように、真実へと辿り着かなければならない。これ以上の犠牲は出さない。絶対にだ。



 だが、その想いは容易に裏切られることになる。



 ……というのも、この葬式の数日後にディルクが自宅でバラバラの遺体で発見されたからだ。



 聖薔薇騎士団ハイリッヒローゼンナイツ 残り6名。

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