第41話 恋の騙し合い 3

  私達はメリエッシに案内されて客間の寝室に入る。


「お二人方は、同じ部屋になります。何卒お許し下さい。この館には、開いている部屋がここしかありません」


 メリエッシが、申し訳なさそうに言った。


「いいのよ。私こそ、始めての場所では心細いから、ダニーがいてよかったの」


「そ、そうですか……。龍姫様、もしよければ一緒にお散歩しませんか? この先に海があります。とても神秘的なところです」


 メリエッシが私に尋ねた。


「えっ、でも」


「わたくしは、辛い時にそこへ行くのですよ」


 メリエッシが悲しそうに言ったので、拒否出来なかった。


「ええ、いいですよ」


「ちょ、ちょっと待って下さい。それでしたら、私もお供します」


 ダニーが慌てて言った。


「龍騎士様、わたくしが龍姫様に危害を与えると思っておるのですか?」


 メリエッシが、唇を震わせながら言葉をつなぐ。


「い、いえ。決してそう言う意味ではありません」


「そ、そうですか。でしたら、わたくしは龍姫様と二人で散歩をしたいのです。お願いします。女だけで、お話がしたいです」


 メリエッシはきっとタケルイのことを話たいんだ。


「ダニー、私もメリエッシさんと二人で出かけて来ます。散歩と言ってもすぐそこです。ダニーには、スカイがいるからもしなにかあった時にはすぐに来れるでしょう?」


「ええ、確かにそうですが……分かりました。私は、ここで待っております。そして、もしミーナになにかあったらすぐにスカイに乗って飛んで行きます」


 ダニーが私の顔を覗き込んで言った後に、私の頬に軽くキスをした。


「では、参りましょうか?」


 メリエッシが、スタスタと廊下を歩いて行った。私はダニーに「行って来ます」と言って、早歩きでメリエッシを追った。




 海までは、歩いて十分くらいかかった。メリエッシも私も一言も喋らなかった。


 荒れ狂う海を崖から見た。冬の海は、恐ろしかった。崖から下は、海。ここから落ちたら、即死だと思う。


 そんな崖にメリエッシが立って言った。


「龍姫様、あまりそんなに端まで行ったら危ないですわ」


 メリエッシの声で慌てて端から離れる。


「龍姫様は、タケルイ様以外にもダニー様にも愛されていいことですね」


「そ、それは……ご、ごめん」


 メリエッシがにっこり笑って言った。私もなにに謝っているのか分からない。


「龍姫様。私は別に責めている訳ではありません」


 メリエッシがまた海を見つめて言った。


「ねえ知っていますか? この先に流刑者達が送られる島があるそうです。その島の周りは巻流で、その人達がこちらへ来ることは出来ないそうです。そして、この陸から出発した船が、本当にその島へ流れ着いたかどうかすら分からないのです」


 メリエッシが言った。


「その流刑者と同じく、私は一体どうなるのでしょう。結婚しても、果たして生きていられるか……」


メリエッシが寂しい声で言う。


「メリエッシ様、結婚は今から取りやめても遅くありません! どうぞ結婚なんてしないで下さい!」


 私は必死だった。こんな可愛そうな結婚なんて、絶対あってはいけないの。メリエッシも愛されて結婚するべきだ。こんないい人を私が不幸にしてしまった。


「ありがとう。龍姫様と龍騎士様が来て下さって本当によかったわ。わたくしも、なるべく努力して幸せになるわ」


 私はそう言ったメリエッシが、とても綺麗だと思った。


「それでは、下の方へ降りましょう。浜辺はもっと綺麗ですよ」


 私とメリエッシは、ゆっくりとなだらかな丘を降りて浜辺へ行った。メリエッシが言った通り、砂が白くて綺麗だった。私達はしばらくそこで海を見た後に、屋敷へ戻った。


 屋敷に着いて、メリエッシにまた明日の朝も散歩しましょうと誘われた。メリエッシは朝と夕方の二回散歩するみたいなので一緒に行くことにした。


 メリエッシの結婚式は明後日だけれど、彼女自体別に準備をすることがないと言っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る