#27 迫り来る黒い影

 悪夢のような光景に、紅子の膝が震えてくる。しかし嘆いている場合ではない。魔獣イルカの群れはまっすぐにこちらに向かってきている。プロジェクトPマネージャーMとして、的確な判断を瞬時に下す必要がある……


「……レヴィ」


 紅子はレヴィの目をまっすぐ見つめて話し出す。


「このまま、目的地を全速力で目指すことにする。……そこに何があるのかはわからないけど、私達の味方がいる可能性が非常に高いと思う。今ここで二人で戦うよりも勝機がある……と思うんだけど、どう?」

「あたしは、PMの判断に従うよ」


 レヴィは力強く頷いた。


「ありがと、プロジェクトPオーナーO。……心配なのは、レヴィの魔力なんだけど……」

「まだまだいけるよ!心配しないで!」


 レヴィは笑顔で力こぶを作る仕草をする。今にも折れそうなほど華奢な腕だが、紅子には非常に頼もしい。

 紅子はさっそく端末を取り出すと、『目的地までの移動』と書かれたチケットの表題を、『目的地を全速力で目指す』に書き換えた。


「お願い!タロ!ジロ!」


 祈りを込めて再発行する。同時に、二匹の魔物オークの身体が白い光に包まれる。やがて弱まってきた光の中から現れた二匹は、ますます筋骨隆々になっていた。これは頼もしい……二人は急いで背中に飛び乗る。その瞬間、驚異的な加速力で二匹は走り出し、森の中に突入する。速い速い。


 紅子は後ろを振り返る。魔獣たちもスピードを上げてきたようだ。できれば気づかれていないことを期待したのだが……仕方がない。紅子はもう一つの作戦を実行する。


「ごめんレヴィ、あと二枚チケット切るよ!」

「オッケー!」


 上下に激しく揺れながら、紅子はチケットの内容を入力していく。

 一枚目は、『魔獣達の足止めをする』。あの魔獣達と戦えるくらいの強力な魔物メンバーを出現させるチケットは、レヴィの魔力を考えると荷が重すぎる。せめて目的地にたどり着くまで時間稼ぎしてくれればそれでいい……

 それから、もう一枚。『目的地にいる味方に、自分の現在地を知らせる』。ある意味、賭けである。目的地に味方がいない場合は魔力の無駄遣いだし、新たな敵を呼び寄せる可能性もある。しかし、打開策はこれしか思いつかない。


「お願い!」


 また祈るような気持ちでチケットを発行し、新規メンバーに割り当てアサインする。……淡い光と共に、新たに二匹の魔物が出現した。


 一匹目は……なんだか蜘蛛っぽいような女の子っぽいような魔物だ。確か、ギリシャ神話由来の、蜘蛛にまつわる女性をモチーフにした魔物がいたような……アラクネ、だったか。

 彼女は地上に降り立つと、口から一生懸命糸を吐き、木々に巻きつけ始めた。おお、頭いい!紅子は心の中で拍手喝采を送る。あの蜘蛛の糸で上手い具合に足止めしてくれそうだ。頼んだよ、蜘蛛少女アラクネちゃん!


 もう一匹は……わ、こっちも可愛い。小さな、いかにも妖精といった感じの見た目をしており、何やら筒のようなものを抱えている。あれは、発煙筒?いや、花火か?彼女はそれを空に向かって発射すると、役目を終えて煙のように消えた。

 筒から打ち出された弾は、赤い煙を吐きながら空へと昇っていき、大きな爆発音と共に上空に大きな模様を描いた。……ようだが、ここからでは木々が邪魔して全体像が見えない。果たしてこの判断、吉と出るか、凶と出るか……


 *


 遠くから聞こえた爆発音に、歩いていたライカとジーナは顔を見合わせる。


「何だろう、ライカ」


 ジーナは不安そうにライカの腕を掴んだ。敵襲か……と辺りを見回したライカは、山のふもとの方を見下ろし、ある物に目を止める。


「……あれだ。……花火、か……?」


 ライカが指差す方向に目をやったジーナは、それをまじまじと見つめる。眼下に広がる森林の上空に、およそ周りの雰囲気に馴染まないものが浮かんでいる。

 赤い煙で描かれたその模様は、虹のような、トンネルのような半円状の形。あれは……


「……『紅の宝庫レッドマイン』の旗印だ!」


 ライカが叫ぶ。二人は顔を見合わせる。


「ライカの知り合いが、あそこにいるかも知れないよ!」

「急ごう、ジーナ!」


 二人は勢いよく駆け出した。

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