第13話 アメリアの独白


 繰り返されるこの夢は彼の悲しみを如実に物語っている。何度も、何度も、何度も、繰り返し見てきた光景。真っ赤な薔薇が至る所で咲き乱れるあの戦場。人間の命が容易く散っていくあの地獄。戦場に行った者にしか分かり得ないあの感情。


 私は聖薔薇戦争には参加していない。当時の私はまだ幼いただの少女だったからだ。もちろん、すでにその時から才能は発揮していた。でもそれは彼ほどではなかった。リリィー・ホワイト。私の幼馴染であり、稀代の天才錬魔師と謳われた少年。その天才性故に、彼は戦争に駆り出された。もちろん、彼は自分の意志でそれを選び、戦場に赴いた。


 でも、きっとそれは間違いだったのだ。だからこそ……



 「あーあ、今日リリィーに会うの嫌だなぁ……」



 そんな事を言いながら私は洗面所で顔を洗う。すでに慣れてしまったあの夢。現在の時刻は5時だが目が覚めてしまったので顔を洗って、ベランダへと向かう。


 徐々に明るくなっていく空。今日はきっと晴天になる。今のところ、雲は一つも見当たらない。でも、きっと彼は躁鬱そううつな状態で学院に来るのだろう。それは今までの経験から知っている。


 気丈に振る舞っていてもどこか無理をしている。笑っているけれど、笑っていない。未だにあの戦争の呪縛から解放されていないのだ。でも、私に何ができるのだろうか。


 あの日の契約からすでに2年。見守ってはいるものの、何もしていないのが現状だ。せいぜい、一緒にいることくらい。そんなことでいいのだろうか、と毎日思うも結局は堂々巡りで何しない。きっと私は怖いのだ。現状が変わってしまうのが。リリィーは変わった。それも悪い方に。昔のような無邪気な彼はいない。今の彼は全てに絶望しつつも、それでも抗ってやるという意識が微かにあるだけの抜け殻のようなものだ。



 学院に入ったのはいい機会だった。少しでもそこで刺激を受けて、錬魔術ともう一度向き合って欲しいと思う。



 しかし、確実にこの国は動き出している。聖薔薇騎士団ハイリッヒローゼンナイツでは大きな問題が生じている。それはこの国を崩壊させかねないものである。きっと誰かが、また彼の力を欲するだろう。その運命は変えられそうにない。



 だからこそ、私はできる事をやるのだ。やるしかない。



「……聖薔薇に栄光あれ」



 そうボソッと呟くと、右胸に刻み込まれている薔薇を指先でそっとなぞる。それは身体に直接刻み込まれた証。私が私であるためのモノ。あの日、あの時、私が自分の意志で選び取った結果。真っ赤な薔薇を模したその証は微かに発光していた。



 もう、あの頃には戻れない。それに戻りたいとは思わない。幼い頃は幸せだった。でもそれは虚構でしかなかった。今はそれを知っているし、力もある。


 何よりも彼のため、そして自分のために生きるのだと想い私はベランダを去るのだった。


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