第43話 A murder case 3



「ふぅ……」


 過去を少しだけ想起しながら、ダリルは一息つく。


 リリィーは決闘で引き分けたが、聖薔薇騎士団ハイリッヒローゼンナイツに入団することになったという事実を知ってダリルは今日の警備にあまり集中できていなかった。彼は進むと決めた。しかし、自分は何も、何も変わっていない。


 妹との生活を守るために今の生活を享受して何が悪い。むしろ、自分を過酷な環境に再び追いやることこそが悪である。妹をもう悲しませてはいけないのだ。


 葉巻の煙が空高く舞い上がっていく。それが夜風に吹かれて虚空へと滲むように溶けてく。


 もともと、喫煙をしているわけではなかった。しかし、聖薔薇戦争からもどってきてからというもの、何かを埋めるように喫煙をするようになってしまった。



「ん? 何だあれは?」



 遠くから、女性だろうか、赤いドレスを着て15センチほどの高いハイヒール履いた女性がフラフラと歩いてくる。


 確か、今日は王宮区内で小規模なものだが王族のパーティーが催されていたはず。その会場とはここはそれなりに距離があるが、酔った挙句にここまで迷い込んでしまったのだろう。そう考えると、すぐに葉巻の火を消しておぼつかない女性の元へと駆け寄っていく。




「どうしましたか、大丈夫ですか?」


 長い髪が顔を隠すようにだらりと垂れているので、顔がよく見えない。ダリルはすぐに顔を確認しようと女性の髪を掻き分けようとするが、それは彼女の奇妙な声によって妨げられてしまう。



「あああああああぁの……」


「気分がすぐれないのですか?」



 依然として顔は見えない。だが、今はそれよりも女性を休ませた方が先決だろうと思い、女性の体を支える。



 しかし、妙である。パーティーが行われているのは、ここよりも少し離れた場所のはず。例え酔っていたとしても、王宮に近いこの場所までやってくるのはおかしな話である。そのことを尋ねようと思い、ダリルはもう一度彼女に声をかけてみる。



「あの、どうされたのですか? パーティーの帰りですか? それと、御自分のお名前はわかりますか?」


「あ、ああああああの………私の……」


「私の? 何ですか?」



 酔っているというよりは、何か奇妙な言動が目につく。全体的に脱力した体。それにどこか血の匂いがする。しかし、見た所出血している様子はない。


 しかし、その答えはすぐに分かる事となる。



「あああああああああの、私の目……知りませんか??」


「目……ですか??」



 冗談だろう。そんなわけがない。そんな事あるわけがない。しかし、自分の直感は明らかに危険を感じ取っているように思えた。あの時の、死が迫ってくるような感覚。ダリルは、彼女の言葉の真偽を確認するために意を決して、髪の毛を恐る恐るめくる。



 そして、そこには……彼女の欲している目がなかった。


 空洞。あるはずのものがない。人間に備わっている眼球が綺麗に刳り抜かれていたのだ。そこから微かに流れ出る血。推測するに、これは錬魔術による犯行だろう。人の手で物理的にこの犯行を行おうとすれば、もう少し傷が残ってしまう。しかし、錬魔術を使用すれば可能だ。犯行の具体的な手順までは分からないが、微かに錬成痕が残っている。



 冷静にそう考えていると、女性が再び口を開く。



「あああああああああああああ、私の目はああああああああ、見つかりましたかあああああああああ?」


「いえ、その……」



 なんて言って良いのか分からない。はっきりと告げるべきだろうか。いや、それよりも先に治療だ。とりあえず、止血が優先だろう。しかし、その考えは彼女の奇怪な行動によって一蹴される。



「ないの? ないの? 私の目、目……ああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアああああああ????????????」



 発狂。



 突然、奇声を発し始める。それと同時に彼女の体には無数の錬成陣が現れる。

そして、その錬成陣からは目と思われるものが次々と生み出される。ギョロギョロと動くその目の数は50を超えているだろうか。




「ああああああああああああああ、見える。見えるわあああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアア???」



「うッ……」



 思わず口を押さえる。見るに耐えない光景。本来ある場所に目がなくて、それ以外の体のいたるところに目が湧いてくるようにでてくる。このような現象は見たことがない。おぞましい。一体全体、この女性はどうしてしまったのか。



「やるしか……ないか」



 これはもう取りおさえるしかないだろう。そう決意し、胸ポケットにあるレコーダーを起動する。これは音声と共に映像も記録できる代物である。それを上から錬魔術で固定すると、腰を低く構える。



「ああああああああ、貴方の目……私にくださいなああああああああああああああああああああ???????」




 女性はそういうと、そのままダリルの方へと一目散へ駆けていくのだった。月明かりに照らし出された二人が交錯する。

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