Ⅱ-Ⅳ
「えっと、どの辺りまで話したんだい?」
「この神域と帝国都市ラダイモンの位置関係について話したぐらいです。集落と彼らの関係、帝国の現状については、まだ」
「じゃあそこからか。……ヒュロス君、無茶を承知でお願いしたい。僕らは君に――」
「戦って欲しいんですね!? 分かりますとも!」
言葉を先読みし、俺は前傾姿勢でヘパイストスに顔を近付けた。
鍛冶神は唖然とし、回答を知っていたブリセイスは笑うだけ。最初にあった緊迫感も、前向きすぎる行動で台無しとなっていた。
しかし、断る理由など一つもないのであって。驚かれる方が、個人的には心外なぐらいだった。
ヘパイストスは息を吸って、いつもの平常心を取り戻す。
「あ、ああ、その通りだよ。それにラダイモンには今、君の妻・ヘルミオネが捕えられている。彼女を救うためにも交戦は避けられない」
「そしてついでに、神々を否定する者達を倒せ、と」
「アテナから話は聞いてるみたいだね。帝国はこの異世界・アカイアにおける反神勢力の筆頭だ。加えて色々と謎がある。例えば……」
「遠矢の神・アポロンが味方していることですか?」
「その通り」
アテナやヘパイストスにとって、アポロンは同僚であり兄弟だ。
オリュンポス十二神――ギリシャの神々は、全能神・ゼウスの子や、兄弟を中心とした十二柱の神によって管理されている。
当然、ゼウスの子であるヘパイストスやアポロンもそのメンバーだ。彼らは神の加護で世界を満たす側であり、拒絶する勢力では断じてない。
「僕から改めてお願いしたい。ラダイモンへ潜入し、ヘルミオネを救出、アポロンの真意を確かめてくれ」
「お任せを。あ、ブリセイスさんに同行してもらってもいいですかね?」
「構わないよ。当初からその予定だったしね」
おお、と美女の同行に喜びながら、俺は彼女に視線を向ける。
恭しく頭を下げるブリセイス。秘書という単語がよく似合いそうなオーラが出ていて、旅の未来を自然と明るくしてくれる。
「じゃあ善は急げだ。さっそく向かってもらおうと思うけど、準備はいいかい?」
「もちろんですよ。オジサンの頼みとあらば、それもう!」
「おお、嬉しいね」
喜ぶ鍛冶神を見る中、不意に浮かぶヘルミオネの顔。
直ぐ近くに極上の美女がいるにも関わらず、両手は愛妻の感触を懐かしんでいた。
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