第51話 時間稼ぎ
「
俺は
親衛隊を相手取っていた亜種はこの魔法によって俺の存在に気付き、一目散に俺に対して向かってくる。
敵対心はうまく稼げているようだ。
「奏は負傷者への救護と非難を優先しろ!特に王女は最優先だ!」
「はい!」
「リアは俺と共に亜種の足止めだ!行くぞ!」
「行く」
俺達は散開し、それぞれの役割に移る。
『ヴェーラ、
『イエス、マイマスター』
俺は亜種の瘴気にあたる寸前で瞬間跳躍をし、フェルティナたちのいる街道から離れるように森の中へ入っていく。
亜種の目標は完全に定まっており、攻撃を外した後も狂ったように俺へ向かってきている。
牽制に俺は銃弾をまき散らすが普通のワイバーンよりも固いのか、銃弾はものの見事に弾かれていた。
「渉、亜種の周りの空気は腐ってる。吸い込みすぎると体が動かなくなるから、近づくのはダメ」
「あの瘴気自体が猛毒って事か」
リアが電撃魔法を亜種へ放ちながら忠告してくる。
ギリギリまで引き付けるのは、亜種の放つ毒にかかる危険があるからやめろという事だ。
亜種に近づけず遠距離攻撃しかできないとなると、リアとしてはやりづらい事この上ないだろう。
電撃魔法はあまり効果がないようで、雷に対する耐性がかなり高いようだ。
「リア、前にやったことを試したい。ダヴィードと戦った時のものだ」
「雷と銃の弾?」
「それだ」
あの時、リアの魔法と俺の放った銃弾が重なり合い、疑似的な
その威力はダヴィードを一時的に戦闘不能にさせるほどの威力で、それ以降であれ以上のダメージは与えることが出来なかった。
リアによる最大火力の電撃魔法と俺の銃弾が合わされば、もしかしたらあの装甲にも穴を空けることが出来るかもしれない。
「やる」
そういうと、リアの周囲にバチバチと稲妻が走り始めた。
魔素を高めて威力の向上をすると、周囲に漏れ出した魔素が使用する魔法の現象を引き起こす。
ただ、ここまで激しい放電現象は初めてで、リアがどれほど威力を高めているのかが窺える。
「渉、3数えたら魔法を使う。合わせて」
「了解」
俺は
「3、2、1、撃つ!」
「応!」
カウントダウンに合わせ、俺とリアは電撃魔法と弾幕を放つ。
威力の上がった電撃魔法は亜種の身体を覆いつくし、その威力には亜種も耐えられなかったのか、苦しそうな声を上げながら動き続けていた足が止まった。
そんな電撃が亜種の身体を駆け回る中、それに続くように俺の弾丸が到達する。
ダヴィードの時と同様、電磁弾となった弾丸は亜種の装甲を貫き、初めてまともなダメージが入った。
しかし、それだけでは全く足りず、少し怯んだだけで再び亜種は俺達に対して突進してくる。
「これでも効かないなんて、どれだけ固い装甲をしているんだこいつは」
「普通なら装甲を剥ぐまでにもっと時間がかかる。その装甲を貫けただけでも、十分凄い事」
俺達は亜種を牽制しながら、森の中を駆け回る。
森の中は木々が生い茂り、巨体な亜種にとっては障害が多い。
それに引き換えこちらは逃げやすく、その差のおかげで時間稼ぎが上手くできている。
「装甲を剥ぐために何をするんだ?魔法は全然効かないだろう。毒のせいで近づくこともできないし、どうやったら装甲が剝がれるんだ」
「魔法が全く効いてないってわけじゃない。休みなく魔法でダメージを与え続けると、本当に少しずつ装甲にぼろが出てくる。その隙をついて、装甲を剥がしていく」
「休みなくって、何時間やり続けるんだ?」
「一週間ぐらい」
「参考にできそうもないな」
俺は苦笑いをしながら、空になった弾倉に弾を込める。
だが、そこまでしないと攻略できない装甲を貫けたのは大きい。
これを繰り返していけば、足止めも何とかできそうだ。
『奏、そっちの状況はどうなってる?』
俺は
『負傷者の回復がもう少しで終わります。フォルテスとタルナーダパーティーも合流し、首都に向け王女様の馬車を走らせる用意をしているところです。避難開始まであと五分から十分といったところでしょうか』
『周りもそれに合わせていけそうか?』
『問題ありません。それで、兄さんとリアは?』
『こっちも問題ない。森の障害物のおかげで時間稼ぎは出来ている。避難開始までの時間稼ぎなら余裕そうだ』
『危なくなったらすぐに逃げてくださいね。では避難が始まったらまた伝えます。お気をつけて』
『ああ。よろしく頼む』
奏の方は順調に避難準備が進んでいるらしい。
この調子なら、何の問題もなくフェルティナを逃がすことが出来る。
「リア、もう一度電撃いけるか?」
「いける」
「頼む」
リアが再び電撃魔法の威力を高めに入る。
しかし、亜種もそれを理解したのか、口を大きく開きブレスを吐き出してくる。
そのブレスは普通のワイバーンと違い、炎ではなく毒々しい紫をしたものだ。
その吐息に触れた植物はみるみる枯れ果て、辺りをどんどん侵食していく。
「リア!こっちへ!」
「っ!」
リアは魔法を解き、俺の元へ向かってくる。
ブレスより少し遅い、ギリギリ巻き込まれるか巻き込まれないか瀬戸際の回避行動。
俺もリアの方へ走り、一刻も早くリアとの接触を図る。
その甲斐あってか、リアは何とかブレスに触れることなく俺と接触することが出来た。
『瞬間跳躍』
ヴェーラの唱える魔法で俺達の景色は変わり、亜種の背後へと回り込むことに成功する。
「リア、電撃魔法だ!」
亜種は俺達を見失い、その場に留まって辺りを見回している。
この隙を逃すわけにはいかない。
俺達は息を合わせ、亜種に魔法と弾幕を送り出す。
亜種がこちらに気付いた時にはもう遅く、その身には電撃と電磁弾が降り注いだ。
亜種の悲痛な咆哮が辺り一帯に轟くが、やはり致命傷になるまでのダメージは与えられない。
だが、着実にダメージは与えられている。
この調子でフェルティナたちから距離を取りつつ戦闘をしていけば、必ず逃げ切ることが出来る。
亜種の存在を知ったときは絶望的ではあったが、これなら何とかなるかもしれない。
俺達は逃げながらも亜種の相手をできていることに、一つの希望を見出していた。
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