第33話 恋の片思い 4

「まあ、はっはっはー」


「はっはっっはー、それはすごいな」


 廊下からコリーとダニーの笑い声が聞こえてきた。


「なあ、龍姫さん」


 廊下を見ていた私にユライが声をかける。


「コリーは小さい時から、ずっとダニーのこと好きだったんだよ。ほら、ダニーだって、コリーといると自然体だろう」


 ユライの声が急に引くくなる。


「ねえ、人の幸せ壊してどんな気持ち?」


「わ、私、人の幸せ、こ、壊して、ない」


 ユライが何を言っているのか分からない。


「またそうやって、トボケる」


ーートボケるって?


「王太子の婚約者を不幸にして、コリーを不幸にして。そんな女は、男三人を弄ぶ。よくノコノコと人の家に来れたよな」


「わ、私のせいじゃない」


「ダニー、あんたの前で、『私』って言うか? それとも『俺』って言う?」


 いきなり会話が変わって、私は戸惑った。


「だ、ダニー『私』って言います……」


 ユライがニヤリとした。


「やっぱり。ダニーが『私』って言うことは、あんたに他人行儀なんだよ。ダニーは親しい人や、気が抜けている時は『俺』って言うんだぜ」


「っ!」


 私は口を開いて言い返そうと思ったけど、口を閉じた。私もダニーが『俺』と、龍騎士に選ばれた時に聞いたと思う。


「もちろんダニーは、コリーの前では『俺』って言う」


「そっ、それは!」


 私はユライに文句を言いたいけれど、何を言っていいか分からない。


「なあ、王太子に男爵令嬢との結婚を許したんだろう? まあ結局は体面のことを気にして止めたみたいだけ。それで、あんたも三人の男の相手なんて以下にも情婦のようなことをする前に、ダニーにコリーとの結婚許してあげてくれ」


 どうして私は、ユライにこんなことを言われないといけないの?

 それにユライは私のことをもう『龍姫様』と呼ばずに、『お前』になっている。


「そ、それは、ダニーが決めることで、」


「だから、お前から話を持っていけよ! ダニーは真面目だから、自分からそんなこと言えないんだよ!」


 私が話を終える前に、ユライが怒った。



「大体、あんたってイヤな女だよなあー。どうしてみんな気づかないのだろう。一体その顔で何人の男騙して生きて来たんだろう」


「どっ、どうして! まだ数回しか会ってないのに、私がイヤな女って分かるの!」


私はつい怒って叫んでしまう。


「だってよ。何であんただけ、あの村で生き残ったの? それって、おかしくねえ? 初恋の男いたんだろう? でも、それとも違う他の男とかいたりして。でも、どっちにしろ、お前が、お前だけが一人生き残っているなんて、ありえねえ。絶対に、他の人を犠牲に生き残ったとしか考えれねえ」


「そ、それは!」


 私は胸が痛くなった。言い返したいけど、ユライの言っている言葉が正しい……。


「ん? それは、って?」


 ユライが私をバカにした顔で聞く。


「そ、それは、仕方なかったの! わ、私だって、私だってあんな風になるなんて!」


 

 どうして、言葉にしたらいいか分からない。


「ほら、やっぱり。自分で認めている。で、自分は生きたいって、結局は生き残っている。他の人はみんな死んだ。普通、よっぽど好きな人が死んだら、生きる気しないよ。ましては、村全員死んで、家族全員死んだ。そんな状況の中、あんたは、生きたいと願って生きている。やっぱり、あんた性格、悪い」


 ユライが一気に言った。私は心が痛くて涙が出そう。


 ミーユは死にたがった。だから、魂が死んだ。

 わ、私は、生きたかった。普通の十八歳のただの学生の私が、まだ生きたいと望むことが、そんなにいけなかったことなの。


ーーミーユ、あなたはどこにいるの?


「オイオイここで泣くなよ。以下にも、俺が泣かしたみたいじゃないか。ダニーに告げ口すんの? 私、悲劇のヒロインって行動すんの?」


ユライがどんどん私の胸に、言葉のナイフを刺す。


「わ、私、な、泣かないわ」


 ついムキになって返事を返す。目元に溜まった涙を拭いて、ユライを睨む。睨むことで、涙が止まるようにした。


「あっそ。俺の話は終わった。だから、コリーとダニーのことよろしくな」



『はっっはっはー、コリーそれってすごいな。俺も見たかったよ』


ーダニー……あなたは、やっぱりコリーといると『俺』って言うのね。


 廊下から、ダニーの楽しそうな声が聞こえる。もちろんコリーの声も。


「ほら、言った通りだろう?」


 ユライがニヤニヤこっちを見て言った。


「ユライと龍姫様、仲良くお話が出来ましたか? 今新しく美味しい紅茶を入れますね」


 コリーが、お茶の準備をする。


「それでミーナとユライは、私のいない間に何を話したのかい?」


ダニーが席についた時に、私とユライを交互に見て言った。


「イヤ、別に対したことないよ。この屋敷のこととか仕事のこととかだよ」


 ユライがアップルパイを食べながら言う。


「そうなのか。ミーナも、これ食べたら残りの屋敷も見学しようか」


「ううん、わ、私、今日は、やっぱり、家へ帰りたい。久しぶりに馬車に乗って、急に疲れてしまったの」


 やっと言葉に言えた。どうしても、目から涙が出そうで言葉に出来なかった。


「大丈夫ですか? 私は少しすませないことがあります。しばらく客室で休みますか?」


 ダニーが席を立って、私の方へ来た。


「ううん、私一人で帰れます」


「それは出来ません。どうしましょう。っあ、そうだ。スカイに乗って帰りましょう。そしたら、すぐです。そして、私もここへまたすぐに戻って来れます」


 ダニーに促されて席を立った。


「龍姫様、まだアップルパイが残っていますよ。やはり高貴な方には、このような庶民の食べ物が嫌いなのですか?」


 コリーが私に言った。


「い、い」


「だろうなあ。龍姫様は毎日高価な食事をしていて舌が相当越えているのだろう」


 私が返事をする前に、ユライが答えた。

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