その077「友達8」


「姉ちゃん姉ちゃん」

 今日も今日とて、僕は姉ちゃんのことを呼ぶ。

「隅っこで『待て』をされたわんこみたいだけど、今、担任の先生が家庭訪問中じゃないの?」

「話はもう済んだんだけど、先生が、姉ちゃんとも会いたいって。姉ちゃん、僕のクラスで大人気だから」

「……好きで大人気じゃないんだけどね」

 そんなわけで、姉ちゃん、先生の待っているリビングへ。

 待っていた先生は、ソファから立ち上がって丁寧にお辞儀する。

「お初にお目にかかります、法城と申します」

「は、はい、弟がお世話になっております」

「お噂通り、可愛らしいお嬢さんですね」

「いえ、それほどでも……ん?」

 気後れ気味に返しながらも、姉ちゃん、先生のとある一点に視線がいった。

 スーツポケットから覗く、星模様の青いストラップ。

「法城先生、もしかして」

「はい?」


「――タカマ推しですか」


 姉ちゃんの質問を聞いて、先生、目を見開き、

「あなたは?」

「同じく」

 お互い、見つめ合って。

 ――笑顔でガッチリと、固い握手を交わした。

「え、どういうこと」 

 もちろん、僕はその意味が解らなかった。

「青の星といったらタカマでしょ。知らないの?」

「その反応は嘆かわしいですね」

 二人揃って非難の視線を向けてくる。

 この、何度も味わった面倒臭さは――デルタ☆アクセル関連だ……!

「タカマ、良いですよね」

「乱暴な仕草に見え隠れする優しさ」

「やばいです」

「ヒノンもヒノンで溜まりません。赤の太陽ならではの、あの情熱」

「女性だけでなく男性の熱をも呼び起こす、アレ」

「想像するだけで無理です」

「リキはどうですか。緑のハート。ショタ枠のはずが、実は一番暴力的でしょ」

「いや~、危ないやつですよ」

「無理です、やばいです」

 と、語彙力を欠如させつつ語り合う先生と姉ちゃん。

「会って数秒で意気投合とは……すごいぞ」

「何を言っているのですか?」

「そうよ。私達は」


『――生まれる前から友達(です)よ』


「次元を飛び越えてる!?」

「可能性は無限大です」

「あなたも飛び込んでみたら?」

「……ノーサンキューだぞ」



 で。

 後日、学校にて。

「先生、やけに凹んでるけど、どうした?」

「……いえ、家庭訪問の進行が遅いと教頭先生に怒られまして」

「なんで?」

「訪問先の親御さんがデルタ☆アクセル関連の話題を振ってくると、ついつい話し込んでしまって」

「先生自重しろっ!?」

 僕の中での先生が、丁寧で親しみ深い教師から、残念な大人に変わった瞬間だぞ。

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