その076「扇風機」

「ね~ちゃ~ん~ね~ちゃ~ん」

 電気屋の家電コーナーで、今日も今日とて、僕は姉ちゃんのことを呼ぶ。

「宇宙人のように遠吠えするわんこみたいだけど、売り物の扇風機で遊ぶのはやめなさい」

「わ~れ~わ~れ~は~」

「どうして扇風機の前では誰もが宇宙人になるのかしら……それに、一人なのに我々っておかしくない?」


「――ワタクシもいますので、我々で合ってますヨ」


「って、宇宙の人っ!?」

「おお、グレくん」

 展示されている扇風機の前で、僕の友達ことグレくんが涼んでいた。

「奇遇ですネ、マイフレンド」

「そうだねグレくん。今日は一人?」

「ワタクシのわくせ……故郷の人達が技術出資している家電の様子を見てきてほしいと、父上が」

「今、惑星って言おうとしてなかった?」

「お姉サンは何を言ってるんですかネ」

 口笛を吹いて知らん顔のグレくん。曲が組曲『惑星』だ。多分『木星』だ。

「グレくん、その家電って?」

「アレでス!」

 と、グレくんが指さす方を見てみると――UFOの形をした浮遊物があった。

「まさか、あのスポットライト?(※その046参照)」

「イエ、扇風機でス」

「扇風機?」

「下に立ってみてくださイ」

 言われた通り、浮遊物の下に立ってみると。

「お、心地いい風が上から」

「羽がないわね。ダイ●ンの製品みたいだわ」

「風向き風量も自由自在、エネルギーも宇宙プルト……特殊バッテリーですので、電気代もお得でス」

「今、物騒な物質名がっ!?」

「よくわからないでース」

 またも口笛を吹くグレくん。冥王星を題材にした音ゲー曲だ。

「他にも、室内の埃を吸い込む空気清浄機能も搭載ですヨ」

「……それ、人がいる時に使ってはいけない機能なんじゃ」

「大丈夫でス。人は吸い込みませン」

「本当かしら……」

「お試しにスイッチオーン!」

「ちょ、待って!?」

 と、空気清浄機能が発動した結果。

 確かに、僕達は吸い込まれなかったんだけど、


「……髪の毛が立ったまま、戻らないわ」

「超サ●ヤ人みたいだぞ」


 姉弟揃って、髪の毛が逆立った状態になっていた。

 グレくんとしては想定外だったらしく、頬に汗を垂らしたものの、


「こ、これぞ銀河パルサーバキューム盛り! 女性達にも好評でス!」


「今考えたでしょ、その売り文句!?」

「というわけで、お一つ如何ですカ? 追尾機能も特徴ですヨ」

「絶対に買わない……って、追いかけてきてるーっ!? ま、またこのオチなの!?」

 姉ちゃん、機械に気に入られやすい傾向だぞ。

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