第48話 Information arrangement

 


 葬式が終わった数日後、リリィーは再び聖薔薇騎士団ハイリッヒローゼンナイツ本部へと足を運んだ。彼はあの時起きた事を詳細なレポートにまとめて、本日団員の前でそれを発表することになっている。


 もちろん、そのデータは軍や警備隊にもすでに送られている。だが、聖薔薇騎士団ハイリッヒローゼンナイツ本部では自身の憶測や考察も含めて言う予定である。



 あの時の現象は何だったのか、またジェナはどうしてあのような奇怪な状態になっていたのか。ここ数日は悲しむ暇もなく、以前のようにデータをまとめることに時間を割いた。そして、彼はそのデータをクラウドにアップロードすると、そのまま軽く準備をして本部へと向かった。



 § § §




「お集まりいただき、ありがとうございます。本日は例の殺人事件について立ち会った私のデータをもとにお話ししたいと思います」



 そう言うと、リリィーはプロジェクターで自身の持っているパソコンの情報を壁面へと映し出す。円卓についている団員はそれをじっと見つめる。手元にはすでに印刷された資料が配られており、全員それを頭に入れた上で今回の件についての情報整理が行われる。


 ちなみに、リリィーが進行役に抜擢されたのは当事者だからである。



「まずは、事件の発生時刻です。これはダリル・カークの証言からも分かるように、23時10分あたりで間違い無いでしょう。そして、被害者であるジェナ・ホワイトは22時10分に私とその妹のエステル・ホワイトと会話をしています。と言うことは、事件はこの60分の間に起こったとみていいでしょう」



 淡々と情報を述べていく。アメリアはリリィーに同情しているのか、終始悲しそうな顔をしているが、そんなことは御構い無しに彼は言葉を続ける。



「そして、ジェナ・ホワイトを司法解剖した結果のデータはすでにご覧になられてると思いますが……彼女の前頭葉、中でも前頭前野が著しく発達していることが分かりました」



 そう言うと、そのことに対して疑問が上がる。それもそのはず、ここにいる全員は確かに錬魔術のエキスパートだが、脳に対する知識もそれと同等とは限らない。リリィーや他の研究をしているものは別として、脳の働きなど知らない者がいてもおかしくはない。それが例え、団員であっても。



「その、リリィーはそのことについてどう考えてるの? 前頭前野は何か関係が?」


 そして、疑問を呈したのはアメリアだった。彼女は知らないことを臆面もなく曝け出す。リリィーはそれに対して全員に話しかけるようにして、その質問に答える。



「前頭前野は思考や創造性を担う脳の最高中枢であると言われていますが、錬魔師においてはそこは第一質料プリママテリアを保有する場所だと最新の研究で明らかになりました。つまりは、彼女は自身の脳に異常なまでの第一質料プリママテリアを蓄えていたのです。彼女と対峙した時、錬魔術を変換すると言う技術を使っていましたが、それはこの影響の結果でしょう。脳に蓄える保有量を超えていたため、変換という手段を無意識のうちに実行していた。そして、キャパオーバーしているにもかかわらず、第一質料プリママテリアを求めていたのは……未だに謎ですね」




 あれから分かったことは、ジェナは明らかに第三者によって脳を弄られたということだった。眼球が抜け落ちていたのは詳しくは分からないが、それは脳の操作のために必要な手順だったのかもしれないと今は考えられている。



「そして、この中にその容疑者がいると考えるも……監視カメラにはあの時に席を外した者が誰もいませんでした。ジェナ・ホワイトは22時30分に会場から化粧室へと消えています。しかし、その間に団員は全員パーティー会場にいた。そのことだけ見ると、うちの中に裏切り者はいないのかもしれません」



「そいつはどうだろうな。影武者って可能性もあるぜ?」



 ディルクはリリィーの言葉を遮るようにして発言する。そして、リリィーもその発言は最もだと思いその言葉を肯定する。



「そうですね。今までの手際を考えて、そんな間抜けな証拠を残すとは思えません。おそらく、何か特殊な方法を使ったと考えるのが妥当かと」



「だろうな。奴は用意周到だ。さらに、ご丁寧に死体にメッセージを残している。ま、遊んでいるんだろうな。こちらの様子を嗤ってるに違いない」



 自虐するようにいうディルクだが、リリィーは全くその通りだと思った。ここまで、全てが後手に回っている。加えて、分かったのはそこにある事実だけで裏切り者へとつながる情報は何も得ていない。



 焦っていた。彼は叔母を殺された怒りもあるが、何より現状がこのままだと良くないことを痛感している。だが、今できるのはこうした情報整理だけだ。ならば出来ることだけでもやるしかない。



 そう思いながら、彼はその後も今回の件についての考察と意見を述べていくのだった。



 § § §



 本部での会議から解散した後、リリィーは自宅に戻ろうと思ったが今回の件について随一の研究者であるダリア・ファーノと詳しく話したいと思い彼女の研究室へと向かおうと決めた。



 現在は、本部で機材の片付けをアメリアと二人でしており、そのこともあって彼女に先に帰るように促すのであった。



「アメリア、片付けまで手伝ってくれて助かる。俺は少しダリアさんと話したいことがあるから先に帰っててくれ」


「……いや、私もいくわ。あの人はきっと戻ってからすぐに寝てるだろうし。起こすの手伝うわ」


「そうか……なら、よろしく頼む」



 本当はアメリアを連れていくことはしたくなかった。彼女には何かと世話になっているし、これ以上迷惑をかけたくないと思っていたからだ。しかし、彼女がそうしたいというのなら自分がとやかく言うのも野暮か、と考える。


 そして、二人はダリアの研究室へと足を運ぶのだった。


 

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