第39話 Amelia perspective 3


 聖薔薇騎士団ハイリッヒローゼンナイツでの日々は苛烈を極めた。当時はまだ戦争が終わってまもない頃。その時に分かっている情報はエイウェル共和国に亡命をした錬魔師がいるということ。つまりはこの国の根幹である錬魔術の情報が漏れてしまったのだ。そこから導かれる答えは一つ。この国は錬魔術に対する戦闘技術も身につける必要があるということ。



 聖薔薇騎士団ハイリッヒローゼンナイツはその技能の習得を真っ先に求められた。それは当然のことだろう。だが、分かってはいても身体が追いつかない。私は毎日毎日、団員の誰かに稽古をつけてもらっていた。いくら最年少での入団とはいえ、まだまだ未熟。私はリリィーとは違うのだ。そう……決して違うのだ。私にはあの溢れんばかりの才能はない。だからこそ、足掻き続けるしかなかった。




 § § §



 王宮区内にある軍の演習場。学校が終わり、放課後となった今私はそこで錬魔術の訓練に打ち込んでいた。



「っく!!!」



 思わず声が漏れる。目の前には100を超えているだろうか、莫大な数の人形が私を取り囲んでいた。それを炎を錬成して焼き払っていくも、次々と生み出される人形に私は手も足も出ない。



「ア〜メリア。錬魔師同士の戦闘において物量戦は基本よ。特に私みたいなタイプは間違いなくこの戦法をとる。今のうちに慣れておきなさい」



 アリス・ラザフォード。聖薔薇騎士団ハイリッヒローゼンナイツの中でも異色とも言える存在。彼女は世界的に有名なデザイナーだが、錬魔師としての実力は一級品。特に人造人形ホムンクルスの錬成はこの国でもトップクラス。いや、名実ともにトップと言ったほうがいいだろう。



 彼女自体にはそれほどの戦闘技術はない。しかし、それを補って余りうる技術がある。それが今私の目の前に広がっている光景だ。



 人形の形状はうさぎのような形をしている。これは彼女の趣味なのだろうか。しかし、至る所に血飛沫が飛び散っているようなデザイン。さらにはその口には鋭利な歯が牙を向いている。噛み付かれてしまったらかなりの負傷を追うのは自明だろう。



 実際に私の両腕はすでに何箇所かやられている。ドクドクと流れ出る血が自分の意識をさらに覚醒させる。



「うああああああああッ!!!!」



 雄叫び。自分を奮い立たせることでなんとか恐怖に打ち勝つ。でも、リリィーはこんな恐怖など塵に見えるほどの戦場で戦っていたに違いない。だからこそ、私はこの程度……乗り切ってみせる。



第一質料プリママテリア=エンコーディング=物資マテリアルコード》


物資マテリアルコード=ディコーディング》


物質マテリアルコード=プロセシング=大規模連鎖錬成エクステンシブチェイン


《エンボディメント=物資マテリアル



 瞬間、目の前に巨大な錬成陣が広がっていき、目の前が火の海に覆われる。焼き尽くす紅蓮の炎。この規模の現象錬成は正直骨が折れる。脳が焼き切れそうになる感覚を味合う。でも、私はそれを理性で押さえ付ける。この痛みも、この苦しみも、リリィーは経験している。この国のために尽くしてくれたのだ。ならば、私もそれを受け入れよう。



 こうして、今日の訓練は終わりを迎えた。



 § § §



「はい、アメリア。水よ……」


「……ありがとうございます」



 地面に寝そべっていた私はなんとか体を起こして、もらった水に口をつける。そうしていると、アリスさんも私の横に座ってくる。いつも綺麗に着飾っているけれども、彼女はそんなことは気にせずに地に腰をつける。



 そして、どこか遠くを見ながら私に話しかけてくるのだった。



「ねぇ、アメリア。あなたはもう、うちの中でも戦闘力で言えば上位に位置しているわ。まぁ……錬成精度は甘いところがあるけどね。それで、なんでそんなに頑張っているの? あなた……このままだと錬魔術に殺されるわよ?」



 錬魔術に殺される。それは錬魔師の間ではよく浸透している言葉だ。つまりは、過度な錬魔術の使用によって死亡したケースが今まで数多くあることを示している。でも、それでも止まるわけにはいかないのだ。



「安全マージンはとっているつもりです。ギリギリのところでなんとかやっています。それに私は……やるべきことがあるのです」


「……リリィー・ホワイトのことはあなたが気に病むべきことじゃないわ。彼は自分で選んで戦争に行ったのだから」


「でも、私は彼を……止める事ができませんでした」


「……これは何を行っても無駄そうね。でも、覚えておきなさい。あなたは誰かの犠牲になるべきじゃない。誰かのために努力するのと、誰かのために犠牲になることは根本的に違うのよ」


「そう……ですね」



 彼女の言葉はよく理解できる。リリィーが救ってくれたこの国で私は野垂れ死ぬわけにはいかない。本当は、彼の意向を考えるのならば、私は大人しく学生をやってそのまま結婚でもしていればいいのだろう。



 彼が作ってくれた平和を享受する事が私にできる最大の恩返しなのかもしれない。



 でも、私には才能がある。錬魔術の扱いはすでにこの国でも上位に位置している。聖薔薇騎士団ハイリッヒローゼンナイツでもそれなりの力を身につける事ができた。


 才能には責任が伴う。確か、それはリリィーの言葉だった。私にはその言葉を胸に前に進み続ける。例え、大事な何かを失うことになったとしても。

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