第56話 恋の交差 1

 ここ最近、私の生活はかなり落ち着いている。メリエッシと男爵のことは解決したと、タケルイが教えてくれた。やはり男爵の入れ知恵で、メリエッシは私を始末したそうだ。


 メリエッシとタケルイが今後結婚しないと発表されてから、男爵はメリエッシに結婚を申し込んだ。でも、他にも男爵以上に金持ちの人達がメリエッシに求婚している。それで男爵は私を始末する仕方があると彼女に話を持って行った。案の序メリエッシは私のことを相当憎んでいたようで、男爵の申し出を受け入れた。


 男爵は爵位と領土没収。マイシ騎士殺害の罰金として、バロンさんの家族に多額な資金を払うことになった。でも、バロンさんの母親は既に他界しており、家族はバロンさんしかいない。


 バロンさんは、「あんな男からの金なんていらない!」と言っていたが、考えを変えて素直に受け取ることにした。理由は自分の学校を作るらしい。貧しい子供たちを騎士にする学校だって。騎士だけじゃなくても、神官にでもいいかなと嬉しそうに話している。どうやらバロンさんがマイシの教育をして、教師としての生きがいを見つけたみたい。


 男爵家は今住んでいる屋敷と小さな土地が残った。メリエッシのために。彼女は使用人を雇うことが出来なくなり自分で畑を耕す生活をするのだろうか。本当は、あの流刑島へ流されるかと言う選択肢があったけれど、男爵はその選択肢は嫌がった。どうやらあの島にはまだ犯罪者がたくさん住んでいると思っているみたい。

 メリエッシはあの土地に一生軟禁になった。そのことでメリエッシの両親がタケルイに文句を言ってきた。メリエッシは、タケルイと別れて狂って正しい判断が出来ない時に男爵に騙されたと。タケルイはメリエッシの両親の話をただ聞いているだけだった。


 メリエッシの両親はタケルイがメリエッシを哀れに思って、あの男爵との離婚を許して、軟禁も解かれると思って帰って行った。メリエッシの両親は相変わらず、贅沢とギャンブルでお金を水のように使っていると聞いた。


 なぜ借金出来るのかと思っていたら、近いうちにメリエッシが離婚するので、誰かまた金持ちと結婚すると言いふらしている。どんなに資金がかかっても、メリエッシが龍姫殺しの罪があっても、メリエッシの容姿と、元王太子の婚約者と言う型紙と、将来男爵を息子が受け継ぐと言うのはかなり魅力的みたい。もちろんタケルイは、メリエッシに慈悲なんてあげない。


 周りの人達は知っているのに、メリエッシの両親とその周りの人達は知らない。皆タケルイがメリエッシを愛していると言う言葉を信じているみたい。それにタケルイが龍騎士の修行でいなかった一ヶ月間を、メリエッシの結婚に耐えれなくなって疾走したと噂されている。


 龍姫の顔なんて見たくなかったと言う話が巷で流行っている。どうやら龍姫と龍騎士は不仲らしい。公では仲良くしているけれど、実際はすれ違いの生活。第二騎士は毎日実家へ戻って、第三騎士は龍姫といたくないので勉強と剣の練習していると。龍姫は狂ったように織り物をしていると噂されている。なんか合っているようで、合っていない噂だ。

 そんな話がされるのは、私がまだちゃんと結婚式をしていないからだった。



 どうやらここでは、雪が降らないみたい。ミーユのいた村は、一年中の半分以上が雪に埋もれていたのに。なぜかミーユの記憶の中にある冬の場面の夢を見て、雪が恋しくなった。美奈のいたところは、ミーユの村ほどじゃなかっったけど雪が降った。積もることはなかったけど、雪が降るといつも見ている世界が違って見えたの。真っ白な雪が、この世の汚さを被ってくれるようで、私は雪が好き。でも、ここでは雪が降らないので少し寂しい。

 私は前以上に、織物を織っている。三人の騎士に、来年の夏に結婚式をしたいと伝えた。私はどうしてもこの恋織物で作られたドレスを着て結婚したい。結婚式が来年の夏と言うのは、その他にも理由がある。私はどうしてもミーユの村の人達に対して喪に伏せたい。ミーユと美奈にも。皆死んでしまったから……私だけ幸せになっていいのか?と玉に罪悪感を覚える。


 私はそんな気持ちを、一つ一つ糸を織っていく。織りながら死んで言った人のことを思い出して、祈祷する。そんな毎日が私には幸せだった。


「ミーナ、私は今から街へ行きますね。ミーナも行きますか? 今日は街にある我が家の店に行くのですが、ミーナも一緒に行きませんか? もしかしたら、以前お聞かれていた恋糸があるかもしれませんよ。先日新しく荷が入ったので、今日はその商品を確認に行きます」


 毎日毎日織り機に狂ったように座っている私に気を使ってダニーが声をかけてくれた。確かに私は前に「もっと恋織物の恋糸が欲しいです」とダニーに聞いたことがある。恋糸も恋織物同様なかなか入手し難い。来年の春に、自分で糸を染めないといけない。来年の春に、ミーユの村へ行って染め草を採りに行かないといけない。きっと、それがあの村に行くいい機会かもしれない。


 恋織物を織るには十分の恋糸があるけど、私はどうしてももう少し恋糸が欲しかった。私はタケルイとダニーとマイシに贈り物をしようと思う。やっぱり貰ってばっかりはよくないしね。何をあげようか考えたら、私って文なしだった……。それで、村で女の人達が好きな人や旦那さんに恋糸で紐を編んでいたのをミーユの記憶から知った。編んだ恋紐は、その人の安全を守るものとして男の人達に知られているけれど、本当の意味は違うの。本当の意味は『赤い糸』と同じで、私達は結ばれていると言う意味。だから私は三人にその紐をあげようと思う。恋糸にかかる資金は、後で返そうと思う。この恋織物を織った後にまた新しく恋織物を織って売ろうと思う。そしたら今までお世話になった人へ返金出来るから。


「ええ、行きます。ちょっと待っていて。今コートを取ってきます」


 私は急いで自分の部屋に戻ってコートを取った。ダニーの実家じゃないから、ユライやコリーに会うことはないと思う。


 街のダニーの店は大きかった。ダニーの家が大商人と言うことが分かる。馬車から降りて店に入ると、店員がすぐにダニーに気付いて奥へ入って行った。そしてすぐに頭の髪の寂びしおじさんと何人かの店員さん達が私達のところへ来て挨拶をする。


 ダニーが私が恋糸を欲しがっていると伝えたら、店員の一人の人が先日恋糸が手に入ったと言った。どうやら前にダニーが、恋糸を出来るだけ、入荷するようにと言っていたらしい。どうやら、ダニーは私が恋糸がないと恋織物が織れないと知っていたので、優先して恋糸を探したらしい。私はそのを聞いて、ダニーの優しさがうれしい。


 私はその店員に案内されて、二階の売り場へ向かう。ダニーは先月入荷した品物の確認のために奥の部屋へ行った。私は異世界の店と言うところへ始めて来たのでキョロキョロして見ていたの。


「へえ~、これはこれは。まさか龍姫様にこんな所で会えるなんてねえ~」


 私は立ち止まって、その声の方を見た。


「ユライさん……」


 私は驚いて口から言葉が出た。


「へー、私の名前を覚えていたのですねえ。これは幸運なこと。今日はどうされたのですか?」


 ユライが笑顔で聞いた。私にはユライの笑顔が営業スマイルと知っているので気味が悪い。なるべく早くユライから離れないと頭で危険信号が点滅している。


「恋糸を買いに……」


「そうですか。恋糸を。確か奥の金庫に保管しているのではありませんか? どうぞ見て来て下さい。私が龍姫様を店の案内でもしていますので、どうぞ恋糸を取りに行って下さい」


 ユライが私と彼の会話を聞いていた店員に言った。


「そうですね。あんな奥の部屋に龍姫様をお連れするのもなんですので、私一人で恋糸を取ってきます。どうぞ龍姫様、店の中を見て待っていて下さい」


 店員さんがそう言って頭を下げた後に奥の部屋に消えた。


「ユライさん……どうして……?」


 ユライはさっきの笑顔が嘘のように、私を憎たらしい顔で見ている。


「さあ、店の中案内するから付いて来い。龍姫様の好きなものは、宝石か?」


 そう言ってユライが歩き出す。私も仕方なくユライの後を付いて行った。宝石の仕舞われた所は、二階の隅だった。ユライがガラスで出来た入れ物から、何点か宝石を取り出した。


「で、次はどれをダニーにねだる?」


 ユライが私に聞いた。


「ねだるって?」


 私がそう聞き返すと、ユライがため息をついた。


「また、そうやってとぼける」


 ユライが一つの首飾りをとって、私の前に立った。私はユライが近くに来たので怖くなって後ろへ下がった。


「その髪飾り。それに首には真珠。まあ、ダニー以外の龍騎士様に今度はどれをねだるんだ? まあどっちにしろ、我が商会の利益になるけどなあ。で、これなんてどうだ?」


 ユライが首飾りを私の目の前に持ってくる。


「わ、わ、わたし、ねだったことなんてない! 宝石なんて、いらない!」


 私は叫んだ。どうして、ユライがそんな風に言うのか分からない。


「だからー、俺、あんたのそんな所が嫌いって言っているだろう? 悪女のくせに、聖女ぶっている所。オイ、もういい加減にしろよ! 私は宝石を貢がれるのが、大好きです! ダニーにもっとねだれよ。ほら、これ、高いぞ。あんた、好きだろ、ほら」


 ユライがそのネックレスを私の胸に押しやった。急のことで、体のバランスが取れなくて後ろへ倒れた。


「いたい!」


 倒れた時に後ろの壁で頭を打った。


「オイ、何を大げさに寝ているんだよー!」


 ユライの声が遠くで聞こえる。私は焦った顔をして私を見ているユライの顔が段々薄れて行った。私には、声を出すことも出来なかった。

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