第47話 Crossing and then a funeral

 



「ん? あれは……?」



 パーティーも終わろうかという頃、リリィーは微かな違和感を感じる。彼は得意能力エクストラの影響もあって、発動していない時であっても第一質料プリママテリアに対する鋭敏さは群を抜いている。そんな彼が感じた違和感は、大量の第一質料プリママテリアの発生だった。特有の肌が灼けていくような感覚。嫌という程味わったあの時の感覚が蘇ってくる。


 そして、それを確かめるべく、彼は特異能力エクストラである元素眼ディコーデングサイトを発動する。双眸が金色に変化すると共に、その視界には、大量の粒子が知覚される。




「……これは一体……」



 視界に広がったのは尋常ではない第一質料プリママテリアの偏り。第一質料プリママテリアは普通ならば、均等に大気中に散らばっている。だが、偏りが存在するときはたいていの場合、錬魔術が行使された後に発生する現象。



(この規模は、固有錬魔術オリジンに匹敵する量だ……しかし、誰にも気づかれずにどうやって……?)



 彼はそう考えると、外に漂っているその粒子の後を追いかける。周囲の人間で今の状況に気がついているものはいない。リリィーは何か嫌な予感が頭をよぎると、そのまま誰かに連絡するのも忘れてその痕跡を追いかけるのであった。




 § § §



「ハァ……ハァ……」



 物資マテリアルコードが使えない今、彼は自身の身体能力を底上げすることができない。毎日体力づくりをしているが、緊張もあって徐々に心拍数が上昇していく。肉体だけでなく、精神も疲労している状態でも彼は進むのをやめなかった。



 そこには確かな予感があったからだ。




(おかしい……この距離までずっと第一質料プリママテリアが流れるように漂っているなんて)



 そう考えながら、進んでいくとその先は王宮。夢中になって追いかけていると、すでに王宮の手前までやってきてしまったのだ。



 そこで、彼が目にしたのは……戦友であるダリル・カークが戦闘をしている最中だった。そして、彼が辿ってきた第一質料プリママテリアは長い髪の女性から出ているものだった。



「ダリルッ!!!!!」



 そう叫ぶと、リリィーはすぐさま対物質アンチマテリアルコードを展開。そして、それを二人の間の地面に叩きつけるように放つ。



「ぐッ!!!!」



 次の瞬間、ダリルと女性の目の前に砕かれたコンクリートの破片が地面から吹き出るように散らばっていく。リリィーの対物質アンチマテリアルコードは何も錬魔術にだけ適応している訳ではない。そもそも、対物質アンチマテリアルコードの本質は第一質料プリママテリアの逆転。そして、第一質料プリママテリアは全ての物質の根源である。つまり、対物質アンチマテリアルコードはこの世全ての物質に対して有効なのである。



 と言っても、この世界に元から存在するものは、錬魔術を逆転させるよりも骨が折れる。その理由は、世界に元からある物質は世界への定着が強いのだ。逆に錬魔術で生み出されたものは、この世界にあるものの、定着は弱い。


 そして、リリィーはコンクリートを砕くように逆転させたが、それはかなりの困難が伴う作業で彼は思わず自身の右手を抑える。

 



 一方の、ダリルはそれを両手で防ぎながら、なんとか後方へと後退していく。



「ダリル! 状況はどうなっている!!?」



 なんとか、ダリルに対する脅威を取り除くとリリィーはそのまま彼の元へと駆け寄っていく。



「いきなり襲われたんだ。女性は両目がなく、それに様子もおかしい。加えて、錬魔術が打ち消される。対物質アンチマテリアルコードかもしれない」



 淡々と事実を述べる。二人の間には懐かしい再会を喜ぶ暇もなかった。あるのは目の前にある脅威を取り除くという作業だけ。しかし、二人に迷いはなかった。二人ともこの国のために生きると決めた身。すでに覚悟は決まっているのだ。



「いや、あれは……対物質アンチマテリアルコードじゃないな」


元素眼ディコーディングサイトか……何かわかったのか?」


「もう少し待ってくれ……」



 そう言って、リリィーは女性の周囲にある第一質料プリママテリアに目を向ける。彼女を渦巻くように粒子が漂っている。しかも、その規模は徐々に増していく。だが、そこには対物質アンチマテリアルコードの形跡はない。自身が使っているからこそよく分かる。そして、リリィーはダリルにあることを提案するのだった。



「ダリル、あの女性に何か錬成物を放ってくれ。なんでもいい」


「……わかった」



 ダリルはすぐさま、氷を錬成するとそのまま女性の足に向かってそれを放つ。だが、その氷は彼女に触れる前にかき消されてしまう。



「ああああああああああ、目ぇええ……私のおおおおおおおおおおおおおおお」



 先ほどとは打って変わって、相手の位置がわからなくなったのか、女性はその場をふらふらと歩き回る。



「……なるほど。あれは錬成したものを吸収して、それを自身の周りに第一質料プリママテリアとして放出している。いわば、変換だな」


「変換……そんな現象、今まで確認されていたか?」


「俺が知る限り、論文で発表されていたのは見たことないな」


「リリィーが知らないということは……」


「さぁ、どうだろうな。あの本人の技術なのか、しかし様子を見る限り第三者に何かされたように見えるがな」


「それにしても、さっきからこっちに気づかないのはなんでなんだ?」


対物質アンチマテリアルコードで位置を撹乱している。おそらく、彼女は第一質料プリママテリアを追っている」


「全く、流石としか言いようがないな」


 やれやれと言った様子で、ダリルは肩を竦める。久しぶりに再会した旧友は、あの頃と同じように……いや、それ以上に聡明になっている気がした。もともと、能力を失ったぐらいで腐るようなやつではないと思っていたが、さらに成長している様子を見て、ダリルは嬉しそうに軽く微笑むのだった。



「とりあえず、あの変換は俺が対処できる。一気に第一質料プリママテリアを搔き消すから、ダリルは合図したら彼女を拘束してくれ」


「了解した……おい、何か様子が変じゃないか?」


「確かに……!!!?」



 そう指摘した瞬間であった。



 彼女の肉体はまるで体内に爆弾でも仕掛けてあったかのように、四散する。四肢は全て綺麗に飛び去り、その場に真っ赤な液体が大量に飛び散っていく。見るも無惨な光景。手の指もバラバラに飛び去っていき、足の指も綺麗に空中を飛翔する。だが、なぜか頭部だけはそのまま綺麗に残っていた。



 そして、ゴロゴロと目の前に転がってくる顔を見てリリィーは驚愕する。それは彼女の右側の首筋にこう掘られたあったからだ。



 First victim



 さらに、その顔をよく見ると……それは先ほど見たばかりの人間の頭部だった。



「第一犠牲者だと……おい、これはどうなってるんだ?」



 戦場でこのような光景には慣れてしまっているのか、ダリルは淡々と目の前の事実を受け入れ、リリィーに尋ねる。しかし、彼が答える様子はない。何か悲しい目をして上空を見上げている。



 そして、リリィーはやっとの思いで口を開く。



「第一犠牲者は……俺の叔母だ、名前はジェナ・ホワイト。つい先ほど、パーティーで会話をしていたんだ……」


「……それは……」



 ダリルはなんて言っていいのか分からずにそのまま黙り込んでしまう。それと同時に応援が来たのか、周りが少し騒がしくなる。そして、やって来た人間は例外なくその口を押さえながら状況を把握しようとする。



 こうして、生誕パーティーの1日は最悪の形で幕を閉じることになる。




 § § §




 葬式は身内だけで厳かに行われた。


 確かに、ジェナはホワイト家で嫌われ者だった。それは亡くなった本人も自覚している事である。だが、死んでしまえばいいと思うほど嫌いなものは一人もいなかった。今となっては、口うるさい人になってしまったが、昔は人当たりも良く優しい人だったのを皆が覚えているからだ。



 全員で黙祷をした後、棺桶が墓へと埋められていく様子を見て多くのものが泣き崩れ始める。


 その中でリリィーだけは淡々とその様子を見つめていた。内心に渦巻いているのは後悔と彼女を殺した者への怒り。グッと拳を握り締めると、隣に立っているエステルがそっとその手を握ってくる。



「……エステル」


「私ね、叔母さんのこと好きじゃなかった。でもね、こんなことになればいいなんて思ってない……思ってないよ……ううううう……ジェナ叔母さん……どうして……」



 リリィーは黙ってそっとエステルを抱きしめる。そして、そのままエステルは彼の肩を借りて号泣する。



 死には慣れている。だが、こうして身内の葬式に出たのは初めてだった。それも目の前で悲惨な死に方をしたのが身内である叔母というのは、彼の心にかなり重くのしかかった。



 守れなかった。もちろん、今回の件は彼の責任でこうなったのではない。しかし、あの時にこうしていれば、という仮定がどうしても頭をよぎってしまう。そもそも、対峙した時にジェナだと認知していれば対応も違っていたかもしれないのだが、彼は状況を把握するのに精一杯で気がつくことができなかった。



 死には慣れているも、彼はその心の整理の仕方はまだ慣れていない。いや、これはきっと永遠に慣れることはないのだろう。



 そう思いながら、彼は死者が安らかに眠れるようにと祈った。



 



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