第20話 思惑


 放課後になると、学院内の掲示板にとある情報が掲載されていた。リリィーは帰ろうとしていた矢先に、その掲示板の周りに人だかりが出来ているのを見て不思議に思うのだが、その疑問はすぐに解消されることになる。



「おい、見ろよ……」


「リリィー・ホワイトか。この学院に入ってからやらかしてばかりだな」


「というより、あいつは戦えるのか?」




 その場にいる人間がリリィーの存在に気がつくと、ひそひそと何やら会話を始める。彼はそれを意に介せず、そのまま掲示板の方へと進んでいく。



 そして、そこには……リリィー・ホワイトとアルバート・アリウムの決闘が正式に受理された通知書が掲示されていた。




(なるほど……相手はあのアリウム家の人間か。それに彼は、俺に対して思うところがあるらしいからな。会長がうまいこと焚きつけたのだろう)




 彼はその情報を見ると、そのまま学院を後にする。相変わらずその場には大勢の人間がいた。突然の生徒会入りに加えて、錬魔術が使えないはずの彼が決闘をすることになっている。その情報に驚かないものはいない。また、野次馬の多くは楽しみにもしていた。あの戦争の英雄の実力はどれほどなのか。錬魔術が使えないと言っても、実戦経験者の実力を知りたいと思うものは多いのだ。




 そして、その中にはレベッカもおり遠巻きにリリィーのことを見つめていた。



「リリィー……あなたは……」



 誰にも聞こえないほどの声量でボソッと呟くレベッカ。周囲の人間は彼女の存在に気がつかないほど、決闘の情報に踊らされていた。こうして、彼の苦難の日々が本格的に幕をあけるのだった。




 § § §



「……はぁ」



 アメリアは帰宅するとカバンを乱暴に自室に投げ捨て、そのままベッドに倒れこむ。彼女は大体放課後は、聖薔薇騎士団ハイリッヒローゼンナイツの仕事があるのだが、今日は珍しくそれがなく真っ直ぐ帰宅したのだった。



(……リリィー、あなたは何を考えているの?)



 仰向けになりながら制服の胸もとをはだけさせる。そして、右手で触れるのは聖薔薇騎士団ハイリッヒローゼンナイツの証である、銀の薔薇。それを撫でながら彼女はここ数日の彼の出来事を振り返る。



(錬魔術の暴発、それによる誹謗中傷、生徒会入りに、極め付けは……アルバート・アリウムとの決闘。本当にリリィーが望んでやっていることなの? それともメリッサさんが? 聖薔薇騎士団ハイリッヒローゼンナイツとして何かしているの? そう言えば、うちは今……)



 そう考えていると彼女はある答えにたどり着く。リリィーに価値があるとすれば、それは対物質アンチマテリアルコードが使えること。そして、現在の聖薔薇騎士団ハイリッヒローゼンナイツの任務はスパイの捜索とより高度な対錬魔師の戦闘技術を身につけること。



(つまり……リリィーはまた、この国のために力を振るおうとしているのね……)



 いつもならば、彼女はその事実に気がついた時点で彼のところに押しかけていただろう。だが、今回はそうはしない。その選択は彼の選択だ。自分にできるのはどこまでいっても見守ることだけ。あの戦争に出ていった彼を見送り、そして帰ってきた彼を……



 アメリアは過去を少しだけ思い出すと、舌の裏側を親指で軽く触れる。そうして、あることを確認するとそのまま睡魔に身を任せるのだった。



 § § §



 王宮へ戻ってきたレベッカは自室へ向かわず、現国王である彼女の父のもとに向かっていた。いくら偶像となったとはいえ、王は王。彼女は少し緊張しながらも、いつものように父の自室へと赴く。



「お父様、レベッカです」


「入っていいぞ」



 部屋に入るとそこにはシンプルに机、椅子、本棚しかない。国王である彼女の父は贅沢を好まない。シンプルに質素に暮らすことが性に合っているのだ。



「それで、彼はどうだ……?」


「リリィーはアリウム家の長男と決闘をするようです」


「というと、アルバート・アリウムか。彼の実力はすでに2級錬魔師に迫っている。リリィー・ホワイトは大丈夫なのか?」


「わかりません。しかし、生徒会入りしたところを見ると背後には会長……つまり聖薔薇騎士団ハイリッヒローゼンナイツがいるのではないでしょうか」


「ふむ……」


 国王はその言葉を聞くと、顎に手を当てて思案する。それを見ながらレベッカもあることを考えていた。



(この国は……一体いつまで彼を……)



 そう思うも、国王はすぐに口を開くため彼女の思考は遮られてしまう。



聖薔薇騎士団ハイリッヒローゼンナイツは王室のための組織だが、今はすでに国のための組織だ。きっと、こちらの思惑とは別に動いてるのだろう……よし、今日は下がっていい。いつも助かる」


「いえ、お父様の苦労もご承知してますので。それでは失礼します」



 レベッカはそのまま父に背を向けると、扉へと向かっていく。その背中は何か悲しさを感じさせる……そんな雰囲気があった。

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