第10話 ファースト キス
「龍姫様。この度のお詫びをしたいのですが、なんでも欲しい物を言ってください」
王様がこちらを伺いながら尋ねた。ドレスや宝石など神殿でも一生毎日違う物を着れるだけ用意されている。
クレイさん達、神官たちも毎日なにか欲しい物がないか聞いてくる。その度になにもない、と返事をした。
だから皆私がそう返事をすると思っていたらしく、私が返事をした時にう驚いた顔をした。
「恋織物を何点か見たいです」
「恋織物? そうか恋織物を欲しいのか? そうか、そうだな。全ての花嫁は、恋織物で婚姻を結びたいものだな」
王様が納得して言う。
「いいえ、欲しいのではありません。私は自分で恋織物を織ります。只見たいのです」
「恋織物を自分で織るとは?」
周りがザワめく。
「静まれ! 龍姫様は恋織物の織り手。先月滅びた幻の村と呼ばれている村の生き残り」
『……』
「そ、そんな」
「何という神のおぼしめし」
何人かの神官が跪いて私を拝む。恋織物。最初の由来が、初めての龍姫が誕生して魔物に殺された恋人を思って作った織物が、恋織物だったと言われている。
その龍姫が後に新しい恋をして結ばれた時に龍が誕生したと言う言い伝えがある。だから、恋織物は特別な物で、あの村も特別な所だった。
「もう一度お母さんと皆が作った恋織物を見ておきたい……。よろしくお願いします」
ーーきっと、またあの恋織物を見たら、自分の気持ちの整理が出来ると思った。
その後に龍騎士の儀式をした。婚姻を龍神像の前で誓う。龍姫が龍神とキスをすれば成立する。私のファーストキスはとても寂しくて涙が出た。
「ごめん」
王太子が私の口に触れた後に小さい声で呟く。この儀式には男爵令嬢はもちろんいない。
キスをする王太子は、格好良かった。でも、私のことを淫乱女と思っている、と知っているから相手を見れなかった。私のファーストキス。下を見て泣いた。右手で口を抑えて泣いた。私の中に、ミーユがカイシとしたファーストキスの場面が流れてくる。
ーードキドキしてハニカンダ、幸せな味。ミーユが幸せなキスをしてよかった。
『キュ~ン』
外で、甲高い声がする。
「龍だ、龍様が我が国にお越しになったー」
「龍だ。龍姫様、龍騎士様が誕生したー」
「めでたいことだー」
外から大きな喜び声がする。歓喜の声が室内まで聞こえた。
「龍騎士様、龍姫様、龍様にお会いになりに外へ行きましょう」
神官長に言われ、私達は外へ行く。王太子が私へ腕を差し出したけど、私は「ビックッ」として、後ろへ一歩下がった。それを見た王太子が悲しそうな顔で私を見つめる。
「ミーユ様のエスコートは俺の仕事と決まっておる」
バロンさんが笑顔で私の手を触り、自分の腕に絡めて歩き出す。私も涙が止まってつい頬が緩む。
私達のやりとりを見ていた王太子は、何か言いたそうだった。
外にはたくさんの人達が、空を飛んでいる龍を見上げて感嘆の声を出している。私達に気づき道を開けて、頭を下げる。王太子が広い神殿の広場に立つ。
「龍様、ここへ」
空から堂々と龍が降りて来た。私もミーユも龍を始めて見る。その龍はサファイア色をしている。太陽の光に反射してキラキラしていて、とても綺麗。
『キュ~ン』
広場に舞い降りた龍は一軒家くらいの大きさ。
「ち、小さい」
誰かが言った後、周りがザワめく。
「ど、どうして小さいんだ?」
「静まれー」
神官長が叫んで、周りが静まりかえる。
「この龍は、今誕生したばかり。これから龍姫様と龍騎士様の愛情で大きくなるのだ。大きさより、その美しさをみたまえ」
「ええ。隣国の龍は百五十歳ですものね」
「隣国の龍は確か黄色だと聞いたぞ」
「それにしても、綺麗な色」
「龍姫様の目の色と同じらしいぞ」
「龍姫様と龍騎士様が愛し合えば、きっと龍様もすぐに大きくなるさ」
神官長の声を聞いた後に周りがそん言った。
私はまた寂しくなった。私と王太子とは、愛をはぐくまない。そうなると、この龍は小さいまま。この龍がなぜかとても愛おしい物だった。
『キューン』
龍が泣いた。王太子が龍を撫でたら、可愛くその龍が王太子に甘えた。しばらくして龍が私の方を見てる。
「ほら、撫でてあげないか?」
バロンさんに言われて私は、龍を撫でるためにそっと近づく。大きいのに、私は怖くない。
「あなたの名前は、サファイア」
私の口が勝手に言う。
『キューン』
龍がうれしそうに私に擦り寄り、甘えるので撫でてあげた。そんな私に、王太子が、
「龍姫様、龍に乗って空へ行きませんか? 大丈夫です。私も乗りますので、落ちません。不思議なもので、私には龍の乗り方が分かります。サファイアの気持ちも分かります」
と、話かけてきた。私にも、サファイアの気持ちがすんなり入ってきた。
『キューン』
サファイアも私に乗って欲しいみたいで、顔を私にスリスリしてくる。私は高い所が平気な人。ジェットコースターとか好きだけど、彼と一緒に相乗りをすると思うと乗りたくない。私はどうしようと思って、周りを見渡した。
ーーっあ!
王太子の婚約者の男爵令嬢が、人垣の中から私を睨んで見ていた。体が震える。嫉妬の目だ。
ーー怖い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。