第三章 美女に囲まれて
外伝-Ⅰ
「何かしら……?」
城の中は、いつもと違った喧騒に満たされていた。
一体何なのかと好奇心を揺さぶられるが、部屋に閉じ込められている私には確認のしようがない。するにしても、数時間後にやってくる侍女を待つしかない。
出来得る限りの装飾と、調度品に囲まれた部屋の中。まるで飼われている小鳥のように、私は鳴くだけの一生を過すのだろう。
「――はあ」
思わず溜め息が出る。こんなの、向こうで生きていた頃と変わらない。
オマケにあの
もちろん、今日だって彼はやってきた。適当なところで引っ叩いてやったわけだけど、少し威力不足だったかもしれない。もう少し強烈で良かった気がする。
「ヘルミオネ様ー」
礼儀を守り、丁寧に扉を叩く音が二度響く。
慣れ親しんだ声に、私の心は思わず高鳴っていた。
いつもなら彼女は、この時間帯にやってこない。何か急用があって部屋を訪れたのだろう。期待は持てる。
返事をするより先に、私は閉ざされた扉を開けた。
「いらっしゃいユイリィ! 早く来てくれて助かるわ!」
「はいっ、さびしがり屋なヘルミオネ様のことですからー。私の登場を今か今かと待っているのではないかと、急ぎやってきました!」
「じゃあほら、早く入りなさい! 女の子同士、楽しく話しましょう」
言うと、侍女のユイリィは一礼してから部屋に入ってくる。
それを厳めしい顔つきで見送るのは、扉の左右に立っている見張りだ。もちろん以前はいなかったのだが、オレステスが王になって以降、突然設けられるようになった。
私を管理するためなのは言うまでもない。中に入ってこれるのは精々、世話を言い付けられている数名の侍女だけである。
「今日は帝国の中央で作られている菓子をお持ちしましたよー。ヘルミオネ様のお口にもきっと合います!」
「じゃあいただこうかしらね。――もちろん、聞くべき報告を聞いてからだけど」
「はいっ」
不要なぐらい大きな声で、ユイリィは首肯した。
もう少し下げて欲しいところだけど、彼女の性格上、簡単に出来ることではない。まあ外の兵士もいつものことだと思っているだろうから、肝心な場面で抑えてくれれば上出来だ。
贅を凝らした部屋を一望した後、私は中央のこじんまりとしたテーブルに近付いていく。
一刻も早く話の本題に入りたくて、立ったまま彼女に声をかける。
「ねえユイリィ、外で何かあったの?」
「んー、よく知らないんですけど、オレステス王が戦いに出て、負けて帰ってきたそうですよ。神・アポロンの力を借りても勝てなかったと」
あまり興味を持っていないのか、彼女は淡々と語っていた。
それでも明るい表情は同じまま。可愛らしいエプロンドレスを着ていることもあり、無邪気な少女像は崩れていない。
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