第3話 賭博場です!

「世にも奇妙な不思議な出来事!皆さんどうぞお立ちより!絶対に損はさせません!きっと満足させて見せましょう!」


 俺達はエンターテイナーのマジックショーに足を止めていた。

 そのマジシャンはトランプを使ったマジックで場を盛り上げている。


「トランプなんてのがこの国にもあるんだな」

「しかもプラスチックのようにつるつるです。あれだとマジックもしやすいでしょうね。いったい何でできているのでしょうか」


 しかし、俺と奏はマジックよりも、その道具であるトランプの方に目がいっていた。


「スライムの粘液を加工すると柔らかいガラスみたいになる。というか、渉も奏もマジックの方には驚かないの?」

「マジック自体は結構知っているからな。向こうでも結構見ていたし、タネも分かる」

「ですね。比較的簡単な物ばかりです。見たことがないものは素直にすごいと思えるのですが」


 マジックのようなものに嵌まる時期は誰でもあるだろう。

 日本では種明かしなんてネットを見ればすぐに分かってしまう。

 大抵見たことがあるものばかりなので、心の底から凄い!と思えるものでもなくなってしまっている。

 素直に驚ける方が見ていて楽しいと思うが、タネを知っていると面白さは半減だ。


 マジックショーが終わり、心づけとしてマジシャンハットに硬貨が投げ入れられる。

 俺達もそれに混ざり銀貨を一枚投げ入れたら、そのマジシャンから物凄く感謝された。

 心づけとしてはかなり多かったらしく、次からは銅貨にして注目を浴びないようにしようと心に決める。


「というより、兄さんなら本物の魔法で荒稼ぎできるんじゃないですか?瞬間跳躍ワープなんて使えると思うのですが」

天空翔破フライも凄そう」

「確かに稼げるかもしれないが、俺は冒険者の方が気も楽でいい。大変ではあるが、魔物を狩れば皆も安心して生活もできるからな」

「渉らしい」


 俺達は適当に雑談しながら何かないか散策する。

 アクロポリスは落ち着いた空気が魅力だが、この街はお祭り気分で歩いているだけで楽しめる。


「お、賭場なんてものもあるのか」


 俺はある看板に目をつけ、少し興味がそそられる。

 この国にはトランプもあるし、ブラックジャックやテキサスホールデムのようなものでギャンブルを行なうのだろうか。


「ギャンブルはどの街でも一大産業。アクロポリスにも一応ある。けど、ここのギャンブルはどの国よりも発展してる」

「という事は俺が知らなかっただけか」

「私も少し気になりますが、ギャンブルはいけませんよ」

「分かってるよ。だが、少し見るだけならいいだろう?」

「まぁ、見るぐらいでしたら」


 奏にやんわりと止められたが、俺はどんなものが行なわれているか気になり、店へと入っていく。


 入場に一人銅貨10枚を請求されたが、楽しませてくれるならさっきの心づけと変わらない。


 中は表より人数は少ないものの、やはり多くの者達で賑わっていた。

 いたるところから歓声と嘆声が聞こえ、ギャンブルに熱中している姿が見て取れる。


「外とは違った熱気がありますね」

「お金を賭けてるから。誰も負けたくない」

「そうだよな。勝てるに越したことはない」


 この中には遊びで金を投じる者、人生をかけて金を投じる者もいるのだろう。


 テーブルを見て回ると、トランプ、サイコロ、ルーレット、キノと呼ばれる宝くじのようなギャンブルまで揃っている。

 見た所トランプはブラックジャックやテキサスホールデムもあるようで、知識を生かせば勝つこともできるかもしれない。


 サイコロ、ルーレット、キノは運要素が強いが、トランプは心理戦と自分の実力も関わってくる。

 やるならブラックジャックがいいなと思いながら俺達はテーブルを見て回り、あるテーブルで立ち止まる。


「申し訳ありません。私のブラックジャックですね。総取りさせていただきます」


 そこではブラックジャックが行なわれており、エルフの女性ディーラーがブラックジャックを決め、プレイヤーが落胆しているところだった。


「ディーラー側のブラックジャックは辛いな」

「あれは勝てない」


 俺達は同情しながらそれを見ていると、ある一人のプレイヤーが頭を抱えて呟いた。


「くそ、昼からやっていて何度ブラックジャックで上がるんだ。幸運の女神フォルトゥーナの異名は伊達じゃないって事か……」


 嘆きたい気持ちも分かるが、ブラックジャックとはそういうものだ。


 初手でブラックジャックが揃う確率は約4%強もあり、三枚目、四枚目と引けばブラックジャックの確率は理論上あがるのだ。

 1/20が1/10にもなり、負けていればディーラーのブラックジャックも目につくようになる。

 いくら嘆いても仕方ない事だろう。


『渉様。あのエルフの女性、イカサマをしていると思われます』

『イカサマ?』


 ヴェーラの言葉に、俺はなくなったカードをシャッフルし、ゲームを再開しようとする女性に懐疑的な目を向ける。

 その女性は新たにカードをセットし、新たな挑戦者がいないか呼びかけていた。


『どんなイカサマだ?』

敏捷強化クイック・アップの魔法で動体視力を底上げしました。彼女のカードを配る手にご注目ください』


 俺はその手の動きを見ていると、左手に持つトランプの上部が一瞬動き、右手でカードを配っているのに違和感を持った。


『配るトランプをすり替えているのか?』

『その通りです。上部のカードは渡さず、その下のカードを渡しています。相手に有利なカードを送らないためでしょう』

『という事は、あのディーラーは次に来るカードが分かっているって事か』

『そう思われます』


 金を賭ける場でよくそんな事をできるなと思うが、動体視力を上げてもギリギリ捉えられるかどうかのスピードだ。

 おそらく、絶対にばれない自信があるのだろう。


『ヴェーラ。あれに対して大勝することはできるか?』

『できます。このゲームの間、カードが尽きるまで全てのカードの動きを追ってください。そうすればどこにどのカードがあるか把握できます』

『よし。ならやってやろう』


 金銭の飛び交う場でイカサマなど言語道断だ。

 一方的に搾取されているのを見て、放っておくことなどできない。


 俺は奏とリアの手を取り、精神伝達テレパシーでディーラーの事を伝える。


『まさか。堂々とイカサマをしているなんて』

『卑怯』

『店側としては儲けがないと破綻するからな。だが、イカサマはイカサマだ。向こうがやるというなら、こっちも同じようにやってやろうじゃないか』

『ヴェーラの力を借りる、という訳ですね』

『その通りだ』


 俺はカードを追いながら二人に告げる。


『三人で荒らしてやろうこの卓を。イカサマなんてしようと思わないぐらい徹底的に』

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