第27話 表彰式と祝勝会
――煌華学園 第1アリーナ――
決勝戦から2日後。学園に俺の回復が伝えられると、早速表彰式が執り行われた。
『これより《
フィールドに設置された舞台の上にいる俺達、優勝者のもとに学園長の竜洞寺先生が上がってきた。
「アッシュ・ストラード君、
城崎百合君、
リサ・テルミン君、
坂宮 涼也君、
予選優勝おめでとう。この熾烈な試合に勝ち抜いたキミ達なら修帝学園の代表に勝利し、優勝すると信じているよ。
ぜひ《
頑張ってくれたまえ!」
会場が観客の拍手で包まれる。こんなにたくさんの人の前で、表彰と激励をされることなんて今まで無かったからな……。
「リョーヤ? 顔が強ばってるよ? 大丈夫?」
「な、なかなかに緊張しちゃって……。
試合の前は、自分のことだけ考えてるからそうでもないんだけど……」
「あー、わかるかも。」
「それに、ヒュームの一件もあるせいか、妙に視線を感じるんだよな……。」
「あれだけ大事になったんだもん。当事者はやっぱり有名人にもなるよ。」
そう、あの一件は必然的ではあったが、かなり大事になった。
《
それが明らかになったあの一件の元凶であるヒュームは、現在ヒースネスの隔離エリアにて厳重に監視されている。
実は精密検査を受けたヒュームの体内からは、何の異常も見られなかった。あの薬は体内での分解速度が早い反面、短時間だけ莫大な力を得ることが出来るドーピングのような物だという見解が一般的だ。
『続きまして、選手団団長の発表に参ります。
竜洞寺先生、お願いします。』
竜洞寺先生が校旗を持って、再び俺達の前に立った。
「団長は……アッシュ・ストラード君、キミに任せよう。」
「はい。誠心誠意務めさせていただきます。
そして
アッシュさんは竜洞寺先生の手から校旗を受け取った。あの旗とともに責任やプレッシャー、そしてみんなの期待をリーダーとして背負うのだろう。
俺も来年、もしくは再来年にその立場にもしなったら……その全てを背負うことができるのだろうか……。
『これにて《
校外からお越しの方々は帰りの交通機関が混み合うと予想されます。気をつけてお帰りください。』
こうして波乱に満ちた《
――煌華学園 食堂――
「みんな、準備はいいかな?
よし。それでは、リョーヤとユリさんの代表決定を祝して、乾杯!」
「「乾杯!!」」
アラムが食堂の一角を貸し切って俺とユリの祝勝会を開いてくれた。
風船や花紙で作った花、さらにはリースなどが飾ってあった。が、何よりも驚いたのが―――
「またすごい人数だな……。」
「アラムが言ってたけど、クラスのみんなが来ているみたいだよ?」
「そうなのか。やけに見たことある人が多いわけだ。」
と、そこへ突然野太い声で名前を呼ばれた。
「おい坂宮!」
振り返ると入学初日に決闘試合をしたベルハルトが仁王立ちしていた。回りにいた数人のクラスメイト達は、ただならぬ空気を察してか一斉に黙ってしまった。
「お、おう?」
おそるおそる「どうした?」と訊くと、ベルハルトが発したのはその印象からは想像がつかないほど意外なセリフだった。
「テメェ……あの時俺に勝ったんだから、本戦でも負けんじゃねーぞ?
分かったか!? きちんと男らしく優勝とってこい!」
………………
「ぷっ……ははは―――っ!」
「な、何がおかしいんだよ?」
「いや、ベルハルトがそんなことを言いに来たって思うとね。」
思いがけないベルハルトの一言に笑いながらそう言うと、本人は気恥ずかしそうに頭を掻いた。
「う、うるせぇ。黙ってこれでも食ってろ。俺のおごりだ。」
「お、スペシャルメニューのバジルソース付きペペロンチーノピザじゃん。サンキュー!
ユリ、一緒に―――」
「えっと……じゅ、順番に並んで……えっと……えっと……うぅ~~」
……囲まれている。サインやら写真やらを求めて集まった生徒に囲まれている……。
俺とベルハルトとのやり取りが行われていた隣にも関わらず、そこだけまるで別空間であるかのような雰囲気になっていた。
「写真おねしゃす!」
「ゆりちゃーん! サインちょうだい!」
「ねぇねぇ! フェニックス出してみせてよ!」
いやいや、ここでフェニックス出してもメニューに焼き鳥は追加されないから止めとけ……って言うとスベりそうだから言わないでおこう。
「なぁなぁ、俺のサインとかは要らないのか?」
ふざけ半分でそんなことを言ったのが間違いだった……。
「いや遠慮させていただこう。
クラスのアイドルであるユリさんのサインとチェキの方が、市場価値的に高いと思うからね。」
メガネを掛けた細身の男子が人差し指でメガネを抑えながらそう答えてきた。てか市場価値って……売るつもりなのか?
「あ、アイドルだなんて……〜〜っ!」
ユリはユリで何照れてんだよ!? 市場価値に少しは突っ込めよ!?
「良いじゃないか! リョーヤのサインもコアなファンに高く売りつけることができるかもだよ?」
「アラム……それは俺のサインの市場価値についてフォローしたのか?」
「とんでもない! 僕はキミのサインもユリさんに劣ることのない、極めて価値のあるものだと言っただけだよ!」
「コアなファンにとっては、だろ?」
アラムは「何の話?」と言ってとぼけてしまった。ま、いっか。結局ユリばかりサインやら写真やらを求められていることには変わりないんだから。
……泣きたい!
――煌華学園 学生寮――
祝勝会も閉会した後、寮の部屋に戻ると、母さんから電話がかかってきた。
「もしもし?」
「あ、涼也。代表選抜おめでとう。
母親として鼻が高いわ。」
「あ、ありがとう!」
気のせいだろうか。どことなく声が低い気がする。あっちで何かあったのか?
「ところで涼也。あの決勝戦、あれは一体何があったの?
はっきり言って、危なっかしくて心臓止まりかけたのよ?」
「決勝戦? え、全部見てたの!?」
「見てたもなにも、思いっきり中継されてたわよ。
あんなボロボロになって……死んだらどうするつもりだったの!?
学園から電話で涼也が気を失ったって聞いた時、すぐにでもお父さんと一緒にそっちに行こうかって話になりかけたんだからね!?」
恐るべし最新技術。絶対零度近い気温で中継がちゃんと出来るカメラがあったのか……。それに俺が意識喪失してたことも知られているときた……。
言い訳は反って毒になりかねないか。ここは……ひたすら謝り通そう。
「ご、ごめん、母さん。」
「……うん。ちゃんと反省してるならそれでよし。
でもほんとに無茶はしないで。あなたは大切な私達の息子なんだから。何かあったら……ぅ…ズズッ……」
スピーカー越しに母さんの嗚咽と鼻をかむ音が聞こえてきた。やはり、よほどの心配をかけていたようだ。
「分かってる。引き際はちゃんとわきまえるようにするからさ、もう泣かないで?
それよりも《
「グスッ……えぇ、もちろんお父さんと行くわ。優勝目指して頑張ってね?
本当にお疲れ様、ゆっくり休んで?」
「ありがとう母さん。父さんにもよろしく。
おやすみなさい。」
通話終了ボタンを押して電話を切った。
「母さんには悪いことをしたな……まさか中継されてたなんて……
あれ? てことはアキも……?」
メールこそ来てなかったが、アキもきっと中継を見ていたはずだ。
「……一応メールしておこう。」
『中継見たと思うけど、なんとか優勝しました。
それと、なにかしら心配をかけたならごめん。
本戦は応援しに来てくれよ!』
そう送ると携帯を机に置いた。そばに置いていた生徒手帳の通知ランプが点滅しているのに気が付いた。
見てみると、数日前に学校から配信された、サマースクールの大まかなスケジュールが未読状態だった。
サマースクールか。行先は―――
「日本だと……東京と京都か。
オーストラリアは……シドニーとメルボルンか。」
英語には自信ないからな……日本にしようかな。ユリたちはどうするのか、そのうち訊いておこう。
内容を確認すると、生徒手帳をスリープモードにして机に置き戻した。
ふと時計を見ると、既に時刻は23時を過ぎていた。携帯にアキからの返事は……来ていないようだ。
そしたら、そろそろ寝ようかな。明日からまた授業だし、夜更かしして居眠りなんてしたら格好つかないもんな。
「よし、寝よう。
おやすみなさい。」
ここ数日頑張った自分自身にそう言うと、電気を消してベッドに毛布を被った。
久々の、不安も何もない夜だからだろう。目を閉じると、あっという間に眠ってしまった。
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