その050「パジャマ」


「姉ちゃん姉ちゃんっ!」

 今日も今日とて、僕は姉ちゃんのことを呼ぶ。

「なーに? 初めてお洒落に目覚めた時のセレブわんこみたいよ」

「これ似合うか? ガイアが僕にもっと轟けと囁いている感じで」

「そんな決め台詞まで付けなくても、似合ってるわよ」

 今日は、新しい服を買いに、家族みんなで洋服屋に来てるぞっ。

「あとは寝間着ね。何にしようかしら」

「姉ちゃん、さっき見つけたんだけど、面白いのがあるぞ」

「? なに?」

 と、僕が姉ちゃんを連れていった先には、

「……着ぐるみ動物パジャマコーナー?」

「ポピュラーな動物が揃ってるぞ。いろんな動物の気持ちになるですよっ」

「なんで最後だけ丁寧語?」

「姉ちゃんはどれにする? 僕はこれだぞ」

 と、僕は自分の身体と合わせて、手に取った犬の着ぐるみを広げてみせる。

「…………可愛い」

「? 姉ちゃん?」

「あ、いや、コホン……あなた、ホント犬が似合うわね。本気でこれ着て寝るつもり?」

「うんっ。で、姉ちゃんはどれにする?」

「……そうね」

 何のかんの言いつつ、姉ちゃん着ぐるみパジャマに興味あるらしい。

「ちなみに、エイの着ぐるみもあるみたいだぞ」

「なんでエイ!?」

「すごーい、姉ちゃんは平べったいのが得意なフレンズなんだねっ」

「うるさいわよっ!?」

 思いっきり張り倒されてしまったぞ。

「エイは論外として……やっぱり、牛かしら?」

「ムリスンナー」

「くっ……わ、わかってるわよ。じゃあ、うさぎ」

「んー、イマイチ」

「猫は?」

「合わないなぁ」

「いちいち厳しいわね。じゃあ、これは?」

 と、姉ちゃんが手に取ったのは――僕と同じ、犬の着ぐるみだったんだけど。


「……イイ」


 思わず唸ってしまった。

「やたら惚けた顔してるわね」

「いや……姉ちゃんもなんだかんだで、犬だよなー、と」

「どういう意味!?」

「タイトルを『今日のわんこ姉弟』に切り替えちゃっていいな」

「何の話よ……って、お父さんとお母さん、どうしたの?」

 と、お父さんとお母さんが、僕達の様子を見にきたみたいなんだけど。


「ペアルック」

「二人だけ、ペアルック」


「自分の子供が余所の家に飼われていくのを見送る老わんこのような眼をしながら、何言ってんの!?」

「うん、お父さん達もコレ買っちゃおう。『今日のわんこ家族』にしよう」

「だから何の話……って、本当に買おうとしてる!? 二人とも落ち着いて!?」


 本当に買っちゃったぞ。四人分。


 ※なお、タイトルはそのままだぞ

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