#8 環境を構築します(2)

 これって……アレ、だよね。コマンド打ち込む……コンソール。あれ、ターミナルだったっけか……? Windowsだったらコマンドプロンプト、だったよね……

 暗闇を泳ぐ紅子の目の前に、大きく広がる例のウインドウ。GUI全盛の今日においてもSEには避けて通ることのできないウィンドウ。こんな形で対峙するのはもちろん初めてだ。紅子は不思議な感覚に包まれる。


 これはつまり、そういう事、だよね……? ここからサーバー、というかレヴィにアクセスする、ってことだよね。ここにコマンド入力して……しかも、点滅するプロンプトのマークから察するに、今の私は管理者rootらしいぞ。スーパーユーザー。まー、あのプロテクトを通過した時点でもうrootっちゃあrootだよね。なんかすごく制圧した感あるよね。これをrootと言わずして何と言う。私もあんなことされちゃったらroot権限渡しちゃうかも……だから何言ってんだ私。


 ……さて。ここからどうしようか。とりあえずコンソールを前にして、入力するコマンドと言えばlsとかpwdだよね……とにかくやってみるか。紅子がそう思った瞬間、暗闇の中にキーボードがぼうっと浮かび上がった。見慣れたJIS配列の日本語キーボードだ。ここから文字を入力しなさい、という事だよね、そりゃ。紅子はコンソールにlsと打ち込み、エンターキーを押す。カレントディレクトリにあるファイルが……たった一つだけ、表示された。


 Readme.txt。

 ファイル名にはそう表示されていた。

 ……これを読んだら、この不思議な世界のことが少しは理解できるのだろうか。紅子は胸を高鳴らせつつ、lessコマンドでそのファイルを開いた。


『いらっしゃいませー。

 我が愛娘のコンソールにようこそ!ねえねえねえ、レヴィのおっぱいどうだった?大きくなってた?

 あんま大きくなってなかったらゴメンねー。いや、そっちの方が好きな人かな?』


 ……何じゃこりゃ。

 一瞬、視界がバグったのかと紅子は思った。一旦目を瞑って大きく首を横に振り、もう一度読み直す。

 ……何じゃこりゃ。やっぱり同じことが書いてあった。


 この文書を誰が残したのか……考えるまでもないだろう。強い魔力を持っていたという、レヴィのお母さんだ。


『さて。これを読んでるアナタ。SEさんかな?PMさんかな?

 きっと、あの世界から来た人だと思うけど。

 アナタの世界の技術、もーすっごい良かった。目から耳からウロコだったわ。

 私ね、あいつらのやり方が気に食わなくてねー。なんか対抗できる方法をずっと探してたんだけど、本当良かったわー。アナタの世界の技術。もうビビッて来たね。』


 ……何だか、けっこう軽いなー。レヴィのお母さん。ちょっと想像してたのと違うな。


『でさ、あいつらってのがもう本当、頭の固い旧態依然としたヤツらでさ……

 あー、思い出したら腹立ってきた。ごめん、余談だけどついでに書かせてもらっていいかしら。

 あいつら、何でもかんでもスプレッドシートで作るけど。あれ何なの? 仕様書も報告書もスプレッドシート。それ以外のツールを知らんのか! あれは表計算をするためのもんなんだよ! マス目のあるワープロじゃねえんだよ! くたばれ!!』


 ……この世界のことは、まだわからないことだらけだ。

 どんな技術があるのか、人々がどんな生活をしているのか、まるで理解できていない。

 だけどこの瞬間、レヴィのお母さんへの親近感は一気に最大値へと達した。あー、絶対気が合うよこの人。ああ人じゃないんだっけ? でも会いたいわ。今までちょっと引いててごめんなさい、お母さん。一緒にお酒飲んだら盛り上がれそう。


『……ごめん。ちょっと取り乱した。

 で、細かいところはまた後で説明するけどさ。あいつらのやり方は絶対間違ってる、って思ったんだよ。

 きっと、もっと正しい方法があるって絶対思ってた。それを探して、いろんな世界の文献をあさり、いろんな世界の技術を試した。

 で、ある世界で見つけたのが……』


 次に続く言葉を目にし、紅子の鼓動が急激に高鳴る。


『……Redmineレッドマインっていうシステムだったんだよ……』

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