第34話 Amelia perspective 2

 


 リリィーが帰ってきた。だが、彼はすでに……私の知っている彼ではなくなっていた。


 聖薔薇戦争。この王国に錬魔師が誕生してから初めての戦争。初めて、おおやけの場で錬魔術が人殺しの手段として使用された。その戦果は著しいものだったらしい。特にリリィーは軍の中での最大の結果を出したようだ。でもそれは、きっとリリィーにとって誇らしくないことだったのかもしれない。



 私は知っていた。彼が楽しそうに錬魔術を学ぶ姿を。よく私に錬成した様々なものを見せてくれた。私も彼に教わりながら徐々に上手くなっていった。でも、リリィーは天才だった。私やそれ以外の人々とは違う。全てを、この世の全てを生み出すことのできる才能を持っていた。


 きっと私は恐怖していたと同時にその危うさに惹かれていたのだと思う。どこまでも羽ばたいてゆくその姿に恋い焦がれた。身が灼かれるほどの恋をした。でも本当にリリィー・ホワイトに惹かれていたのだろうか。私はあの才能に圧倒され、そして自分もそれを欲しかったのではないだろうか。



 でも、そんな考えは戦後の彼の姿をみて打ち砕かれる。



 § § §



「リリィー!!! 大丈夫なの!!!? ッ!!!!!」


 彼が収容されている病院に駆けつけた私は、リリィーの姿を見るなり息を詰まらせてしまう。



 全身に巻かれている包帯。そして、それに滲んでいる赤い液体。極め付けはその目だ。あの時の、あの輝かしい目からは光が失われていた。この世の全てに絶望した目。怖かった。私にとって神のような存在だったリリィーがここまで摩耗してしまう戦争に恐怖した。



 でも、私はおかえりと言わなくちゃいけない。私は約束したのだから。



「リ、リリィー……おかえりなさい」


「ア、アメリアなのか……」


「うん。そうだよ」


「そうか。俺は帰ってきたのか……」



 この場には私の他にも、医者と看護師、そしてホワイト家とローズ家の人間がいた。遠巻きながらも、私たちを見つめている。だが、そんなことはどうでもいい。今は周りを気にしている場合ではない。私がリリィーのために何かをしなければならない。


「ねぇ、リリィー……」



 私が言葉をかけようした瞬間、リリィーは急に頭を押さえ始める。


「俺が……俺がもっと……あああああああああアアアアアアアアアあああああああああああああアアアアアアアアアあああああああああアアアアアアアァァァアアあああアァァァアアぁあああああああああアアアアアアアアアあああああああああああああアアアアアアアアアあああああああああアアアアアアアァァァアアあああアァァァアアぁあああああああああアアアアアアアアアあああああああああああああアアアアアアアアアあああああああああアアアアアアアァァァアアあ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



 発狂。それを見てフラフラと後方に下がっていく私を母が抱きしめてくれる。



「まずい!! 鎮痛剤を用意するんだ!!!」「しかし、先ほども……!!!」



 何やら医師と看護師がやりとりしているがそんなことは全く耳に入らなかった。


 悲哀。ただただ、悲しかった。私は抱きしめられた母の腕の中で泣いた。人生の中で一番泣いた。母も同様に泣いていた。いやそれどころか、この場にいる色付ツヴェートの皆も泣いていた。



 戦争になど行かせるべきではなかった。今になって悟る。その天才性故に駆り出された。色付ツヴェートで反対するものはいなかった。皆、彼を祭り上げた。フリージア・ローゼンクロイツの再来。それほどの存在がいくら幼いとはいえ、戦争でどうにかなるとは思っても見なかった。錬魔術があればこの王国はどこまでも行けると信じていた。



 だが、その幻想は完全に打ち砕かれた。リリィー・ホワイトは天才である前に、錬魔師である前に、ただの子ども。気丈に振る舞い、大人を凌駕する知識と実力を兼ね備えていても……その精神は成熟し切ってなどいなかったのだ。



「ううぅぅ……リリィー……リリィー……」



 きっとあの時のリリィーは死んでしまったのだ。私はそう思った。今いるのはあの戦争の犠牲者。どこまでも飛んでいける自由の翼は無くなってしまった。血まみれで、何かを諦めたかのような目をしている彼はもう……元に戻らないかもしれない。



 私が守らないといけない。リリィーにたくさんのモノをもらってきた。だからこそ、私はリリィーに次ぐ天才だと言われている。才能にはそれ相応の責任が伴う。確か、リリィーの言葉だっただろうか。



 悲しみと共に、自分への怒りで気が狂いそうだった。私は何もできなかった。ずっと縋っているばかりだった。勝手に尊敬して、神格化することで、リリィーをどこか他人のように見つめていた。



 自分とは生きるステージが違うのだと。それでも追いかけていきたいと思っていた。でも、私は自立しなければならない。そして、リリィーを助けることのできる立派な錬魔師にならなければならない。



「……今度は私が……」



 ボソッとそう呟き、私は覚悟を決める。この錬魔術という技術に向き合い、そしてリリィーのためにこの国のために尽くすのだと。



 そして、それから数日後に私はとある人物と出会う。


 その人物とある契約を交わし私は聖薔薇騎士団ハイリッヒローゼンナイツに史上最年少で入団した。

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