第40話 A friend of mine



「やぁ、リリィー。なんだか久しぶりだね」


「ノエルか……それとアルバートも」


「おう。久しぶりでもないか、リリィー・ホワイト」



 2限の授業が終了した後、リリィーは一人で学食へと来ていた。券売機で魚定食を頼み、それを受け取った後、どこで食べるかとウロウロとしていた矢先にノエルが話しかけて来たのだ。


 そして、隣にいるアルバートは未だに全身包帯だらけ。リリィーも多少の傷は残っているが、彼ほどの包帯は巻いていない。それが二人の雰囲気を如実に物語る。


 互いに嫌っているわけではない。互いに憎んでいるわけではない。しかし、好ましいかと言われるとそれも適切には表現できない。



 見つめあう二人。緊張していく周囲。周りの人間もヒソヒソと何やら話し始める。



「おい、あの二人って」「あぁ、リリィー・ホワイトとアルバート・アリウムだ」「引き分けだったんだろ?」「まさかここで暴れ始めないような?」「あの二人……やっぱりいけるわね!」



 その声を聞きながらも、リリィーはじっと彼を見つめる。



 何を言えば良いのだろうか。正直、アルバートのことは何も知らないに等しい。知っているのは錬魔術の特性とその負けん気な性格。全ては決闘の時に得た情報だ。それ以外は何も知らない。



「まぁ、せっかくだからリリィーも座りなよ」


「あぁ。失礼する」



 考えはまとまらないも、ノエルの誘いに答えてテーブルにつく。目の前にはアルバート、隣にはノエル。不思議な組み合わせ。しかし、飛び級で入学した男子はこの3名のみ。本来ならば、これが普通なのかもしれない。



「ノエルはアルバートと知り合いなのか?」


「ん? まぁ、そうだね。ちょっと昔から縁があってね。と言っても、最近のアルバートはピリピリしててあまり話していなかったけど」


 そういうと、アルバートが口を挟んでくる。



「おい、ノエル余計なことは言うな。まぁ、でも俺の中で色々と整理はついた」


 そして、アルバートはなぜかリリィーの方へと手を伸ばし、握手を求めてくる。


「リリィー・ホワイト。俺はお前を追いかけてここまできた。その一方で、恨みのような気持ちも持っていた。お前のその才能に嫉妬していたんだ。でも、先日の戦いでもうその気持ちは晴れた。勝手な言い分だが、ありがとう」


「……いや、そうか。こちらこそ、ありがとう」



 二人は短い間だが力強い握手をする。和解と言うほど、互いの心情を知ったわけではない。しかし、二人は察した。互いに色付ツヴェートだからこそある使命。それを知っているからこそ、何も言わない。



「いや〜、二人とも仲良くしてくれて助かるよ。僕だけがあの教室で浮くと困るからね〜」


「ノエルはそう言うことは気にしないと思っていたが」



 リリィーがそう尋ねると、ノエルは眼鏡をクイッとあげてその質問に答える。



「いやいや、僕だって人間だ。それなりに人間関係は気にするさ。それにちょうど今、アルバートにあの戦闘のことを聞いていたのさ」


「? 何か疑問でもあるのか?」



 その問いにはアルバートが答える。


「リリィー・ホワイト、お前の対物質アンチマテリアルコードのことだよ。確か、俺との戦闘の時には形状を変化させていたみたいだが?」


「そのことか。えーっと、知ってると思うが、物質マテリアルコードは処理の過程の際に形を変化させることができる。対物質アンチマテリアルコードも同様のことができるのさ。俺が使ったのは、拡散。つまりは、コードを拡散させるように無数に放つ技術。対錬魔師戦では、いかにコードを効率よく逆転させるかが重要になってくる。だからこそ、第一質料プリママテリアの偏っているところにピンポイントで拡散を当てていたんだよ」



 食事をとりながら、自分があの時に何をしていたのかと簡潔に述べていく。対物質アンチマテリアルコードの変化については、使用者であるリリィーしか知らない。そのことを論文にまとめたりもしていない。だからこそ、かなり貴重な情報なのだが彼は臆面もなくそれを伝える。


 今までは一人だった。アメリアは幼馴染で昔から一生にいたが、やはり性別の壁というものは存在した。というのも、彼女はそこまで理論や技術的な話に興味がないのだ。どちらかといえば、感覚的な天才。だからこそ、その点においてはアメリアとは気が合わなかった。



 しかし、今目の前にいる二人は違う。二人とももっと知りたいと言わんばかりに、目を輝かせ、前のめりになっている。あまり性差というものを気にしたくはないが、やはり男同士だからこそ通じるものがあるのだろうか。リリィーはそう思いながら話を続けていく。



「ピンポイントに偏りを? そういえば、あの時目が微かに発光していたが……あれは??」



 アルバートはあの時の戦闘を振り返る。


 確かに、対物質アンチマテリアルコードは脅威だった。しかし、今思えばあそこまで簡単に物質を消されていたのは何かおかしいと思っていた。というのも、明らかにあの目が発光し始めた時から自分の物質が消されていく速度が速かったからだ。そのようなこともあって、消耗戦になるのは避けることができなかった。


 そう考えていると、ノエルが核心をつく問いを聞いてくる。



「おそらくあれは、特異能力エクストラ。その中でも、視覚に特化したものじゃないかな?」


「さすがはノエルだな。俺の特異能力エクストラは視界に第一質料プリママテリアを捉えることができる。だからこそ、アルバートの錬成した物質の偏りを見抜くことができたんだ」




 3人はそれからしばらく、あの時の戦闘について語り合うのだった。


 リリィーは友人は特に欲しいと思ったことはなかった。自分は孤独に生きていくのが道理だと思い込んでいた。しかし、同世代の人間とこんなにも錬魔術について語り合うのは初めてだった。そして、人はやはり誰かと意思疎通をすることでこんなにも充実するのかと思いながら、彼は話を続けるのだった。


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