第29話 夜会 4
「私のせいで、ごめんなさい」
「いいえ。龍姫様のせいではありません。どうぞわたくしなんかに頭を下げないで下さい。これは全て神様のおぼしめしです」
メリエッシが、私に微笑みながら言った。
ーーなんて性格のいい人なんだろう。
性格がいいから返って、私はこの人を不幸にしてしまったことに胸を痛める。以前彼女に睨まれた気がしたのは気のせいだったのかも。
「結婚はどうにかならないのですか?」
なんで、そんなことを聞いたのだろう。
「いいえ、わたくしの父の作った借金の額を返すには、わたくしが男爵と結婚するしかありません」
メリエッシが涙を拭きながら小さい声で言う。
「そ、それでも、他にもたくさんお金持ちの男性がいます」
私が言うことじゃないけど、言ってしまった。
「確かにお金持ちの殿方は何人もいます。でもわたくしにとってもう誰でもいいのです」
「っえ!?」
「わたくしは本当にタケルイ様を愛しております。そのタケルイ様と結ばれないのでしたらどの殿方と結婚しても変わらないのです」
メリエッシが私を見て言った。
「ごめんなさい。私、失礼なこと聞いて」
私はベンチを、急いで立ち上がった。
「いいえ。でも、お願いを聞いて下さい。どうぞ結婚式にはぜひ参加して下さい。龍姫様が来られたら、きっと幸せな結婚生活が出来るかもしれません。お願いします」
メリエッシもベンチから立って、頭を下げた。私はそんな彼女を見て、涙が出そうだった。
「は、はい、必ず参加します。本当に、ごめんなさい」
「今夜こうしてここへ参加してよかったですわ。それではわたくしはそろそろ室内に戻ります。ぜひ約束をお忘れないで下さい」
彼女が言ってバルコニーから建物へ戻った。
私は急に涙が出た。
「ミーナ、どうしましたか?」
私はダニーに抱き付いて泣き始めた。彼は何も言わずに、私の背中を擦う。
「えとね、タケルイの元婚約者に会ったの」
「そうですか。ミーナ、そのベンチに腰をかけましょう。そしてどうぞお話しの続きを聞かせて下さい」
私達はベンチに座った。ダニーは何も言わずに私の話を聞く。
「メリエッシ様には気の毒でしたが、ミーナのせいでも、誰のせいでもありません」
私の話が終わった後に彼が静かな声で言った。
「タケルイが結婚式へ参加するのは、メリエッシ様に失礼なので私がミーナと同伴しますね。一緒に、彼女の幸せを祝いましょう」
とダニーが言ってくれたので頷いた。ダニーがいてくれてよかったと思った。
その後、私とダニーは舞踊会から帰った。少し涙でほっ照った私の顔を見たタケルイが、後は彼に任せて私とダニーで先に戻るように言った。私とダニーは馬車に乗って龍屋敷へ戻った。
舞踊会から何日か経った後もメリエッシのことが気になって仕方ない。彼女がどれだけタケルイのことを愛していたのかと思うと、胸が苦しくなる。
そして美奈としての自分のことを思い出して、さらに苦しくなってしまう。だから私はタケルイと一緒にいるのが彼女に悪くて辛い。ついタケルイがキスを迫ってくる度に拒否をしてしまう。
「ミーナ、メリエッシのことは仕方ないんだ。彼女に悪いと思ってもどうすることも出来ないんだ。私がしっかりしなくてメリエッシを傷付けたが、私はミーナを愛すことが出来てよかったと思っている。どうか私を無視しないでくれ」
私がタケルイを避けている理由をダニーから聞いた後に、彼が言った。
「うん、それは分かっているけど。タケルイ、お願い。メリエッシさんが結婚するまで私も自分の中で心の整理をする時間が欲しいの」
私は、気持ちの整理が出来ていない。
「ああ、分かった。でも、ミーナ。これだけは、忘れないで。私は、ミーナを愛している。ミーナを愛して後悔なんてしていない」
タケルイが真剣な顔で言った。私はタケルイに愛されている喜びと、メリエッシに悪いと言う気持ちでどうすればいいのか分からない。
あの日から私は只一心不乱に織物を織っている。織物のカタンコトンと言う音が龍屋敷に響く。周りの人達は、あまりの私の姿に驚く。クレイさんは、私のことを心配して休憩を促す。私も、私が体を壊すと周りが心配することを知っているからたまに休むようにしているんだけれど。この恋織物を織れば、気持ちが晴れると思う。この恋織物を着てタケルイとダニーと結婚したいと思って、自分の気持ちの整理をしている。 私は織物を織らない時は、ダニーにくっ付いている。ダニーといるとなぜか落ち着くから。 特に今朝は、タケルイと朝の龍訪問が終えた後に言い合いをしてしまった。
「やっぱりタケルイから、メリエッシに会って結婚のこと止めるように言って」
どうしてもメリエッシのことが気になっているのでタケルイにお願いした。
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