第42話 護衛依頼が始まります!
「お前、いったい王女様に何をしたんだ……わざわざ降りてきて蹴るだけ蹴って帰っていくなんて初めての事だぞ……」
「誰でもよかった、と言うわけではなさそうよね~。迷わずに渉君に向かってきていたし」
「兄さん、大丈夫ですか?」
何が起こっているか理解できない二人に加え、奏が回復魔法をかけながら背中をさすってくれる。
馬車を降りたと思ったらいきなり蹴りをかましてくるなんて、何を考えているんだあの王女は。
「ああ、大丈夫だ。だからリア、抑えてくれ」
俺は少しせき込みながら、隣でいきり立っているリアに何もしないよう言って聞かせる。
「でも」
「いいから。ここでリアがフェルティナに危害を加えたら取り返しのつかないことになる。今は単純に獣人を嫌っているだけだが、下手をすれば一生埋まる事のない深い傷になる可能性だってあるんだ。だからリアからは絶対に手出ししないでくれ」
「……分かった」
リアは渋々といった様子で俺の願いを聞き入れてくれた。
垂れさがる可愛らしい猫耳を見て、俺の中で今の出来事も少し緩和された気がする。
それにしても、いきなり蹴りつけてくるなんて、よほど前回の事が気に入らなかったのだろうか。
やるにしてもこんな大勢の前でやっては欲しくなかった。
護衛任務の前だというのに、周りでは動揺が広がっていて士気が落ちている。
任務を遂行する上で、これはあまりよろしくない
「オスマン。実はフェルティナとは喧嘩別れする形になっていてな。多分、その時の事を思い出してやったんだろう。だがこれはいつもの事だ。気にするなと皆に伝えてくれ」
「王女様と喧嘩なんて、思った以上に喧嘩っ早い無謀者だな」
オスマンは苦笑しながら立ち上がり、皆に大声で伝聞する。
「こいつは王女様と喧嘩をするほど
オスマンの言葉に、動揺していた冒険者達が一斉に動き出す。
雰囲気も先ほどまでとは打って変わり、戦闘モードに入っている様子だ。
「これでよかったんだよな?」
「ああ、助かる」
俺が誇張した部分がさらに誇張されはしたものの、王女が悪いという印象は拭えたはずだ。
そういった部分も汲み取って伝えてくれるオスマンは、やはり優しいのかもしれない。
オスマンとタティヤーナは、護衛依頼の為に周りに指示を出し始めた。
本格的に、俺達の任務が始まるのだ。
「渉。ありがとう」
俺も動くために立ち上がると、なぜかリアから感謝の言葉を贈られた。
自分の暴走を止めてくれたことに関する感謝だろうか。
「こうなったのには俺に責任がある。リアに感謝されるような事じゃないぞ?」
「でも渉は私の為に止めてくれた。それに、渉が私の為に王女様と言い合ったのは知ってる。私がいいように言われてるとき、渉がこんなもやもやした気持ちだったのも分かった。そういうの全部含めて、ありがとうって言いたかった」
「……そんな気にすることじゃない。仲間の為に動くのは当然の事だ」
リアのド直球な言葉に、俺は少し照れてしまう。
リアの言葉は全て素直で、心の底からそう思っているという事が伝わってくる。
感謝する事、される事は多くあるが、ここまでストレートに感情が伝わるのはなかなかない。
心に響く感謝という物に慣れていなかった俺は、ついつい捻くれた返しをしてしまった。
感謝を素直に受け取れないなんて、俺は随分狭量なんだなと思ってしまうのだった。
「兄さん、照れてます?」
「照れてな……いや、照れてるな。こんな気持ちは久々だ。すごく嬉しい」
奏の問いかけに否定しそうになるも、俺は素直に自分の気持ちを吐露する。
ここで素直になっておかないと、感謝もろくに受け取れない人間になってしまいそうだ。
感謝することは当然ながら、それを受け取るのにもその人間の器の大きさが現れる。
どうせなら器の大きい人間でいたいと思うのは普通の事のはず。
だからここは素直になるのが一番だ。
「ふふ。じゃあそんなリアの為に動きましょう。護衛も大事ですが、獣人と王女様を仲良くさせるのも任務の一つです。頑張ってフェルティナ様に獣人の良さを理解してもらいましょう」
「私もできる事はする」
二人から任務に対する意気込みが見え、モチベーションが上がったのを感じ取る。
二人と同じで、俺も今のでやる気が出てきた。
「よし!初めての護衛依頼だ!気合を入れていこう!」
「「おー!」」
気合を入れなおした俺達は、初めての護衛依頼に向け、威勢よく動き出したのだった。
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