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「八不思議、4番目は『図書室の童貞』陰気で生真面目な友達のいない童貞が、誰もいない図書室の本棚の影に隠れて、性教育の本を読んでいる。学校がなくなっても、性への興味は尽きなくてね。生霊になっても読みに来るんだ。うーん、怖いね」
「ふざけるな。小学生で童貞は普通だろう。本物の4番目の怪談をさっさと言え」
「あれ? 随分、怪談興味あるんだね。意外」
「任務遂行の手がかりになるかもしれないからな」
図書室と表札のかけられた部屋は、理科室とは真逆で、書棚に格納されていた書籍類は一冊残らず回収されていた。
本は売れば金にしやすいし、近隣の学校に寄付すれば喜ばれる。廃校にする際に、持ち去られたのだと思われた。
こちらは真剣に聞いているのに、小泉はまだふざけていた。
にやにやと笑いをこらえながら、でたらめな怪談の続きを話そうとしたが、明智も負けてばかりではない。
「その生霊になった童貞の名前は……」
「明智、というのだろう? どうせ。貴様は本当に低俗な思考回路をしているな。遊んでいる場合じゃない。手を動かせ。口を開くなら、本物の4番目の不思議を話せ」
「先回りするなよ。つれないな。でも、一人で性教育の本読んでいたのは否定しないんだね」
「読んでない。くだらなすぎて敢えて否定しなかっただけだ。早く4番目の不思議を話せ」
話しながら、一通り表面上の観察は終えた大きな本棚を、順に二人掛かりで寝かせ、底や下敷きになっていた絨毯を調べていく。
今日一番の重労働だが、小憎たらしいくらいに色男の同期は始終涼やかだった。
「4番目は『図書室の二宮金次郎』。深夜、あっちの閲覧用の机に校庭の隅にいた二宮金次郎像が時々現れて、読書をしているらしい。いつも同じ本の同じページしか読んでいないからね。飽きるんだろう、彼も」
そう言えば、雑草が伸びすぎて、小規模な雑木林状態になりつつある校庭の片隅に、日本中どの小学校にもいる薪を背負って歩きながら読書をしている不用心な少年の像があった。
あれが深夜に動くのか。
いかにも子供が思いつきそうな安直な怪談だった。
1番目と3番目の不思議のような悲壮感はなく、2番目の廊下を激走する老婆と近しいように感じられた。
幽霊というより、妖怪。
いつ何のために生まれたかは分からないし、目的も希薄だが、出会った人間は驚くであろうし、畏怖するであろう種類の怪奇現象だ。
「……妖怪と幽霊が入り混じる八不思議。何か意味がありそうだな」
顎に手を添え、眉間に皺を寄せて思案する。
今のところ、幽霊は1話目と3話目。妖怪は2話目と4話目。
「偶数と奇数……」
そこまではすぐに考え至ったが、その先が分からない。
「確かにそうだね。でも、先にバラしてしまうと、5話目は幽霊だけど、6、7、8は妖怪系なんだな、これが」
俺も今のところお手上げだよ、と小泉は軽く笑い飛ばしていたが、くっきりとした大きな瞳は鋭敏な光を宿していた。
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