第42話 A murder case 2


「広いな……」


「そうだね〜。私もこの学院には長年いるけど、相変わらずここは広いよね」



 決闘が行われる日、ダリルとマリーは二人で観客席へとやってきた。マリーは兄と一緒にいることができて嬉しそうで、ニコニコと微笑んでいたが、ダリルは神妙な面持ちでコロシアムの中央を見つめる。



 リリィー・ホワイトの全盛期を知る数少ない人間である、ダリル・カーク。リリィー・ホワイトの全盛期は間違いなく聖薔薇戦争だと言われているし、リリィー自身もそう思っている。しかし、多くの人間は伝聞という形でしか知らない。彼と共に戦った部隊の仲間は多くが戦死してしまった。その中でも、ダリルは生き残った。リリィーが隊長を務める部隊で彼は最期まで戦い抜いた。だからこそ、よく知っている。あの天才の真の実力というものを。



 使用する錬魔術はダリルが見てきたものの中でも群を抜いていた。超高速で錬成される物質に、決して崩壊することのない強度。複雑なコードの組み合わせでも、彼は一瞬で錬成して見せた。



 圧巻。当時のダリルはリリィーに恐怖という感情を抱いていたが、それ以上に感動という感情があった。自分はおそらく、錬魔術の歴史の中でも最高の天才と肩を並べて戦っている。そんな自分がどこか誇らしかった。ダリルがリリィーの部隊に配属されたのは作為的なものではなく、偶然だった。もちろん、そのことは本人も知っている。しかし、それでも、そんなことは関係なくリリィーの実力は圧巻だった。


 だが、リリィーは守るべきものを失いすぎた。磨耗していくリリィーを励ましながら彼は恥じた。いくら天才とは言え、まだ幼い子どもなのだ。そうして、ダリルはリリィーを支えながら、そして彼に助けてもらいながら戦場を生き抜いた。


 それから、ダリルがリリィーに会うことはなかった。病院に見舞いにでも行こうと思ったが、それはやめた。なんて声をかけるべきか分からなかったのだ。そして、妹を養うためにも警備隊での仕事を再開しなければならない。



 そうして、数年が経過し今に至る。



「あ! 出てきたよ!」


「あぁ……」


 あの時と同じような服装をして、リリィーはコロシアムの中央へと出てきた。それは本当に懐かしい姿であった。だが、背丈は少し変わっただろうか。あの時よりもだいぶ身長が伸びている気がする。それに加えて、髪も長くなっている。それでも、あの風貌は変わらない。そこに安心感を覚えたダリルは、少し微笑むながら決闘を観戦するのだった。



 § § §



 はっきり言って痛々しかった。全盛期の彼を知るが故に、ダリルはもどかしさを感じていた。当時ならば、あの程度の相手は簡単に倒せていたはずだ。本気を出すこともなく、屈服させることができたはずだ。



 だが、現実はそうはいかない。対物質アンチマテリアルコードしか使えないリリィーには、体術しか手段がない。確かに、対錬魔師で考えればリリィーは優れていた。でも、それはダリルにとって忌々しい考えだった。



「何やってるんだッ! くそッ!!!」



 思わず声が出てしまう。それを聞いたマリーは心配そうに兄の顔を覗き込む。



「どうしたの……お兄ちゃん……大丈夫??」


「あぁ……すまない。取り乱してしまった」



 マリーはそれ以上は追求しない。彼女は知っていた、隣にいる兄がどれだけリリィーのことを大切に想っているかを。兄はほとんどリリィーのことを語らない。しかし、ある日の夜、酒に酔っていた彼が漏らした言葉によって彼女は知ったのだ。兄とリリィー・ホワイトの関係というものを。



 だからこそ、兄はあそこまで苦戦しているリリィーが見ていられないのだろう。そう思うと、彼女も視線を決闘へと戻すのだった。


 

 そうして、最終局面。最後はひたすら殴り合い。もうそこには錬魔師らしい戦いなどなかった。息をのむ。だが、目は逸らさない。そして、ダリルはリリィーが錬魔術の大半を失ったとしても、彼の本質は失われていないと知る。



(リリィー、お前は相変わらずだな……)



 そう思うと同時に、ヘレナの声が響き渡る。



「この勝負、引き分けとするッ!!!」



 瞬間、しんと会場が静まりかえる。しかし、そんな中ダリルだけが立ち上がり拍手をし始める。それから拍手はまばらに起きるも、スタンディングオベーションとまではいかなかった。彼だけが、リリィーの過去を知るダリルだけが……最後まで拍手を続けた。



 血だまりに沈む二人の姿。ダリルはリリィーがあそこまで傷ついた姿を一度も見たことはなかった。だからこそ、心打たれてしまった。彼にとっての戦争はまだ終わっていないのだ。リリィー・ホワイトはあの部隊の無念を晴らすために、戦い続けているのだ。



(リリィー、お前はその道を選ぶのか……)



 きっと、聖薔薇戦争は再開される。ダリルはそう想っていた。しかし、次回の戦争に志願兵として参加するのはやめとこうと思っていた。前回生き残れたのは、運が良かっただけだ。それに妹もいる。あの時は流されるままに、戦争に行ってしまったが妹をかなり悲しませてしまった。



 だが、リリィーはまだ戦う気でいる。いや、今も自分自身と戦っている。



(俺は……俺は……)



 ダリルは彼の姿を見て何かを決意するのだった。


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