第6話 邂逅と終焉

 

 メリッサと別れた二人は入学式が行われる中央講堂に来ていた。ここでは、高等部と大学での入学式が行われる。そのため、周りにいる人はそれなりに大人びているものが多かった。ちなみに、初等部と中等部は第二講堂で入学式が行われる。


「中央講堂は主に式典とか行事の時に使われるのよ。まぁ、大きさは相変わらずね」


「なんかもう……驚かなくなってきたな……あまりにも凄すぎて」



 相変わらずアメリアとリリィーが他愛ない会話をしていると、二人は周りからジロジロと見られていることに気がつく。



「おい、あれって……」


「リリィー・ホワイトとアメリア・ローズだろ? 色付ツヴェートの」


「リリィー・ホワイトの入学は本当だったのか……」


「……あれが聖薔薇戦争の英雄か」



 各々が遠巻きからこそこそと話すのを聞いたアメリアは、文句を言ってやろうと思いその場から歩き出そうとするが……



 それはリリィーによって制止される。右手を掴まれた彼女はすぐさま振り返り、彼に抗議をする。



「リリィー! 止めないで!! あんな風に遠巻きからコソコソするなんて、最悪よ!!」


「アメリア、俺は気にしちゃいない。それにいいんだ。彼らの気持ちもわからんでもないからな」



 瞬間、後ろから何者かが近づいてくると同時に大声で話しかけてくるのだった。



「そうです!!!! コソコソするのは僕の矜持に反します!!! だからこそ、真正面から尋ねましょう! あなたはリリィー・ホワイトですね??」



「え、あ……そうだけど」



 ぐるぐるとした丸メガネに、ボサボサの茶髪。身長はそれほど高くなく、160センチの半ばぐらい。極め付けは……彼はなぜか白衣を羽織っていた。



「ちょっと、あなたどちら様??」



 アメリアの高圧的な態度と言葉を全く意に介せず、ボサボサ頭の少年は話を続ける。


「これは失礼。僕の名前はノエル・ラトゥールと言います」


「あなた、あのラトゥール家の人なのね……」


「如何にも!!! うちの家は代々研究者の家系。錬魔術の研究に人生を捧げ続けて来ました! しかし!! そこにいる君は!!!」



 ノエルがビシッとリリィーを思い切り指差すので、流石の彼も今のノエルの言動にはたじろいでいた。



「え、俺が何かした……? 初対面だよな??」


「忘れたとは言わせませんよ!! 君は二重コード仮説を提唱し、そして……二重コード理論を完璧に体系化した!!! なんて頭脳! なんて才能だ!! 僕は君を尊敬しているんだ!! あの理論は完璧だ……それにあのフリージア・ローゼンクロイツでさえ知りえなかった新しいコードを発見するなんて……僕はね、君がこの学園に入学すると聞いて楽しみにしていたんだよ!! あのリリィー・ホワイトと同じ学び舎で学べるなんて、僕はなんて幸運なんだ!!! そういうわけでこれからよろしく頼むよ!」



 そう言って、右手を差し出してくる彼を見てリリィーは思索に耽る。



(……この学院には、こんな奴もいるんだな)


 そして、それに応じてリリィーも右手を差し出して彼の手をしっかりと握りしめる。



「こちらこそ、よろしく。ラトゥールくん」


「ふ、僕たちはもう盟友だろ? ノエルでいいよ」


「そうか、なら俺もリリィーでいい。ノエルみたいな人もいて安心したよ」


「アハハハハハハハ!!! やはり君も研究者だね!! 僕みたいなやつに安心感を覚えるとは!! 見た目通り、変態扱いされて周りからは敬遠される性質タチなんだよ、僕は。しかし、君とは気が合いそうだ」


「奇遇だな。俺もそう思ってるよ」


「それでだけど……君の提唱したコード仮説は一体どこから湧いた疑問なんだい?? 論文で二重コード、その中でも対物質アンチマテリアルコードは完璧に理解したつもりだが……何をどうしたらあれを発見するに至るんだい?」


「あぁ、それは俺が錬魔術を使い始めて一年経ったある日のことなんだが……」


「ふむふむ……なるほど!!! それで?? おぉ!! なんと!! やはり、実践は大事だな!!」



 リリィーとノエルがかなり高度な内容について話しているのについていけず、アメリアはその場に立ち尽くしていた。そして再び、こう思うのだった。



「あれ? もしかして私ってずっと蚊帳の外なの??」




 § § §




 そして、ノエルとたっぷり話した後にリリィーとアメリアは再び移動していく。その最中、アメリアが終始機嫌が悪かったことにリリィーはずっと疑問に思っていたのだが、いつまでたっても答えは出ないのだった。



 そして、そんな中、ふと空を見上げると……どこまでも青く澄んだ世界が広がっていた。



 あの日のことを想起させる。あの戦争が終わった日。あの日の空も今日と同様にどこまでも澄み切っていた。



 あれから数年。あの時は終わった時のことなど考えていなかった。彼にできたのは祖国を守ることだけ。だが、終わると同時に彼はなぜか力を失っていた。その時のことは彼自身よく覚えていない。それでも、例えその力のほとんどを失ったとしても彼は進むことを選んだ。



 だからこそ、リリィー・ホワイトは此処に立っている。



(そうか……あれからもうそんな月日が経ったのか……)



 そんなことを考えながら空を見ていると、先を歩いているアメリアが振り返って声をかけてくる。



「リリィー! 何してるの!! 早く行きましょ!!」



 それなりに離れていたので、アメリアは大きめに声を張る。さらに右手をあげてリリィーを手招きする。



 いつまで経っても変わらない奴だな、と考えながらリリィーはそれに応じて進んでいく。



「あぁ! 今いくよ!!」



 明るい未来が待っていると、漠然とそう思いながら進むリリィー・ホワイト。だが、彼はこの入学を機にさらなる深淵へと足を踏み入れることになる。



 錬魔術、聖薔薇戦争、聖薔薇騎士団ハイリッヒローゼンナイツ、ファルベリカ王国、エイウェル共和国、フリージア・ローゼンクロイツ、それら全ての要因が絡み合い世界は再び動こうとしていた。



 ……仮初めの平和と安寧は緩やかに終わりを迎える。


 

 



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