第15話 戸惑いの日々
次の日の朝、タケルイにどんな顔で会ったらいいか分からず緊張しながら食堂へ行った。私が部屋に入ると彼は席を立って私の所へ来て左腕を差し出した。
「おはよう。今朝は、気分どうですか?」
彼が笑顔で挨拶をする。
「おはよう。うん、今日は気分がいいです。昨日は……ごめん……なさい。私も楽しかった」
私はあんあまり上手に笑えなかったけれど、きちんと謝ることが出来た。
「い、イヤ、謝ることなんて何もないよ。楽しんでくれて、私もうれしいよ。また一緒に出かけよう。あっ、分かっている。無理にじゃない。形式で誘っているわけでもない。あー、どうして私はミーナの前ではきちんと気持ちを言えないのだ!! すまない。今の言葉は忘れて。
それより食事にしましょうか?」
「はい」
タケルイにリードされてテーブルに着く。本当にたった十歩だけの所を、毎朝タケルイがエスコートをしてくれる。私にはその度に歯がゆい。
クレイさんが私に令嬢としてのマナーを教えてくれるけれど歩き方の一つも難しい。令嬢のマナーの授業は、あまりしたくない。でも、龍姫にはどうしても必要というから仕方なく受けている。何でもこれから龍姫とし国から夜会や舞踏会、祝典などにセレモニーに招待されることが多いみたい。
今はまだ後二人の龍騎士が見つかってないので、私とタケルイはどこにも出席しなくていい。私は残りの龍騎士に出会うのが不安だ。
もしかしたら、タケルイのようにすでに恋人がいるかもしれないと不安になる。私は二度とあんな経験をしたくない。そしてもし恋人がいなくても、私のことを「淫乱」と思われるのでは……。クレイさん、バロンさんや神官長は、誰もそんなことを思わないと言うけれど、タケルイが言った。彼も後でと謝ったけれど。
「龍姫様に三人の龍騎士が付くのは、神の計らい事です。それに対して暴言を発したことをお許し下さい」
でも私の気持ちは晴れない。
タケルイとの食事は国のことを話して意外に楽しい。彼は自分だけ話すのではなく、私にも意見を聞く。
「どうしてそのような発想が出来るのですか。ミーナのいた村では、皆ミーナのように賢いのですか?」
「ううん、私が知っているだけ」
ある日タケルイに聞かれ、私は曖昧に答えた。
「そうですか」
彼もそれ以上はそのことを追求しなかった。タケルイと一緒にいる側近達は、彼の目を盗んで私に話しかけてくる。彼の側近は皆若く洗練された上級社会の貴族の坊ちゃんばかりだ。全員モテるイケメン。イケメンだけれど皆この国をいい国にしようと言う待望を持ち、私へ国の仕組みなど聞く。
つい私は日本で習った政治などの話をした。
最近私の面会は、タケルイだけじゃなく王様を始めた大臣達も来るようになった。そして私に国の政治について質問をしてくる。私は受験勉強で頑張った社会のを思い出しながら返事をする。いつの間にか討論になってしまい夜になることもあった。そんな時、皆一緒に夕食を食べる。クレイさんや神官長やバロンさんに悪いと思って謝ったら、
「ミーナ様の知識は神から預けられた物です。どうぞたくさんの人へその知識をお与え下さいませ。それにこうして国王と神官が仲良くすることは国にとってもいいことです」
と言ってくれた。私も人と触れ合うと、悲しかった過去を思い出さないですむ。
「あ~あ、父上やいらん人達が、私とミーナの貴重な時間を奪っていく~」
と、国王達が来る度にタケルイが嫌味を言った。
「オイオイ、龍姫は皆のものだぞ」
と王様も言い私の手を握るとタケルイが王様から私の手を奪い取り、王様と反対の席へ座って王様を睨む。その度に側近達が笑う。
そんな明るい時間だけれど、私はいつも不安だった。
ーータケルイは、婚約者と過ごさなくていいの。どうして私を恋人のように接するの……。
いつも不安な気持ちと戸惑う気持ちがあった。
ーータケルイには、婚約者がいるから、好きになったらいけない。
私はいつも自分に言い聞かせている。
ーー龍姫と龍騎士のせいで、人を好きになりたくない。
食事の後に毎回サファイアを撫でるために庭へ行くのが日課になった。食堂からは庭に出れないので廊下を出て玄関から行く。タケルイの腕に手を搦めて歩き、私達が歩く度に使用人達が止まってお辞儀をする。タケルイははじめその人達をまるで空気のように接していた。
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