第22話 波打つ気持ち 2

「ミーナ?」


 自分の名前を呼ぶ声の方に振り向く。


「ダニー?」


 私の方へダニーが歩いて来る。


「おはようございます。隣に座ってもいいですか?」


 ダニーが、にっこり微笑んで尋ねた。


「はい、どうぞ」


「失礼します」


 ダニーが長い足を組み隣に座る。大人のイケメンと一緒に話す機会なんてなかったから身体が硬直する。


「ご機嫌いかがですか?」


 ダニーは私の顔を見て話すから、彼のエメラルド色の目に見とれてしまう。慌てて目を逸らしたけれど、今度はどこを見ていいか分からない。捉えず地面を見る。


「っあ、はい。いいです!」


「そうですか? なぜか寂しそうにしていましたよ。それに、顔色もあまりよくない」


 ダニーの言葉に驚き彼を見つめた。


「善は急げと、午後に龍騎士の儀式をすることになりました」


「っえ!?」


「驚く気持ちは分かります。まだ私とあなたは会ったばかりでお互いに何も知りません」


 つづけてダニーの柔らかい旋律がつづく。


「この国には二十年間龍がいない状態でした。それで、他国に魔物征伐を頼まないといけませんでした。龍のいない国とは国力が弱まります。この国も他の国より段々と立場が弱くなっていました。龍のいない国は、神に見放された国と言う人達もいます」


 そんな話は知らなかった。タケルイは、彼は、そんなプレッシャーを持って生きてきたんだ。


「だから、この国に龍が存在することは、とても重要なことです。今回は、ミーナのおかげで三匹の龍がこの国に降臨します。神官長を初め、皆一日でも早く二匹目の龍を呼びたいのです。だから、今日の午後に龍騎士の儀式をすることになりました」


 私は只頷いて聞いている。それ以外になんと言ったらいいか分からない。


「ミーナの気持ちも分かります」


「……!?」


 私は驚いてダニーを見た。彼のエメラルド色の目が、寂しい色になっている。


「ミーナは、最近好きな方を亡くされたのではありませんか?」


「ど、どうしてそ、それを?」


「ダニーも誰か好きな人を亡くしたの?」


 ダニーが、はっとした顔をする。


「いいえ恥ずかしい話ですが、生まれてこの方誰かを好きになったことがありません」


「じゃあ、どうして私に誰か好きな人を亡くしたと聞かれるのですか。私の顔にそう出ていますか? そんなに簡単に分かりますか?」


「いいえ、違います。私は龍姫様のことを聞いておりましたので、昨日初恋のことを聞いた時に確信をしました」


「私のことを聞いている?」


「ええこれは国民皆、龍姫様に興味があります。龍姫様の村が魔物で潰れたことを知っております。龍姫様が織り手様と言うことも」


 この国では、やっぱり龍姫と言うのは有名な人だから、すぐに情報が広まるんだ。


「ええ、龍姫様はお綺麗な方、そのような方にお相手がいないと言うことがありません。ましては、成人している身。好きな方を亡くされましたか。昨日話していた初恋の方ですか? もし私でよければお話をして頂きたいです。それでミーナの心が少しでも落ち着くのでしたら、ぜひ話して頂けませんか?」


 ダニーの言葉を聞いて涙が零れてきた。


「私は確かに愛した人を失いました。私は、家族も友達も全員、失ってしまいました」


「ぶっしつけに質問をしてすみません……」


 ダニーが私の肩を抱き寄せた。


「どうぞ泣いて下さい。私は年上としてミーナを支える人になりたいと思っております。私を頼って下さい。私を家族にして下さい」


 ダニーの言葉を聞いて涙が止まらなくなった。


「家族?」


 私が泣きながら呟くと、


「そうです。私達は家族になるのです。夫となるのは、ミーナが彼のことを整理してから、私のことを好きになってからで構いません」


 ダニーが私の背中を撫でながら言った。


「私を頼って下さい。私のことも知って下さい。私もミーナのことを知りたいです」


 ダニーの言葉がうれしかった。いろんなことがありすぎてこんな風に誰かに甘えたかった。


「はい……よろしくお願いします」


 彼から離れようとしたら強く抱き締められた。


「あっ、あっ」


「もう少しこうしていて、いいよ。ミーナが落ち着くまで、こうしているよ」


 落ち着くまでと言うけれど、この体制は改めて考えると……違う意味で、落ち着きません! なんか心臓の動機が滅茶苦茶、早くなってるよ。ど、どうしよう。この体制はどうも、絶対落ち着きません! 段々ひどくなっている。私を放してくれたら、すぐに落ち着きますよ。


 でもさっきタケルイのことがあって、全然知らないダニーに抱きしめられて安堵する自分もいた。もしかしたらダニーが龍騎士だからかもしれない。

 龍姫と龍騎士。出会ったばかりだけれど、運命と言う名で繋がれた半身。


「ダニーは、結婚相手が私でよかったの?」


 ダニーの心動がリズムよく聞こえる。


「もちろんです。ミーナ、私にはもったいないくありですよ」


「そ、それは、私の姿なの?」


 私は、怖かったけど聞いてみた。


「いいえ。それも確かにありますが、私は商人です。私はミーナの織った恋織物に惹かれました。とても純粋な布でした。これまでに、何個かの恋織物を見てきましたが、ミーナの恋織物は素直で純粋な明るさがあります。私は、そんな物を作れるミーナと一緒に時を過ごせることをうれしく思っております」


 あの恋織物を織ったのはミーユ。ミーユは確かに純粋で、素直で明るかった。皆に愛されて育った。でも私、美奈は……。私は彼の言葉でも、不安になった。


「何か、気に触ることを言いましたか?」


「っえ!? う、ううん……」


 ダニーは、とても敏感な人。


「わ、私は明るい人じゃありません。それに、純粋でも素直でもない……」


 私はどちらかと言うと、大人しい方。下手したら暗いと言われるかもしれない。女の子らしく可愛く素直な性格じゃない。いくら私の容姿が、ミーユの純粋な姿になったとしても、私のこの性格は変わらない。


「私はそう思いません。ミーナは、素直で純粋で明るいですよ。でも、真はしっかりした人。ことがあったので、幼い少女の純粋さとは違います。今から大人の女性になる過程の美しさがあります。それに、私から見たら、ミーナは十分可愛い少女ですよ」


ーー恥ずかしい。


「あっ、はい!」


 なんて答えていいか分からず返事をした……。


「どうぞいつでも私に甘えて下さいね」


「はっ、はい」


 またなんて言っていいか分からず返事をした。


「お前達! 一体何をしている!?」


 タケルイの怒った声がしたので咄嗟にダニーから離れる。

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