第44話 A murder case 4


「クソッ!!!」



 向かってくる女性に錬魔術を使うことを躊躇うも、ここで大人しくやられるわけにはいかない。


 ダリルは覚悟を決め、女性に対して錬魔術の行使を試みる。



(足、とりあえずそこを凍らせればッ!!!)



 そう考えると、彼はコードに氷を加えてそのまま高速錬成クイックで錬成をする。もちろん、狙うは女性の足元。



「アアアアアハハハああアアアアはははははっはあああああアアアアアハハハああアアアアはははははっはあああああアアアアアハハハああアアアアはははははっはあああああアアアアアハハハああアアアアはははははっはあああああ!!!!!!!!!!」


「なッ!!!!」



 叫びながら突進してくる女性の足元に確かに錬魔術を発動させた。しかし、彼女が止まることはない。そう、発動したと思ったらその直後に錬魔術が消えたのだ。


対物資アンチマテリアルコードなのか!!? しかし、あれはリリィーにしか使えないはずッ!!!)


 そう思うも、今はその問いについて深く考えている場合ではない。攻撃手段がなくなった今、やることは自衛である。相手を拘束するどころか、自身が拘束、いや殺されかねない状況。久しぶりの実戦の雰囲気にダリルは呑まれそうになる。


(落ち着け、まずは自衛が優先だ。錬魔術が効かないと分かった以上、やることは時間を稼ぐこと。すでに応援は呼んである。それまで持ち堪えるしかないッ!!!)


「ハッ!!!!」



 自身の体に物資マテリアルコードを発動させると、彼の体は通常の倍以上軽くなる。つまりは、動けるスピードが倍になるということ。この手の身体強化は錬魔師としては必須技術。そして、ダリルはそれを今出来うる最高の精度で発動。



「目ええええええッ!!!!! その目を頂戴いいいいいいいいいいいッ!!!!! あははははははははッ!!!!! アハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!」



 依然として、相手は牽制程度に発動する錬魔術をノーモーションで打ち消していく。しかし、相手が錬魔術を発動する様子はない。ひたすらに迫って来ては、その両手で眼球を抉り取ろうとしてくる。それがわかっていれば、避けるのはたやすくない。



「フッ!!!」



 肺から空気を思い切り吐き出すと、そのまま女性の腹部に蹴りを食らわせる。だが、何度吹っ飛んでも、何度攻撃しても、その勢いが止まることはない。


 ダリルの心は徐々に磨耗していった。今の攻防はまだ5分程度の時間しか経っていない。だというのに、それ以上に感じてしまう。時間は相対的なものではない。絶対的なもので、それは人の感覚によって左右されてしまう。焦る。迫り来る死の感覚。あの戦場とは異なる、得体の知れない怖さ。


 おかしい。この相手は異常だ。一体、何の目的でこのような行動をとるのか。


 もしかしたら、いや……この女性は操られているのではないだろうか。その予感が頭によぎり始める。奇声を発しながら、眼球を抉り取ろうと行動するのは尋常ではない。また、何度打撃を受けても立ち上げるその身体。確実に骨は何本か砕いているはず。それにもかかわらず、まるで痛覚など存在しないかのように同じ行動を繰り返す相手。


 

 実際に見たことはないが、錬魔術は人の心を操れるものもあるという。ダリルはその噂を信じてはいなかったが、少しずつ確信していた。そもそも、この錬魔術という技術はコード理論を使用して体系化されているも、分からないことはまだ多く存在している。人の心を操り、思いのままに動かせる術があってもおかしくはない。



 そう考えながら、何度も女性の攻撃を躱しながら攻撃を続ける。



「はぁ……はぁ……はぁ……」


「ああああああああああああああああ!!!!!! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い、ああああああああああああああああああははっはハッッッッハはっはははっはハッハハあああ!!!!!!!!!!!!!!」



 磨耗していた。心も身体も。


 相手にはダメージが入っている。しかし、目の前の様子を見るにまだまだ戦えそうだ。応援は呼んだはずだが、なぜか来ない。もしかしたら、この状況は第三者が意図的に操作して作り出したのではないだろうか。その疑問は確信に変わりつつあった。


 だが、もう限界が近い。彼は悟っていた。すでに体内に残存する第一質料プリママテリアはわずか。さらに、周囲にある第一質料プリママテリアも少なくなっているのを感じていた。


 死が迫っている。じりじりと追い詰めるように、心も身体も少しずつ削られていくように、彼は追い詰められていた。



「はぁ……はぁ……マリー、すまない。もしかしたら……」



 思わず口にしてしまう弱気な発言。妹が気がかりだった。もし、ここで倒れることがあれば妹のマリーは一人ぼっちになってしまう。自分が守ってやらなければならないのに。そう思うと覚悟を決めて、再び錬魔術を発動。自身の体の性能を最大限までに高め、女性の頭蓋を本気で砕きにいく。



(流石に頭部を砕けば……動かなくなるはずだッ!!!)



 だが、彼の渾身の蹴りはギリギリのところで交わされてしまう。女性は一見、何の意図もない行動をしているかに見えたが、実は学習していたのだ。彼のその動きを。


 だからこそ、今までのように攻撃を食らうことはない。


 一方の彼は、隙だらけ。覚悟を決めた渾身のおお振りだからこそ、致命的な隙が生まれてしまった。それを逃すほど、目の前の相手は愚かではなかった。



「アハハハハハハハハッ!!!!!!!」



 叫びながら迫る女性の両手。避けることは不可避。それを悟りつつ、彼は何とか動こうとするも……

 


(まずいこれはッ!! やられ……いや……死……ぬ……)



 直後、空中に大量の血液が舞う。



 暗転。

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